ドイツは2035年に電力供給における脱炭素化を目指し、水素火力発電所の入札を実施へ
~グリーン水素パイプラインの事業化も並行して進む~
(文責:青野 雅和)
■2035年迄は多様な水素を利用し、水素火力発電所も3つの類型へ
ドイツ政府は7月26日の発表で、国家水素戦略ではグリーン水素が拡大するまでは、ブルー、ターコイズ(メタンの熱分解による水素)、オレンジ(廃棄物由来の水素)を利用していくと示しており、最終的にはグリーン水素を利用する方針である。また、8月1日には2035年までに最大23.8GWの水素火力発電所の入札を実施すると公表した。スプリンター、ハイブリッド、H2対応の3種類を予定している。特徴と予定容量は以下の通り。[ⅰ]
① スプリンター:グリーン水素を燃料として発電:8.8GW
② ハイブリッド:スプリンターに蓄電池を加えたシステム:8.8GW
③ H2対応:現在は天然ガス火力発電所であるが、2035年迄にグリーン水素火力に転換する発電所:15GW
現段階では具体的な入札の詳細は不明であるものの、グリーン水素の調達ネットワークが構築されるまでは、天然ガス発電を利用し、2035年の電力供給の脱炭素化を目指す道筋を示したこととなる。
■北アフリカまで繋がる水素パイプライン
ドイツでは自国のみでのグリーン水素の調達は難しいとの判断から、「H2Global 」と名付けられたプロジェクトで水素由来製品の国外からの調達を昨年から展開しており、グリーンアンモニア、e-メタノールとSAFの入札が行われている。
また、各国からのグリーン水素調達を可能とする、ネットワーク構築も推進されている。弊社の6月23日のNEWSでバイエルン州での水素パイプラインのプロジェクトを紹介したが[ⅱ] (バイエルン州の新規CO2パイプライン計画でドイツのCO₂ネットワークは更に拡大へ ~水素とともに南北の輸入基地計画とパイプラインは整備されていく~)、この南バイエルンに繋がるルートは北アフリカ迄到達することなりそうだ。
4月9日にオーストリア、ドイツ、イタリアのエネルギー省が「SoutH2 Corridor」と呼ぶ、北アフリカ、イタリア、オーストリア、ドイツを結ぶ全長 3,300 km の水素パイプラインのプロジェクトの共同書簡に署名した。
本プロジェクトではイタリアのスナム、ドイツのバイエルネット、オーストリアのトランスオーストリアとガスコネクトオーストリアのガス企業が参加を表明しており、全体の70%以上を既存のパイプラインを再利用する予定としている。デリバリーする水素は、グリーン水素250万t/年であり、2030年の完成を目指している。(参照:図1 SoutH2 Corridorのパイプラインルート)
図1:SoutH2 Corridorのパイプラインルート
出典:https://www.south2corridor.net/
また、ベルギー政府は2028年までにドイツと水素パイプラインを繋ぐために2億5千万ユーロの公的資金を投入することを承認した。ベルギーには570kmの水素パイプラインがあり、フランスとオランダに接続済みである。ドイツに接続されるとオランダ、ベルギー、ドイツで1,200kmの水素パイプラインが完成することとなる。
■アンゴラからグリーンアンモニアを調達
陸送ではないが、南アフリカのアンゴラでグリーンアンモニアを製造することが4月に公表されている。ドイツのエンジニアリング会社Gauffと投資会社であるConjunctaが アンゴラの国営石油会社であるSonangolに支援するプロジェクトである。2GWの水力発電所のうち、400MWを水電解水素製造装置に割り当て水素を製造。これを首都のルアンダから30kmにあるバラ・ド・ダンデ海洋ターミナルでグリーンアンモニアを製造し、同港からドイツに2024年に輸出する計画である。
ドイツでは脱原発を進め、その代替策として着実に水素火力発電所を展開していく動きが進んでいる。紹介したように、水素の調達と輸送のサプライチェーンも推進されているが、これにガス会社も追従出来ているように見受けられる。ドイツ国内でも水素推進はバブルであると批判するアナリストも存在するが、確実に燃料転換は進みつつある。
[ⅰ]
[ⅱ]