EUの脱炭素化政策における低炭素水素・アンモニアの利用拡大を見越し、検証サービスが開始へ
(文責:坂野 佑馬)
2023年8月28日、ノルウェー・オスローに本拠地を置く第三者検証・認証サービスのプロバイダーであるDNVは、新たに低炭素水素及び低炭素アンモニアの製造・流通に関する検証サービスの仕様書(DNV-SE-0654)を発表した※1。同仕様書には、多様な水素製造の方法(従来型、水電解型、革新的な方法等)、及びこれらの水素製造に関連するアンモニア製造を対象とした、コンサルティング、第三者検証、妥当性確認の提供が含まれている。この新しいサービスにより、水素製造企業は自社で製造した水素の質(GHG排出量に基づいた色分け)を証明することができ、その主張の信頼性と透明性を確保することが可能となる。
グリーン水素の認証サービスに関しては、弊社NEWS(2023年7月10日公表)※2の中でも紹介しているドイツの認証プロバイダーであるTÜV SÜDが、欧州のグリーン水素の統一規格となっている「CertifHy認証」、及び独自の「GreenHydrogen認証(TÜV SÜD規格CMS70、Version01/2020 "Generation of Green Hydrogen")」を提供している。また、同社は設備の水素対応の認証サービスも提供している。
上記のような、欧州におけるグリーン水素及びアンモニアに関する検証サービスの提供が拡大している背景には、水素・アンモニア市場の盛り上がりがあると言えよう。
弊社NEWSでも度々紹介させていただいているが、欧州においては水素の入札プログラムが推進されている。ドイツにおける水素入札プログラム「H2Global」は、2022年12月より始動し、水素由来製品の国外からの調達が進められてきた。既にアンモニア、e-メタノール(グリーン水素と回収された二酸化炭素から作られるe-メタノール)とe-持続可能な航空燃料 (e-SAF:グリーン水素利用による合成燃料)の入札が展開されている。※3
ノルウェーにおいては、豊富な水力発電由来の電力及び現在開発中の洋上風力由来の電力を活用し、グリーン水素製造に注力していくことを計画している。巨大な水素バリューチェーンを構築していく中で、主要プレイヤーとして活躍が期待されている企業の1つがYara International ASA社である。同社は水素の製造からアンモニア製造、輸送・貯蔵、販売までを手広くカバーしている(図1)。同社のアンモニア製造能力は、年間約850 万トンであり、世界最大規模の生産力を誇る。
図1. Yara International ASA社のアンモニアバリューチェーン
出所:ノルウェー大使館の公表資料より引用
日本においては再生可能エネルギー資源が乏しいために、グリーン水素の製造及びグリーンアンモニアの製造において欧州ほどの盛り上がりは起こらないかもしれない。しかしながら、欧州においてグリーン水素・アンモニアの格付けを求める基準の整備や市場からの要求の高まりが苛烈化することで日本国内においてもグリーン水素・アンモニアの第三者検証・認証が求められるようになることは予想される。
EUの炭素国境調整メカニズム(CBAM;Carbon Border Adjustment Measure)※4では、EU域内の事業者がCBAM の対象となる製品をEU域外から輸入する際に、域内で製造した場合にEU ETS に基づいて課される炭素価格に対応した価格の支払いが義務付けられる。EUへ製品を輸出する事業者は、2023 年 10 月からCFP(製品のカーボンフットプリント) を報告する義務を負う。今のところ対象となる製品は下記のとおりであるが、水素も含まれている。また、CFPを申告する際には、独立した検証機関による認定を受けることが求められている為、水素の検証・認証はより一層需要が高まるであろう。
【CBAMの対象製品】
- カオリン、およびその他のカオリン系粘土(焼成されたもの)
- セメント、アルミナセメント、セメントクリンカー等
- 肥料(アンモニア、硝酸、スルホ硝酸等)
- 塊成化された鉄鋼石および精鉱
- 広範囲な鉄・鉄鋼製品(一部の合金鉄、スクラップ鉄等を除く)が対象
- 鉄・鉄鋼製品には、ねじ、ボルト、ナット、コーチボルト、ねじフック、リベット、コッター、コッターピン、座金(ばね座金を含む)、およびその他これらに類する鉄・鉄鋼製品などの川下製品が含まれる
- アルミニウム構造体およびその部品
- 特定のアルミニウム製貯留容器、タンク、バット、コンテナ
- アルミニウム製の撚り線、ケーブル、組ひもその他これらに類するもの(電気絶縁をしたものを除く)
- その他のアルミニウム製品
- 水素
- 電気エネルギー
水素・アンモニアに限った話ではないが、欧州政府及び企業におけるルールメイキングの動向はベンチマークしておく必要がある。弊社としても、事業者の皆様にとって有意義な情報提供をしていきたい。
引用
※4 https://taxation-customs.ec.europa.eu/carbon-border-adjustment-mechanism_en