英国は的確な制度設計で、HVO含む再生可能燃料を普及させる
(文責:青野 雅和)
弊社ではドイツやインドネシアのHVOの状況についてお伝えしているが、本稿では英国(イギリス)の導入事例を紹介したい。HVOは多様な再生可能燃料の一つとして利用可能となっており、トラックや船舶、鉄道と幅広く普及しかけている。
■再生可能燃料導入義務が再生可能燃料の導入を促進
その普及を促進させているのが「再生可能燃料導入義務(Renewable Transport Fuel Obligation; RTFO)」である。RTFOはEUのREDⅡに準拠して再生可能エネルギー由来の燃料の利用を推進させる政策として機能している。具体的には、穀物由来のバイオ燃料の利用上限を2021年:3.83%→2032年:2.00%に段階的に引き下げ、一方で次世代燃料(development fuel)の導⼊目標を2021年:0.5%→2032年:2.8%段階的に引上げる政策をとっている。
■再生可能燃料保証制度(RFAS)で再生可能燃料のGHGを保証
英国では非営利団体のZemo Partnership[i]が、英国の車両運行会社に、高混合再生可能燃料における温室効果ガスの排出と原料の持続可能性を保証する独立した手段を提供することを目的として「再生可能燃料保証制度 (RFAS:Renewable Fuels Assurance Scheme)を構築している。RFASは政府の再生可能輸送燃料義務(RTFO)と連携して機能し、車両運行会社が持続可能な低炭素燃料を大量に購入することを保証するメカニズムである。再生可能燃料のサプライヤーはRFASの承認を受けることで、再生可能燃料のGHGの数値が保証され、車両運行会社は自身の購入した再生可能燃料をトレースすることが可能となる。
車両運行会社はこの制度によって、安心して再生可能燃料を利用することが可能となるが、HVOや圧縮バイオメタン、液体水素、バイオCNG、バイオLNG など多様な再生可能燃料を選択することが可能となっている。車両の特異性に沿った再生可能燃料を選択可能となっているのである。
以下に承認を受けた企業をZemo Partnershipより引用し、表に整理した。
表 RFAS承認サプライヤー一覧
| UK Approved Companies | 参照番号 | 再生可能燃料 |
| CNG Fuels Ltd | CF/P1/21 | Compressed Biomethane |
| Argent Energy Ltd | AE/P2/21 | Biodiesel (various blends) |
| Air Liquide Advanced Technologies Ltd | ABT/P4/21 | Compressed and Liquefied Biomethane |
| Greenergy Fuels Ltd | GF/P7/21 | Biodiesel (various blends) and HVO |
| Crown Oil Ltd | CO/P8/21 | HVO |
| Beesley Fuels Ltd | BF/P9/21 | HVO |
| Speedy Fuels & Lubricants Ltd | SF/P10/21 | HVO |
| Nationwide Fuels Ltd | NF/P11/21 | HVO |
| ESL Fuels Ltd | EF/P6/21 | Renewable Diesel (various blends) |
| Phillips 66 Limited | PH/P13/22 | Renewable Diesel |
| JET Retail UK Limited | JET/P14/22 | Renewable Diesel |
| Gasrec Ltd | GR/P15/22 | Compressed and Liquefied Biomethane (various blends) |
| Certas Energy UK Ltd | CE/P16/22 | HVO |
| Air Products Ltd | AP/ P12/22 | Liquified Renewable Hydrogen |
| Valero Energy Ltd | VL/P18/23 | Renewable Diesel |
| WFL UK Ltd (Watson Fuels) | WF/P20/23 | Renewable Diesel and HVO |
| Prema Energy Ltd | PE/P21/23 | HVO (various blends) |
| OnBio Ltd | OB/P24/23 | HVO |
| BWOC Ltd | BW/P28/23 | Renewable Diesel |
| Oil 4 Wales Ltd | OW/P26/23 | Renewable Diesel |
| Highland Fuels Ltd | HF/P17/22 | Renewable Diesel and HVO |
| Syntech Biofuel Ltd | SB/P23/23 | Biodiesel |
| New Era Fuels Ltd | NE/P25/23 | HVO |
| Barton Petroleum Ltd | BP/P30/23 | Renewable Diesel and HVO |
| Wessex Petroleum Ltd T/A WP Group | WP/P27/23 | HVO |
| Airport Energy Services Ltd | AS/P32/23 | HVO |
| 645 Services Ltd | SE/P35/24 | Renewable Diesel and HVO |
| Prax Petroleum Ltd | PP/P33/23 | HVO |
| Ford Fuels Ltd | FF/P39/24 | HVO |
| ViGo Bioenergy Ltd | VB/P34/23 | Bio-CNG and Bio-LNG |
| Vitol SA | VT/P47/24 | HVO |
| Sunbelt Rentals Ltd | SR/P38/24 | Renewable Diesel and HVO |
| Oilfast Ltd | OF/P41/24 | HVO |
| AID Fuel Oils Ltd | AF/P40/24 | Renewable Diesel and HVO |
| Portland Fuel Ltd | PF/P42/24 | HVO |
| BP Oil UK Ltd | BPO/P46/24 | HVO |
| Internationally Approved Companies | 参照番号 | 再生可能燃料 |
| BP Energía España S.A.U. | BPE/P31/23 | HVO |
| Flogas Enterprise Solutions Ltd | FG/P37/24 | Compressed Biomethane |
出典:Zemo PartnershipよりBCJ作成
■英国でのHVOの価格は従来のディーゼル燃料より15%~30%高い
英国で製造されるすべてのバイオディーゼルは、農作物を使用せず、認定された廃棄物のみを使用して生産されている。Zemo Partnershipによると、B20(20%ブレンド)およびB30(30%ブレンド)は市場への浸透が最も大きく、過去10年間で数千台のバスにB20が導入され、英国全土で約 2,000台のバスと1,500台の大型貨物車が高ブレンド バイオディーゼルで走行していると推定されている。B20やB30などのブレンドは、最小限の変更で既存のインフラストラクチャにシームレスに統合できるため、車両オペレーターは環境への影響を減らし、運用コスト効率を維持するための実用的な選択肢を得ることが可能である。
HVOの 1 リットルあたりの価格は従来のディーゼル燃料よりも 15% から 30% 高く、下記図で表示したデータは 2024 年 2 月のもの。
図 従来のディーゼル燃料(ブレンド含む)とHVOの価格の推移(2024年2月)

出典:argentfuels HP
■トラックでの利用
物流大手のDHL サプライチェーンは、英国全土の燃料供給ステーション全てにHVOの供給ラインを2023年末までに設置している。DHLは、600 万リットルを超える燃料を英国の事業所に輸送し、20 か所でディーゼル燃料の代替に使用している[ii]。これにより、約15,000トンのCO2排出量が削減されるとのこと。また、コカ・コーラ・ヨーロピアン・パートナーズ社もHVOへの切り替えを推進している。
■鉄道輸送での利用
ドイツ鉄道が所有し、イギリス のドンカスターに本社を置くイギリスの鉄道貨物会社であるDB Cargo UK(旧称DB Schenker Rail UK、English, Welsh & Scottish Railway )は、ディーゼル幹線および機関車でHVOを使用することを明らかにしている[iii]。
同社のディーゼル機関車でHVOを利用できるか2023年3月に試験を行い成功していた。この結果を受けて同社所有の228台のディーゼル機関車でHVOを利用していくことになる。
同社は年間約4,500万リットルの赤ディーゼル燃料[iv]を利用しており、HVOに切り替えることで90%のCO2を削減できると歓迎している。
■ガソリンスタンドでのHVO供給ネットワークの整備
UK Fuelsネットワークを所有・運営するRadiusは、HVOの提供を拡大し、顧客がより多くの場所で持続可能な燃料にアクセスできるように展開している。同社は3,700以上のガソリンスタンドを持つ英国最大級の燃料ステーションである。そのうち、現在45の拠点でHVOが提供されており、英国最大のHVOサプライヤーとなっている。
引用
[i] 英国で2003年から交通イニシアチブや政策の創出に尽力している非営利団体
[ii] https://www.dhl.com/gb-en/home/press/press-archive/2023/dhl-to-transition-on-site-fuelling-stations-from-diesel-to-hvo-by-the-end-of-the-year.html
[iii] https://uk.dbcargo.com/rail-uk-en/news/uk-news/DB-Cargo-UK-successfully-trials-new-HVO-fuel-in-bid-to-decarbonise-its-operations-5764438
[iv] 赤色染料と化学マーカーが添加されており、主に建設業界で使用されるブルドーザーやクレーン、石油採掘用のドリルの動力など、主にオフロード用途で使用されるディーゼル燃料である。英国で使用されるディーゼル全体の約15%を占め、年間約1,400万トンの二酸化炭素を排出している。https://www.gov.uk/government/publications/reform-of-red-diesel-entitlements/reform-of-red-diesel-and-other-rebated-fuels-entitlement
