データセンターにおける水消費に関する近況(2025年11月:シンガポール、EU、米国)

(文責: 青野 雅和)

シンガポール:Ecosperity WeekではAIの台頭に水不足が懸念点であると議論された

 三井住友銀行が主要スポンサー3社の一角として2025年5月5日から8日に開催した「Ecosperity Week 2025」で議論された結果を「Enabling a Sustainable AI Future[i]」と題して、2025年11月3日に公表した。このレポートはデータセンター市場の台頭とエネルギー水不足の懸念等に関して異業種で議論したものを整理したものである。同レポートでは、「AIの台頭は、AI主導のデータセンター拡大が地球規模の気候危機や脆弱地域における水不足を悪化させる懸念を強めている。」と述べている。この議論には当社に加え、CapitaLand 、IHI、Schneider Electric、Google、ExxonMobilに加え、上下水道のオペレーターであるVeolia、機関のTNFD,IEAなど錚々たる企業が参加している。議論の主なポイントから水利用に関する記述を抜粋すると「AIの急速な拡大は、アジア太平洋地域の急成長するデジタル経済を含むデータセンターと計算能力への需要急増を後押ししている。 ~中略~  冷却用の水は地域の供給源をさらに逼迫させ、脆弱な地域における水不足への懸念を高めている。この二重の課題は、持続可能なAI開発を支えるため、エネルギーと水の効率的な管理が緊急に必要であることを浮き彫りにしている。」と記載されている。

 英文のレポートであるが、シンガポールで主要企業がこのような議論をしていることをもっと日本にも伝えるべきであるだろう。

 また、世界のデータセンター業界の主要企業 8 社で構成され、2024年にシンガポールで設立したアジア太平洋データセンター協会(APDCA:the Asia-Pacific Data Centre Association)は「データセンターとエネルギーの持続可能性:ベストプラクティスと政策枠組みに関する地域的視点」と題したホワイトペーパーを発表し、次の 3 つの領域に重点を置いている。

  1. エネルギー持続可能性政策
  2. エネルギー効率基準
  3. エネルギーイノベーションパートナーシップ

 APDCAは電力のみに焦点を当てて議論しており、水消費には一切触れていない。この点は日本の業界団体と同等の内容である。

EU:2026年初頭に公表するデータセンター向けのラベル作成を検討

 欧州委員会はEUにおけるデータセンター市場の拡大によるエネルギー、環境、気候への影響を懸念しており、脱炭素化と大量の水消費、それと電子廃棄物を課題と認識している。 

 そのため、EUでは、エネルギー効率指令(EED:Energy Efficiency Directive)[ii]第12条において、データセンターのエネルギー性能の監視と公表の義務を規定しており、欧州のエネルギー効率指令(EED)の国内法化が進められている。EEDに基づき、委任規則2024/1364では、データセンター運営者に対し、データセンターに関する欧州データベースに、特定の必須情報と主要業績評価指標を報告することが義務付けられている。

 そして、欧州委員会は現在、データセンターのエネルギー効率に関するパッケージを開発中である。このパッケージは2026年初頭の公表を予定している。最初の成果として、このパッケージは欧州のデータセンター向けのラベルを作成するとのこと。このラベルには、データセンターのエネルギーと水の使用量、そして再生可能エネルギー源の利用状況に関する情報が含まれる[iii]

米国:テキサスの冬季の電力リスクはデータセンターが影響する

 約1年前の2024年12月20日に、米国エネルギー省 (DOE) は、「2024 年版米国データセンターエネルギー使用報告書(ローレンス・バークレー国立研究所(LBNL)が作成」」を発表した[iv]。本報告書では、米国の電力需要は、データセンターの拡張と人工知能 (AI) アプリケーションの増加、国内製造業の成長、さまざまな産業の電化によって決まると記載。そして、データセンターの負荷増加が過去 10 年間で 3 倍になっており、2028 年までに 2 倍または 3 倍になると予測していた。

 加えて、同報告書では、データセンターは2023年に米国の総電力の約4.4%を消費しており、今後は2028年までに米国の総電力の約6.7~12%を消費すると予想していた。データセンターの総電力使用量は2014年の58TWhから2023年には176TWhに増加し、2028年までに325~580TWhに増加する予測であった。

 そして、1年後の2025年11月に報告された「2025–2026 Winter Reliability Assessment」では、今年の冬に電力供給において大きなリスクを抱える地域はテキサスであると予測している。テキサス州では、「テキサスRE-ERCOT」がERCOT連系システムのISO(独立系統運用機関として、テキサス州全域で展開している。単一の電力系統運用機関として運営しており、テキサス州約800万の施設における小売電力供給事業者の切り替えを管理し、2,700万人以上の顧客にサービスを提供している。また、同社はテキサス州再生可能エネルギー局(Texas RE)を保有している。

 テキサスRE-ERCOTの送電・配電管内では、今冬のシーズンにおいて、テキサスRE-ERCOTはピーク負荷時間帯および高負荷時間帯(特に凍結温度に伴う極端な負荷条件下)において、予備力不足リスクに直面し続けると予想される。こうした事態の想定において、新規データセンターやその他の大規模産業エンドユーザーによる負荷の急増が、冬季電力需要予測の上方修正を促し、供給不足リスクの継続に寄与しているとまとめている。

引用

[i] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.smbc.co.jp/asia/insights/enabling-a-sustainable-AI-future.pdf#:~:text=The%20corresponding%20surge%20in%20water%20demand%20by,and%20undermining%20water%20security%20in%20vulnerable%20regions.

[ii] https://eur-lex.europa.eu/eli/reg_del/2024/1364/oj/eng

[iii] https://energy.ec.europa.eu/news/focus-data-centres-energy-hungry-challenge-2025-11-17_en

[iv] https://www.energy.gov/articles/doe-releases-new-report-evaluating-increase-electricity-demand-data-centers