国際社会で激化するネットゼロ産業創出に対する補助金支援
~EUは新計画であるグリーンディール産業計画を発表~
(文責:坂野 佑馬)
2023年2月1日に欧州委員会(EC)は、2050年までに気候中立(全ての人為的な温室効果ガスの排出量をゼロにすること)の達成を目指す「欧州グリーンディール」※1の一環として、新計画となる「グリーンディール産業計画(Green Deal Industrial Plan)」に関する詳細な発表を行った※2。ECの議長を務めるUrsula von der Leyen 氏は、米国、日本、インド、英国、カナダ等がグリーン産業に対する補助金制度を強化しているという背景から、同計画を通じてEU域内のネットゼロ産業(温室効果ガスの排出ネットゼロの実現に貢献する産業)に対し、最適な生産環境を提供することが必要だと説明した。
さて、グリーンディール産業計画は、「規制環境の簡素化」や「資金調達の迅速化」、「人材育成」、「貿易の促進」の4つの柱で構成されている(以下記載)。
グリーンディール産業計画の4つの柱
- 予測可能で簡素化された規制環境
ECはネットゼロ産業に対する新たな規制の枠組みを提供するために「ネットゼロ産業法案(Net-Zero Industry Act)」を3月中旬に発表するとした。同法案は、バッテリー、ヒートポンプ、太陽光、水素生産用の電解槽、炭素回収・貯留技術などの生産拠点の展開における主要な障壁の1つとなっている許認可プロセスを簡略化する。許認可プロセスの各段階に審査期限を設定すると同時に、許認可プロセスを同一の窓口で対応する「ワン・ストップ・ショップ」を加盟国ごとに導入する予定である。
また、同法案を補完する枠組みとして「重要原材料法案(Critical Raw Material Act)」を導入するとしている。重要原材料法案はネットゼロ産業の発展に必要不可欠となる原材料の調達に関して、特定第三国に対する調達依存度の低下や原材料の再利用を促す枠組みとなる。各国内での採掘、加工、リサイクルを促進すると同時に、バイオベース(生分解性)の代替品の開発を推進することで、EU域内に供給の安定をもたらすことを目指すものである 。
- 迅速な資金調達
ECはグリーンテックの技術革新、製造、展開に資金を提供することを目的に、既存のEU資金の利用を促進する。また、ネットゼロ技術の製造プロセスに対する投資を支援するために、EUレベルでより大きな共通融資を実現する道筋を探っている。ECは短期的には、迅速かつ的を絞った支援を提供するためにREPowerEU※3、InvestEU※4、Innovation Fund※5通じて、加盟国と協力する予定である。 中期的には、2023年夏までに大型新規予算として「 欧州主権基金(European Sovereignty Fund)」構想を打ち出している。EU加盟各国の投資ニーズに対する緻密なプランを提供するとしているが詳細は非公表である。
- 人材育成
ネットゼロ産業分野の労働生産性は製材全体の平均より約20%高いとされており、今後人材の育成が極めて重要であるとされている。ECは、ネットゼロ産業における人員に対する原材料、水素、太陽光電池技術等に関連した技能向上と再教育のプログラムを展開する「ネットゼロ産業アカデミー」の設立を提案している。
また、特定技術を有する人材をEU域外から呼び込む際の障壁を和らげるために、現在の資格優先の人材雇用・登用のアプローチと技術優先のアプローチを上手く組み合わせるための施策も検討するとしている。
- レジリエントなサプライチェーン実現のための貿易促進
EUの自由貿易協定(FTA)のネットワークや、ネットゼロへの移行を支援するためのパートナー国との協力関係を維持し、発展させていくとしている。
その中で、新たな取組としてネットゼロ産業に必要な原材料の消費国と資源国を結びつける「重要原材料クラブ」を設立し、資源豊富な発展途上国等との結束を強める方針である。また、ネットゼロ産業の国際的な発展を促すための貿易における協力体制を構築することを目的として「クリーンテック・ネットゼロ産業パートナーシップ」 の創設も検討している。
同時に、国際社会におけるネットゼロ産業の公平性を維持するために、EU域外における補助金施策に対しては適宜調整策を講じていくとしている。さらに、知的財産の窃盗、強制的な技術移転等に関連する不公正な施策・取組を特定し、適当な対処を行っていく。
グリーンディール産業計画は、ネットゼロ産業のEU域外への流出を危惧した計画となっている。今後、著しい成長が見込まれているネットゼロ産業の発展は各国の経済成長にとって極めて重要であると認識していることが伺える。
日本においても各種補助金が交付されているが、ネットゼロ産業の創出競争を目的とした国際社会における補助金支援が、各国はより一層手厚い支援を展開していくと推察される。日本の国内企業には、日本政府からの支援を適切に活用し自社の成長へ繋げられるように、今のうちから事業推進体制を構築していく支援を弊社としても提供したい。
引用
※2 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_23_510
※3 https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_3131
※4 https://investeu.europa.eu/about-investeu_en
※5 https://climate.ec.europa.eu/eu-action/funding-climate-action/innovation-fund_en