ドイツのインパクト投資と地域の未来を担うインパクトスタートアップ

(文責:青野 雅和)

 日本でもインパクト投資が社会課題の解決策として、重要視され始めている。本稿では、ドイツの展開について紹介したい。
 さて、その歴史は、2007年にロックフェラー財団が主導して開催された国際会議で、「インパクト投資」の用語が使用されたことに始まり、2010年には英国で初めて世界で初のソーシャルインパクトボンド(Social Impact Bond:SIB)が組成され、2021年には先進国首脳会議(サミット)の議長国英国の指示のもと、産業界主導の独立タスクフォースである「Impact Taskforce」が設立されている。

 日本政府としては、岸田総理の掲げる「新しい資本主義」の大きな柱として、2022年11月に「スタートアップ育成5か年計画」が決定し、今後、2027年度に向けて、スタートアップへの投資額を2027年度に10兆円規模、スタートアップを10万社、ユニコーンを100社創出するという野心的な目標を掲げる検討していく野心的なロードマップも示された。その、「スタートアップ育成5か年計画」は三つの柱で構成されている。以下に三つの柱を示す。

第一の柱:「スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築」
第二の柱:スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
第三の柱:オープンイノベーションの推進

 上記の第二の柱である、「スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化」において、「社会的起業家(インパクトスタートアップ)のエコシステムの整備とインパクト投資の推進」に取り組むことが表明された。これまで、民間資本に支えられてきた、スタートアップの育成に政策的な資金が投入され、政府及び自治体が関与していく方針を示した形となっており、その内容の是否は本稿では触れず、先ずは意識として政府も取り組む姿勢を示したことを評価したい。
 さて、「社会課題の解決」と「持続可能な成長」の両立を目指すインパクトスタートアップは、欧米諸国でも社会変革の担い手として注目されている。本稿では冒頭の通りドイツの取り組みについて触れていく。

 昨年の2月にドイツ連邦のインパクト投資の為のプラットフォームであるBundesinitiative Impact Investing e. Vが公表した「ドイツでのインパクト投資2020」による調査によると、インパクト投資はドイツで主流になりつつあり、その市場規模は約180億ユーロに達する(債券投資と株式投資を含み広義的に判断すると)ことが予想されているとのこと。ESGと社会的責任投資(SRI:Socially Responsible Investment)、ファイナンスファースト 、インパクトファースト を含む市場規模は約646億ユーロに達している。

図1 オニオンレイヤーモデル ドイツの広義のインパクト投資の詳細

出典:ドイツのインパクト投資2020

 図1から資産が一定額以上の富裕層を対象に資産管理および運用サービスを提供する組織であるファミリーオフィス(黄色)や財団(オレンジ色)に評価されており、彼らが最も革新的な市場参加者であり、インパクトファーストとして厳格性を担保しながら投資にアプローチしていることが見て取れる。
 ドイツでは、他の地域と同様、インパクト投資はあらゆる資産クラスと投資家タイプをカバーしており、民間および公的債務、民間および公的株式(すなわち、上場株式やベンチャーキャピタル)、さらには不動産などの実物資産やソーシャルベンチャー・スタートアップも含まれている。

図2 SDGsの各目標別の投資規模(単位:百万ユーロ)

出典:ドイツのインパクト投資2020

 また、SDGsの目標別の投資規模を図2に紹介する。最も市場規模が大きいのが「3番:すべての人に健康と福祉を」であり、「7番:エネルギーをみんなに」、「11番:住み続けられるまちづくり」と続く。特にこの結果はCovid-19の蔓延時にアンケートを実施したことから、影響を受けているとの推測も報告されている。

 日本でもスタートアップの表彰が数多く開催されているが、ドイツでは未来に対する社会課題の解決が評価されている。ハンブルグ市は、モビリティ、ロジスティクス、水素の分野における持続可能なイノベーションを称えるとしており、新しい企業が都市においてエコシステム且つ革新的なビジネスプロジェクトをテストするのを支援することを目的に「スタートアップ賞」を設けている。こうした哲学の基、2021年6月にハンブルグで開催された「フューチャー ハンブルグ アワード 2021 」では、リアルタイムで事業所単位でも都市環境単位でもセンサーを設置して、エリア全体のCO2を含む大気質を監視し、大気汚染と気候変動の抑制に貢献する企業が一位となり、2位にはバイオプラスチック、3位は太陽光発電自動車の製造企業が入った。
 産業創出のスタートアップ育成も重要であるが、地域の未来創造を期待することを自治体が切望し、このような展開が開催されることが日本の自治体でも増えていくことを期待したい。地域創生及び地域の未来に輝くソリューションを展開する技術の一つとして脱炭素化が存在し、他の技術と融合して地域の魅力を形成していくようになるように弊社も貢献できればと考えている。

[ⅰ] https://gsgii.org/reports/impact-investing-in-germany-2020/にてダウンロード可能

[ⅱ] Finance-First:ファイナンス・ファーストは、財務的リターンを目指すもの。しかし、戦略的に社会的または環境的リターンと明示的に組み合わを戦略的に組み合わせることを意味する。

[ⅲ] Impact-First:インパクトファーストは、主に社会的および/または環境的なリターンに焦点を当て、また重視し、財務的リターンは二の次とする。

[ⅳ] https://marketing.hamburg.de/aktuelle-pressemeldungen-detailansicht-221/world-s-best-impact-startups-for-the-city-of-the-future-honoured-with-the-future-hamburg-award.html