中国由来のHVOを含むバイオ燃料のダンピングに対する確定課税が欧州で発効 ~日本はHVOの販売ターゲットとなるのか?~
(文責: 青野 雅和)
中国から欧州へのバイオディーゼル(水素化処理植物油(HVO)および脂肪酸メチルエステル(FAME))の輸入に対して、欧州委員会(EC)は反ダンピング関税を2月10日に正式に発効した。この措置により、18の加盟国にあるバイオディーゼル製造業者60社以上の約6,000人の雇用が守られることになるという。
本稿では、インドネシア及びマレーシアのパーム油が中国を経由して欧州に輸出されている可能性を疑っている欧州の視点を紹介し、欧州でのバイオディーゼルの市況がどのように変化するのか方向性を示すことが出来れば幸いである。
- 欧州森林破壊防止規則(EUDR)が発行し、パーム油は輸入規制対象となる
欧州では、2023年6月29日に欧州森林破壊防止規則(EUDR)が発行された。この規則は森林破壊と森林劣化を予防するための規則であり、EU域内で販売される製品が「製品を製造する過程や原料の育成過程で森林破壊・森林劣化を引き起こしていない」ことを証明するための規則である。2024年12月30日から大企業に、中小事業者は2025年6月30日から適用される予定となっており、EU市場に7品目(牛、カカオ、コーヒー、パーム油、ゴム、大豆、木材)を持ち込む企業は、それらの商材の生産地が森林破壊に加担していないことを確認し、証明する必要がある。
パーム油の世界的な需要が増加していることで、生産地域であるインドネシアやマレーシアの熱帯雨林が伐採されアブラヤシの農園に変わっていくことが問題視されている。またパーム油そのものやマーガリン等の食品、洗濯洗剤、医薬品と幅広く利用されており、生活に密接に繋がっているが、アブラヤシは生産性の高さと価格の安いことが農園を拡大している要因となっている。
EUはアブラヤシ栽培を自然破壊の要因とみて、輸入を規制する動きを強めてきた経緯がある。2021年11月には森林破壊防止のためのデューディリジェンス義務化に関する規則案を発表しているが、インドネシアやマレーシアは同国の小規模事業者をサプライチェーンから締め出す不公正な措置として、批判を強めていた経緯がある。実際、インドネシアやマレーシアはパーム油輸出で世界シェアの約88%を占め(金額ベース、2021年)、マレーシアにとっても、EUは中国、フィリピン、トルコに次いで4番目の輸出国となっている。
- パーム油を中国でバイオ燃料に加工し欧州に輸入されるルートを問題視
EUDRが発効したことで、EU諸国では非認証のパーム油をバイオディーゼルの原料として使用できなくなる。しかし、EUの燃料製造企業及び販売企業や関連機関は、マレーシアやインドネシアの製油工場は中国経由で間接的にパーム油を市場に投入していると疑っている。要はロンダリングである。然しながら、言い方を変えると、EUに直接輸出できなくなることで販路が無くなったインドネシアやマレーシアのパーム油をより安価に調達することが可能となった状況(商機)を機敏に捉えた中国のバイオ燃料製造企業が利ザヤ商売を展開しているとも言えよう。中国でパーム油がHVOに加工されるか、POME(Palm Oil Mill Effluent:の略称で、パーム油の製造過程で発生する産業廃液を指す)としてEUに輸出されるとEUDRの規制対象にはならないからである。HVOは2021年から中国でも製造が開始されている。S&P Globalによれば、北京三角環境保護新材料は[i]、UCO、POMEなどのHVO原料の安定供給のため、マレーシアに子会社を設立している。
- 中国反ダンピング関税はSAFを除外したことが懸念事項
EU市場への中国からの輸出品には、香港のEcoCeres社[ii]を除き、21.7%から35.6%の反ダンピング関税が課せられる。ダンピング関税は5年間実施され、この措置は、中国企業約50社に影響を及ぼすと予想されている。なお、EcoCeres社には10%の関税が課せられる。ちなみに、Nesteの元CEOであるMatti Lievonen氏が2024年1月にEcoCeres社のCEOに就任している。また同社は2024年11月18日に日本のユーグレナ社と日本における持続可能な航空燃料(SAF)と次世代バイオディーゼル燃料(HVO)の普及促進に関する基本合意書を締結している[iii]。
なお、欧州バイオディーゼル委員会(EBB)は、特に最近の中国の使用済み食用油への輸出税を踏まえ、すべてのバイオディーゼル輸入の動向を監視することが重要になると発言している[iv]。加えて、持続可能な航空燃料(SAF)には関税が課されていないこと、また一部の企業が他の企業よりも低い反ダンピング関税を受けているという事実から、回避行為についても厳重に監視していくとのこと。HVOは航空燃料として利用される場合にはSAFの枠組みに適応できることから、上記の指摘がなされていると御理解いただきたい。
- 中国のHVOの輸出先に日本は該当するか?
日本ではHVOを製造していない。前述ユーグレナ社のサステオにはEcoCeres社のHVOを添加している。しかしながら弊社でも紹介しているとおり、ドロップイン燃料として、つまりディーゼル燃料で駆動する船舶、自動車、重機の代替燃料として欧州では普及している燃料である。例えば三菱重工エンジン&ターボチャージャ株式会社(MHIET)は、同社の発電用及び舶用向けエンジンにおいてHVOの使用を承認している[v]。欧州での販売も考慮にあるのであろう。小松製作所の重機や井関農機のトラクターもHVO使用を承認している。同様な理由だ。
さて、ここで仮説をたてたい。中国はEUにおける中国反ダンピング関税の措置を受けて、バイオ燃料普及市場の対象として日本市場をターゲットと考えているのでは?という仮説だ。重なる記載で申し訳ないが、日本はHVO製造企業が存在していないからだ。加えて、SAFは多様な製造手法を用いるが、HVO製造手法を活用してSAFは製造可能であり、日本はSAF普及市場だからである。
中国のHVO製造企業が進出しない可能性もある。日本では、軽油取引税が定める軽油の密度の下限値を下回るため、製造承認を受けている施設で軽油と混合して軽油規格に適合させる必要があり、100%でのHVO供給は出来ない状況であるからだ。
いずれにしても、日本の運輸セクターでの脱炭素化は推進されるべきであり、ドロップイン燃料であるHVOは歓迎される燃料であろう。しかも90%のCO2 削減が可能であること、水素やアンモニアよりもインフラが必要無いコストコンシャスな燃料であることなどメリットは多い。
EUDR規制非対称となるパーム油を原料としたHVOとしての疑いを向けられている中国のHVOを日本が輸入することは無いと思うが、どうだろうか。
引用
[i] https://www.spglobal.com/commodity-insights/en/news-research/latest-news/agriculture/033121-spotlight-china-reinforces-position-in-hvo-market-with-launch-of-new-400000-mtyear-plant
[ii] https://www.eco-ceres.com/en/company_background
[iii] https://www.euglena.jp/news/20241118-2/
[iv] https://ebb-eu.org/news/national-governments-approve-ad700/