グリーン水素をパイプラインで移送し物流セクターで利用するシュタットベルケ・シュトゥットガルト
(文責: 青野 雅和)
シュトゥットガルトは、2035年までに気候変動に左右されない都市になることを目指している。そして、シュトゥットガルトの都市公社もしくは公益企業であるシュタットベルケ・シュトゥットガルトは、市民生活の質の維持と将来の経済力強化に価値ある貢献を展開している。
本稿では、シュタットベルケ・シュトゥットガルトが展開するグリーン水素製造及びパイプラインでの移送、物流セクターでの利用に関する3つのサブプロジェクトから成る一連の展開について紹介する。
1.グリーン水素製造プロジェクトグリーン水素ハブ・シュトゥットガルト(GH2S[i])
2025年4月28日(月)にシュトゥットガルト港で初の大規模なグリーン水素製造プラントの起工式が開催され、同市はプロジェクトの開始を宣言した。GH2Sは、シュトゥットガルト港にグリーン水素を供給するハブを建設し、高純度のグリーン水素を2026年末からシュツットガルト全体に供給するプロジェクトである。再生可能電力の余剰電力を活用し、水を電気分解して水素と酸素にする。 そのエネルギー源としてグリーン電力を使用する。GH2Sの初期の段階では、毎年最大1,000トンの高純度グリーン水素が製造される予定である。
ちなみに、ドイツでは2024年の時点で、シュタットベルケ由来の発電量の約3分の2がすでに再生可能エネルギー、特に太陽光と風力エネルギーによるものである。
2. H2 GeNeSiS[ii]
GH2Sで製造されたグリーン水素は、ネッカー渓谷のシュトゥットガルト港とエスリンゲン港を結ぶパイプラインを経由し、トレーラーで顧客の配送拠点まで輸送される(図1参照)。このグリーン水素を、産業用、熱供給用、バスや大型貨物輸送用など、さまざまな用途で利用される迄の一蓮のプロジェクトをH2 GeNeSiSプロジェクトと呼んでいる。ドイツにおける運輸部門の再生可能エネルギー利用シェアはわずか7.2%であり、このシェアを引き上げる目的もある。
また、H2 GeNeSiSは、スケーラブルなアプローチと個々のモジュールの実施から得られた経験を基に、他地域の青写真となる事を目指している。そしてグリーン水素は、ネットワーク化された「H2 markt Platz[iii]」を通じて売買される。このプラットフォームによって、将来シュトゥットガルトの他地域を補完する他のプレーヤーやプロジェクトの参入障壁が低くなっているとのこと。
グリーン水素の消費迄のプロセスを再度記述すると、シュトゥットガルト地域向けのグリーン水素は、まずシュトゥットガルト港で、水の電気分解と再生可能エネルギーによる電力を使って製造され、同地域で消費される。H2生産時に発生する廃熱は、使用するグリーン電力の総合効率を可能な限り高くするため、建物や近隣への熱供給に利用される。なお、計画された対策により、プロジェクト期間中にすでに10,000トンのCO2を削減することができるとのこと。
図1 ネッカー川沿いのシュツットガルト港での水素製造と水素パイプラインの概況

出典:H2 GeNeSiS資料にBCJ加筆
3.HyPulseST
第3のサブプロジェクトは、グリーン水素の利用とエネルギー転換におけるその役割に焦点を当てたものである。 このプロジェクトは、バスと貨物車用の2つの水素補給ステーション(図1にも記載)で構成され、いずれもH2 GeNeSiSパイプラインに接続されている。燃料電池車と熱電併給発電所の購入とテストも含まれている。
弊社では2023年3月にドイツのシュタットベルケによる水素供給の状況[iv]を伝えてきた。また、シュタットベルケの水素プロジェクト以外にもバイエルン州での水素パイプラインの検討プロジェクトであるHyPipeやハンブルグでの欧州水素ネットワークへの接続などパイプライン化が進んできている。加えてドイツでは2025年から2032年までの間に水素コアネットワーク[v]を建設する予定であり、図2のように水素の生産、消費、貯蔵、輸入の各拠点を結ぶことになる(弊社レポート 2024年7月26日公表:ドイツは「水素輸入戦略」を決定 欧州各地や港湾からドイツに至る水素パイプラインを敷設する 坂野より[vi])。
図2 2024年7月時点での水素コアネットワークの開発計画図

出所:FNB Gas e.V.より引用しBCJ翻訳
日本の自治体でも、古くは北九州市や周南市で水素パイプラインの実証事業が実施されている。最近の事例では、福島県浪江町でパイプラインを地中埋設するのではなく、柱上(電柱)に整備(共架)させることにより、低コスト化を実現できないか、技術的・法令的・効率的観点から実証が行われている。残念ながら日本の自治体が公益企業として水素を供給するまでに至っていないが、世界各地でも水素をコモディティ化し、自治体レベルで供給する事例が増加していくことが想定される。
引用
[i] https://www.stadtwerke-stuttgart.de/partner-der-energiewende/h2g/
[ii] https://h2genesis.region-stuttgart.de/
[iii] https://h2-marktplatz.de/about-us/
[iv] https://baumconsult.co.jp/2023/03/13/%e7%8b%ac%e3%83%bb%e3%82%b7%e3%83%a5%e3%82%bf%e3%83%83%e3%83%88%e3%83%99%e3%83%ab%e3%82%b1%e3%81%ae%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e4%be%9b%e7%b5%a6%e3%81%ae%e7%8f%be%e7%8a%b6%ef%bc%9a%e4%ba%8b%e6%a5%ad%e3%81%ae/
[v] https://www.bundesnetzagentur.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2024/20240723_Wasserstoff.html
[vi] https://baumconsult.co.jp/2024/07/26/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e3%81%af%e3%80%8c%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e8%bc%b8%e5%85%a5%e6%88%a6%e7%95%a5%e3%80%8d%e3%82%92%e6%b1%ba%e5%ae%9a%e3%80%80%e6%ac%a7%e5%b7%9e%e5%90%84%e5%9c%b0%e3%82%84%e6%b8%af/