ドイツ政府はブルー水素で水素火力発電を展開へ
~水素エネルギー貯蔵パイロット事業や家庭向けの水素給湯器を導入~
(文責:青野 雅和)
3月7日にドイツのオラフ・ショルツ首相は17GWから21GWの水素火力発電所を2030年から31年を目途に建設することを明らかにした。また、副首相のロバート・ハベック経済・気候変動大臣は、ドイツの再生可能エネルギー産業協会BEEが主催するイベントで、風力と太陽光発電由来の電力供給が不足している場合のバックアップとして水素火力発電が必要であるとの意図を発言している。
以下に水素に関連する動きを3つ紹介する。
■RefLauプロジェクト
この発言を裏付けるようにバックアップを担う水素によるエネルギー貯蔵プロジェクトをドイツ政府は推進している。2月末に水素エネルギー貯蔵パイロットプロジェクトをドイツ東部で構築するプロジェクトである「RefLau:ラウジッツ リファレンス パワー プラント リアル ラボ[ⅰ](Referenzkraftwerk Lausitz (RefLau)— 英語で「Reference Power Plant Lusatia」)だ。ドイツ政府は2830万ユーロ(約41億円)の助成金を提供することを決定した。
このプロジェクトはドイツ東部のドレスデン北東に位置し、ポーランド国境近くに位置するラウジッツ(ドイツ語: Lausitz)のSchwarze Pumpe工業団地内で、風力や太陽光発電由来の電力を利用しグリーン水素を電解槽で製造し貯蔵するプロジェクトである。なお、製造された水素はSchwarze Pumpe工業団地に施設した水素パイプラインで水素を移送し、オンデマンドで水素から電力を製造し供給される。ラウジッツは褐炭の採掘サイトであり旧東ドイツのエネルギー産業を支えていたが、ドイツ統一後は褐炭需要の減少と環境問題への関心により産業が縮小していた。本事業はエネルギー転換を促し、既存のエネルギー産業の雇用を維持することにも繋がっている。
このプロジェクトはコンソーシアムで展開され、工業団地の地元協会である Zweckverband Industriepark Schwarze Pumpe、再生可能エネルギー事業者の Energiequelle; エネルギー生産者 であるEnertrag;フラウンフォーファー研究所、ブランデンブルク工科大学、そしてドレスデン工科大学で組織されている。
■家庭用の給湯設備の燃料にグリーン水素を100%利用する実験を開始
既に弊社のNEWSにて英国における家庭向けのガス給湯の燃料を天然ガスから水素に変換することをお伝えしていたが、ドイツでも同様な実証実験が開始される。H2Direktと名付けられたプロジェクトで、ミュンヘンの北80キロにあるホーエンヴァルト市(Hohenwart)の10世帯と地元の市民エネルギー協同組合Andreas Herschmannが、2023/24 年の少なくとも18か月間、ヴァイラント(Vaillant)製[ⅱ]の給湯器でグリーン水素を利用する。
H2Direktはドイツ教育研究省の TransHyDE H 2 インフラストラクチャ プログラムによって資金提供されており、水素はエネルギー会社のThüga[ⅲ]とEnergie Südbayern (ESB)[ⅳ]とEnergienetze Bayern[ⅴ]が提供し、前述3社で実証結果が整理される予定である。ドイツでは天然ガスパイプラインへの水素の添加に重点を置いていたが、100%水素に転換することも視野に入れている。
■2030年迄にノルウェーからドイツに水素パイプラインを建設する
本プロジェクトは1月初旬に発表された。北欧最大のエネルギー会社エクイノールEquinorが計画しているもので、天然ガス由来で2GWのブルー水素を製造し、ノルウェー沖のCCSで炭素を貯留する。また、最終的にはグリーン水素に段階的に移行するプロジェクトである。2038年までには10GWを移送するとのこと。ドイツのエネルギー会社RWEエクイノールからブルー水素を購入する。本件は冒頭で紹介した水素火力発電所で利用することとなる。
引用
[i] https://www.reflau.com/projekt
[ii] https://www.vaillant.co.uk/homeowners/products/gas-boiler-range/
[iv] https://www.esb.de/privatkunden
[v] https://www.energienetze-bayern.de/startseite/