ドイツにおけるバイオディーゼル/HVOの使用量は過去最大に
~バイオディーゼルの混合比率は8.4%に~
(文責:青野 雅和)
ドイツの連邦経済輸出管理局(Bundesamt für Wirtschaft und Ausfuhrkontrolle:BAFA)によると、2023年8月のバイオディーゼル/HVOの使用量は前月比で大幅に増加している。2023年8月のディーゼル燃料へのバイオディーゼル混合量は23万3,000トンと、前月比で約2.5%増加しただけでなく、2023年3月以来の最大量となった。混合比率は8.4%となっている。
図1 バイオディーゼルの累積消費量(単位1000t)
出典:BAFA
図2 月毎のバイオディーゼルの消費量とバイオディーゼルの混合率
出典:BAFA
図1を参照してほしい。2023年のディーゼル燃料に混合されたバイオディーゼルおよび水素化処理植物油(HVO)のデータは上記折れ線グラフの紺色が該当するが、1月から8月までは合計173万3,000トンであった。この数値に基づき、ドイツの油脂・蛋白質植物振興連盟(UFOP:Union zur Förderung von Oel- und Proteinpflanzen e. V.)は、2023年の総消費量は約255万2,000トンになるだろうと見積もっている。
UFOPは、温室効果ガス割当義務を2022年度の7%から8%に引き上げたことが、ドイツのバイオディーゼル商品チェーンの犠牲を払ったとはいえ、バイオディーゼル需要の安定につながったと指摘している。温室効果ガス割当義務とは「Greenhouse Gas Quota in the Federal Emissions Control Act(連邦公害防止法:BImSchG)」を指しており、エネルギー税制の一環として、2007年に導入された制度である。燃料販売企業は全燃料のうち、数割をバイオ燃料で販売することが義務付けられている。⽬標未達の場合は、0.47ユーロ/kgCO2分の罰則が課される。2007年当初の温室効果ガス割当義務は3.5%だったが、2030年までに25%に引き上げられる予定である。
さて、紹介した温室効果ガス割当義務は2024年に9.25%に増加する。後述する2023年初めからパーム油ベースのバイオディーゼルやHVOのクレジット化が考慮されなくなることを補うかもしれない。EUはパーム油の生産によって森林破壊が進行していることを問題視し、2030年までに、パーム油を混合したバイオ燃料の輸入の禁止に向けた調査を2023年7月に開始している。パーム油が重要な輸出商品であるインドネシアやマレーシアはこの決定に反発しており、中国経由でEUに輸出している。ドイツを含むEUは中国経由でのパーム油を混合したバイオ燃料の輸入を問題視している。どのように収斂していくのであろうか。
ドイツのバイオディーゼルの供給量は今後も増加していくであろう。UFOPは、ディーゼル燃料市場におけるバイオディーゼルのシェアが、2020年に割当取引なしで300万トンを超えたことに言及し、BImSchG第10号に従い、ディーゼル燃料におけるバイオディーゼルのシェアを、公共ガソリンスタンドで7%から10%に早急に引き上げるべきであると強調している。
日本では2010年制定のエネルギー供給構造高度化法により、バイオエタノール(ガソリン代替)は2020年度までにガソリン供給量の3%以上を目標としているが、残念ながらバイオディーゼルは同法において言及されていない。その後、同法は2020年にバイオエタノール利用目標の達成のためにバイオジェット燃料を計上可能とすることを規定したが、当時も同様にバイオディーゼルに関する利用目標などは掲げられていない。
現時点では、経済産業省が令和5年の2月に公表した「エネルギー供給構造高度化法に基づく次期判断基準の方針案に対する意見公募手続の結果について」において、バイオディーゼルの利用に関する意見を集約し、政府として回答している。具体的には「リニューアブルディーゼルを含めたバイオディーゼルについては、国際的な 導入動向等を踏まえ導入の在り方を検討していきます。」という内容に留めており、明確な方針や導入目標は言及されていない状況である。
SAFに関しては、世界では既に普及プロセスにあり、HVOはそのSAFの連産品として製造されていることから、SAFの流通拡大に比例して普及していくことは避けられない。また、前述のエネルギー供給構造高度化法でSAFを取り上げているにもかかわらず、HVOは検討の遡上に上がっていないことは残念な結果といえる。日本市場でのHVO普及は進まないが、欧州のモビリティ市場では既に世論に認められている状況である。バイオエタノールはガソリン代替のドロップイン燃料であるが、HVOはディーゼル燃料代替のドロップイン燃料として有効であり、しかも90%のCO2削減が可能であることが大きな一因だ。バイオディーゼルは水素、メタノールと並び気候変動対策に有効な打ち手となる燃料である。最近はマツダやコマツがドイツ市場で製品対応を目的として実証実験を行うことを明言しているし、日本の船舶でも実証実験事例が増加してきた。日本での普及を今後も期待していきたい。