バイエルン州はEUに先駆け2040年にカーボンニュートラルを達成へ ~水素社会に向けたロードマップを発表~
(文責:青木 翔太)
2022年4月25日、ドイツのバイエルン水素センター(Zentrum Wasserstoff. Bayern :H2.B)はバイエルン州の水素戦略に基づく「水素ロードマップ」を発表した。※1 H2.Bは、バイエルン州の水素経済を成長・推進するために、産業界、研究機関、地方自治体などのステークホルダーネットワークとして2019年9月に設立され、情報交換や実証プロジェクトの実施など州内の全ステークスホルダー間の調整役を担う中枢機関である。バイエルン州水素戦略では、①イノベーションとテクノロジーでリーダーシップを追求し、州登記企業のグローバル市場における可能性を開発、拡大すること、➁水素のコスト低下と収益性向上への道として産業規模拡大を加速させること、③輸送と産業における水素利活用の加速と水素インフラの拡充、という3つの柱が主要目標となっている。
今回発表された水素ロードマップは、州内における水素の需要と供給の見通しを示すとともに、水素経済を加速させるための計画を策定している。本ロードマップにおける重要なポイントを以下に示す。
・バイエルン州における水素及び水素を利用した合成燃料(e-Fuel)由来による電力需要は、現在の年間約5TWhから2030年には約10TWh、2040年には約33~75TWhに拡大する可能性がある。
・急速に増加する水素需要に応えるために、バイエルン州は中長期的に水素の輸入に依存することとする。
・現在進行中の欧州とドイツ全土を結ぶ水素パイプライン計画において、バイエルン州は2035年にパイプラインに接続する予定となっているが、H2.Bはこの計画を5年前倒しにして2030年に接続を行う必要性を指摘した。
・バイエルン州で水素を製造するために必要な電気分解能力は、他地域とのパイプラインの接続状況に大きく依存する。2030年に水素パイプラインが接続すれば、州内で年間0.3~1.7GW、従来の計画どおり2035年に接続すれば、年間3~10GWの電力容量が必要になる。この前提であれば、バイエルン州には2025年までに少なくとも300MW、2030年までに少なくとも1GWの水素製造電解装置が設置される予定となる。
・2025年までに、州内の公共交通機関で燃料電池バスを500台、燃料電池トラックと合成燃料トラックを500台導入する。
・州内の水素ステーションの設置を更に拡充する。
現在、ドイツの水素需要に必要な電力は年間約55TWhで、その大半が化石燃料由来であることからグレー水素となっている。バイエルン州水素戦略公表の1ヵ月後に発表されたドイツ国家水素戦略※2では、長期的視点における持続可能なエネルギーは再生可能エネルギー由来のグリーン水素と明示している。ただし、ドイツのエネルギー供給インフラは欧州との結びつきが強いことから、ドイツは欧州で利用されるCO2回収・貯蔵プロセスの過程で生成されるブルー水素についても、市場形成過程において短中期的に利用する可能性があるとしている。カーボンニュートラルの達成をドイツ政府や欧州より先駆け2040年を目標とするバイエルン州は、州内で不足する水素をグリーン水素の輸入でカバーするという野心的な目標の達成を示している。この実現にはドイツをはじめとする欧州の再生可能エネルギーのさらなる拡大が必要になるだろう。
バイエルン州は、ドイツ国家水素戦略支持しているが、水素セクターにおいてドイツがグローバルに主導的立場を長期的に確保するには、より決然とした行動を大規模に実行するべきであると指摘している。今後、同州はドイツ政府に対して、州内の産業力を利用した水素利活用のための研究環境と先進的な水素技術・製品を提供することに注力していく方針だ。
参考資料
※1 The Center Hydrogen.Bavaria
※2 The National Hydrogen Strategy(The Federal Government)