EUにおけるドロップイン燃料(HVO)とSAFの生産能力はさらに増強される
~輸送セクターで利用される燃料の6.9%が既に再生可能由来の燃料に置き換わっている~

(文責:青野 雅和)

 弊社のNEWSでは頻繁にドロップイン燃料の情報をシェアさせていただいているが、此度はHVOのEUのシェア及び生産企業の情報について紹介したい。

 ブリュッセルに拠点を置き、EUでの再生可能エタノール利用を推進しているePURE[ⅰ]によれば、2021年におけるEUの輸送における燃料の6.9%を自然エネルギー由来の燃料が占めている。そのうち89%以上をバイオ燃料が占めており、作物由来のバイオ燃料が54.3%を占めている。RED-Ⅱの付属書IXA(主に藻類や廃棄物、非可食の植物等)から生産されるいわゆる先進バイオ燃料は全体の11.7%。また、附属書IXB(主に使用済み食用油)される同様な先進バイオ燃料は15.4%で、輸送において2番目に重要な再生可能エネルギー源でありHVOはこの分類に該当し、計27.1%を占め、全体では約1.9を占める迄に増加している。(図1参照)

図1:2021年のEUにおける輸送エネルギーミックス

出典:Eurostat, SHARES 2023

 また、EUに2021年のEU-27全体でのバイオディーゼル(再生可能ディーゼルまたはHVOを含むバイオディーゼル)の導入率をみると、エネルギーベースで7.2%、数量ベースで7.8%であった(図2参照)。2009年から増加トレンドで推移していることが明確であるが、バイオディーゼルは2020年比で3.3%増加し、史上最高の導入量となる13,605 ktoeに達している。このようにEUでは輸送セクターでも順調に再生可能由来の燃料が利用されていることが見て取れる。

図2:EUのバイオディーゼル消費量とバイオディーゼル混合率の推移

出典:Eurostat, SHARES 2023

 こうした動きはリファイナリーにおけるSAF及びHVOの製造施設がEUで増加している傾向からも見て取れるかもしれない。ちなみにHVOはSAF の連産品であることから(図3参照)、SAFの需要の高まりによって原材料の調達可能性が増えるのであれば、HVOの生産量も増加する可能性があると想定される。自動車用規格としてバイオ燃料基材であるHVOのB100の規格があり、軽油と混ぜて全く問題がない。

図3 SAF及びHVOの製造プロセス

出典:国土交通省 船舶におけるバイオ燃料取り扱いガイドライン

 EUにおける欧州最大のHVOバイオディーゼル生産企業はネフィンランドのNesteであり(ロッテルダム、ポルヴォー、EU以外のシンガポールにも製油所がある)、会社の生産能力は年間153万トンで、ロッテルダム工場の生産能力は100万トンであった。2位はENIで、年間総生産能力は106万トン、うち72万トンがイタリアのジェラ(Gera)にある。

図4 2020年時点でのEUにおけるリファイナリーのHVOの生産能力

出典:Statista Research Department,  Leading HVO biodiesel producers by capacity in Europe 2020  Aug 25, 2023

 さて、2023年9月25日に注目すべきニュースリリースが出た。三井物産がポルトガル最大のエネルギー会社であるGalp SGPS, S.A.(以下Galp社)が運営するHVO及びSAF製造事業に出資することで合意したとの内容である。合弁会社を設立し、出資比率はGalp社 75%、三井物産25%とのこと[ⅱ]
 ポルトガルで唯一の石油精製会社であるGalp社は1978年からシネス製油所を運営しており、同製油所にHVOとSAFの生産モードを切り替えられる設備を建設する。最初のHVO生産は2025年末で、プロジェクトの商業運転開始は2026年を予定しており、この設備は、長期的に需要の増加が見込まれるSAFの生産にも使用される見込みである。三井物産は、生産事業への出資に加え、アジアを中心とした原料調達や製品の販売など、バリューチェーン全般を担う。
 スペインのEniもそうであるが、Galp社もエネルギー転換分野への投資を強化していくという。このように既存のリファイナリーはグリーンリファイナリーに舵を切っていく傾向にあるようだ。
 日本でもNEDOの支援によるSAFを製造する動きが活発化しているが、HVOまで視野に入れた動きは鈍い。自動車、トラック、船舶、ディーゼル機関車など多くのモビリティーでそのまま利用できるというメリットを持つドロップイン燃料であるが、日本では利用の機運が進んでいない状況である。藻類及びその他のバイオディーゼルの研究が重要であることには違い無いが、EUや北米のリファイナリーがHVOの覇権を獲得し、脱炭素化の中間目標である2030年頃に、脱炭素化の目標達成が切迫した状況に陥ると想定される日本市場に輸入されることも想定される。

[ⅰ]https://www.epure.org/

[ⅱ]https://www.mitsui.com/jp/ja/release/2023/1247488_13866.html