ドイツはアンモニア輸入基地の建設を開始。水素パイプラインへの接続が進む

(文責:青野 雅和)

 ドイツのアンモニア輸入の動きが加速している。ハンブルグから見るとエルベ川の下流に位置するHanseatic Energy Hub[i]でドイツ初の陸上液化ガス(LNG)ターミナルの建設が2027年の完成に向けて開始した。Hanseatic Energy Hubは、ドイツ沿岸で計画されているアンモニア輸入ターミナルの多くのプロジェクトに加わる形となり、ドイツはアンモニア輸入の拠点整備を着実に進めていることが見て取れる。

 本稿ではドイツのアンモニア輸入の展開とエルベ川沿岸のStade地域の水素拠点化の展開をご紹介する。

  • ドイツのアンモニア輸入の動き

 Hanseatic Energy Hubの下流のエルベ川の河口に位置するBrunsbüttelでは、RWEが2027年から年間30万トンのナミビア産アンモニアを受け入れる輸入ハブを開発している。上流のハンブルク港では、Air ProductsとMabanaft(ハンブルクを拠点とするエネルギー会社)が、カナダのニューファンドランドにあるPattern Energyのアンモニア輸出生産プロジェクトを輸入し、ハンブルグに荷揚げするNew Energy Gate Hamburg」の計画を進めている。エルベ川河口からドイツ沿岸に南に下ったWilhelmshavenでは、Uniperが主要なアンモニア輸入ハブを開発している。そして、ドイツに面したバルト海のRostoc港ではドイツのガス会社VNGとノルウェーの世界最大級のアンモニア製造会社のYaraが、Rostoc港をアンモニアの輸入、分解、流通ハブにするためのアップグレードと改造を検討している。

  • Hanseatic Energy HubとDOW Stade工業団地は欧州水素ネットワークにアクセス

 Hanseatic Energy Hubは、ハンブルク、エルベ川、キール運河に対して戦略的に優れた位置にあり、北海やハンブルク港へのアクセスに便利である。また、2 本の高速道路とヨーロッパ最大のマシェン操車場にも近い。LNGは船舶(全長 345 メートルの最大の LNG タンカーがアクセス可能)、トラック、将来的には鉄道でも配送可能である。もちろん、LNGパイプラインはドイツのガス供給網へのアクセスしている。
 Hanseatic Energy Hubは既存のDOW Stade工業団地の敷地内に建設される。この立地に建設されていることで化学部門、物流、エネルギー産業を最適にネットワーク化することを可能としている。この工業団地にはドイツ最大級の変電所もあり、北海の洋上風力発電所から大量の電力を供給している(380kVの送電網接続)。
 Hanseatic Energy Hubは電力システムと同様に、グリーンエネルギーキャリアをモジュール方式で水素に変換できるように設計されており、Dowはすでに敷地内で大規模に水素を生産している。DOW Stade工業団地は塩素アルカリ電気分解による塩素ガスの主要生産者であり、生産プロセスでは副産物として水素を年間 50,000 トン生産し、副生水素の一部をガスと混焼して発電している。そしてDOW Stade工業団地の副生水素は、最終的には欧州水素ネットワーク(The European Hydrogen Backbone (EHB) initiative[ii])、つまり大陸全体の水素パイプライン ネットワークに接続される予定である[iii]

図 ドイツのアンモニア輸入拠点

出所:Hanseatic Energy HubのHPにBCJ追記

  • Stade地域は水素の応用研究拠点として展開しつつある

 Stade地域には(通称DLR)ZLP Stadeドイツ航空宇宙センター (DLR:Deutsches Zentrium ful Luft und Raumfaht))[iv]があり、同研究所内に軽量システム工学研究所の生産技術部門も拠点を置いており、航空機における水素タンクの研究を行っている[v]。そして、エアバスは、Stadeを拠点に水素技術のZEROe開発センター(ZEDC)を開設し、ドイツでのプレゼンスを強化する。同センターは、極低温液体水素を貯蔵および分配するための複合水素システム技術の開発を加速するとのこと[vi]。 

 また、Dowは副生水素からグリーンメタノール製造も検討している。前述のように北海の洋上風力発電所経由の電力を活用することも可能であるからだ。

 今回、ご紹介したように、ドイツではハンブルグ及びハンブルグを流れるエルベ川河口、またバルト海の港でアンモニアを受け入れ、隣接する工業団地及び欧州の水素ネットワークに展開することとなっている。弊社のNEWSでは昨年6月23日[vii]と8月4日[viii]に、グリーン水素のパイプライン敷設の展開を紹介したが、着実に水素の鉄、化学への原料利用は進んでいると認識して頂きたい。
 この動きを補填する情報として、欧州委員会は、6月21日に30億ユーロを投じて水素基幹ネットワークの建設を支援するドイツの計画を承認した[ix]。これにより水素輸送システム オペレーターへの資金提供が国家保証により可能となっている。ドイツは2025年に水素輸送を開始し、2032年までに97,00kmのパイプラインで港湾、産業、発電所、貯蔵施設を結ぶ水素基幹ネットワークの計画案を発表した。しかし、今年4月に与党3党が、パイプラインを利用するグリーン水素プロジェクトの建設期間を5年延長することで、事業者の財政負担を軽減することに合意したため、連立政権は完全建設を2037年に延期することを決定していた経緯がある。
 一歩進んで二歩下がっているようであるが、粘り強く歩みを進めている。

引用

[i] https://www.hanseatic-energy-hub.de/en/concept/our-concept/

[ii] https://ehb.eu/

[iii] https://ammoniaenergy.org/articles/ammonia-ready-import-terminal-gets-green-light-in-stade/

[iv] https://www.dlr.de/en

[v] https://leichtbau.dlr.de/speicherung-von-kryogenem-wasserstoff-in-composite-flugzeugtanks

[vi] https://www.airbus.com/en/newsroom/press-releases/2024-01-airbus-opens-new-zeroe-development-center-in-stade-for-innovative-0

[vii] https://baumconsult.co.jp/2023/06/23/%e3%83%90%e3%82%a4%e3%82%a8%e3%83%ab%e3%83%b3%e5%b7%9e%e3%81%ae%e6%96%b0%e8%a6%8fco2%e3%83%91%e3%82%a4%e3%83%97%e3%83%a9%e3%82%a4%e3%83%b3%e8%a8%88%e7%94%bb%e3%81%a7%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84/

[viii] https://baumconsult.co.jp/2023/08/04/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e3%81%af2035%e5%b9%b4%e3%81%ab%e9%9b%bb%e5%8a%9b%e4%be%9b%e7%b5%a6%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e8%84%b1%e7%82%ad%e7%b4%a0%e5%8c%96%e3%82%92%e7%9b%ae%e6%8c%87/

[ix] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/mex_24_3424