漁業・養殖業におけるエネルギー転換を目指す欧州
~欧州委員会は施策内容On the Energy Transition of the EU Fisheries and Aquaculture sectorを公表~
(文責:青木 翔太)
2023年2月21日、欧州委員会(EC)は欧州の漁業・養殖部門のエネルギー転換に関する政策文書「On the Energy Transition of the EU Fisheries and Aquaculture sector」を発表した。※1ECは今回の発表に伴い、欧州の漁業・養殖部門におけるエネルギーの現状について言及している。ECによると、現在、欧州の漁船の大半がディーゼル(軽油)を燃料としており、両部門が化石燃料に大きく依存しているとしている。また、2022年には漁船用ディーゼル燃料の平均価格が2021年に比べて2倍以上になったことで、多くの漁業者が操業を停止するか、又は燃料コストを賄うために公的財政支援に頼らざるを得ない状況になったとしている。
ECは、漁業・養殖部門のエネルギー転換を行うことで、両部門のエネルギー価格の変動に対する脆弱性を軽減していく必要があるとしている。また、エネルギー転換を進めていく上で、漁船や養殖設備のエネルギー効率を向上させていくことや、化石燃料から再生可能エネルギー由来の電力、水素、アンモニア、合成燃料(e-fuel)、バイオ燃料への切り替えが必要であるとしており、今回発表された「On the Energy Transition of the EU Fisheries and Aquaculture sector」では以下の4つの主要なアクションが提案されている。
①「欧州の漁業・養殖業のエネルギー転換を行うためのパートナーシップ」を設立し、研究機関、公的機関、造船業界、港湾当局、エネルギー供給業者、NGO、金融機関などを巻き込んだ上で、2050年までのエネルギー転換に向けたロードマップ作りを行う。
②環境に配慮した漁具や漁法などに関する調査・研究を開始していくと同時に、利用可能な情報を広く共有するためのオンライン・プラットフォームの設置を行う。
③漁業・養殖部門への若年層の就業を促すとともに、労働者のスキル習得機会の拡充に向けて、オンライン教育プログラムの開設を行う。
④漁業・養殖部門に向けて、欧州の基金や支援プログラムの活用に関するガイダンス(手引き)を作成する。
上述①で示した「欧州の漁業・養殖業のエネルギー転換を行うためのパートナーシップ」については、2023年中に設立が予定されており、ECは今後、あらゆる利害関係者と連携しながら、漁業・養殖部門のエネルギー転換を促進するためのさらなる施策を提案していくとしている。
さて、日本では漁業におけるカーボンニュートラルへの対応として、省エネルギー化された漁船の導入や、2040年までに漁船の電化・水素化に関する技術の確立を目指す方針が掲げられている。※2漁船の電化・水素化に関する具体的な取り組みとしては、燃料電池とリチウムバッテリーを動力とする漁船を設計し実証船を開発していくことが予定されている。
本稿で示すように、漁船を対象とした化石燃料に代わるエネルギーについては、現時点において欧州と日本の間で違いが見受けられる。漁船のグリーン化を目指す日本にとっても、今後の欧州の展開はベンチマークしていくべきであるように思う。特に、欧州が漁業・養殖業の関係者に広く共有していくとしている環境に配慮した漁法などに関する情報については、日本の漁業・養殖業の事業者にとっても有益な情報が含まれていることから、ベンチマークしていく必要もありそうだ。
引用
※2 https://www.maff.go.jp/j/kanbo/kankyo/seisaku/midori/attach/pdf/index-10.pdf