CO2回収・貯留(CCS)プロジェクトを積極展開するEquinor(エクイノール)
~欧州全体でのCCSの発展に向けて、各国企業と連携を図る~
(文責:青木 翔太)
「カーボンニュートラル」の実現に向けたCCS (Carbon dioxide Capture and Storage)の開発プロジェクトが計画されている。CCSとは、発電所や工場などから排出されるCO2を大気放散する前に回収し、地下へ貯留する技術である。
CCSの開発プロジェクトを進める国の中でも、ノルウェーは欧州各国と国境を越えたプロジェクトの展開を進めている。本稿では、ノルウェーに本拠を置く北欧最大のエネルギー企業Equinorが展開しているCCSプロジェクトについて紹介する。
・北欧最大級の「ノーザン・ライツ:以下オーロラ)プロジェクト
Equinorは、2017年にフランスの石油会社Total、英国の石油会社Royal Dutch ShellとともにCCSプロジェクト「オーロラ」の検討を開始し2020年に事業投資を決定している。更に、※1ノルウェー政府は、総事業費の8割に当たる16億ユーロを同プロジェクトに投じている。彼らは、ノルウェー南西部のヴェストラン郡にCO2集積ターミナルを建設し、そこからパイプラインで海底下2,600mにある帯水層に液化されたCO2を圧入して貯留する。同社は、北欧沿岸部にある発電所やセメント工場などの排ガスから回収したCO2を船舶でCO2集積ターミナルに輸送することで、国境を越えたCO2輸送・貯留のネットワーク構築を目指している。(図1)
2024年から稼働が予定されており、毎年150万トンのCO2の貯留が行われることとなる。なお、グローバルCCS協会は「オーロラ」プロジェクトを開発段階にある最も高度な欧州のCCSハブ(様々な排出源からCO2を回収し、単一または複数の貯留サイトに輸送すること)であるとしている。※2
図1 「オーロラ」プロジェクトにおける潜在的なCO2の排出源
出展:グローバルCCS協会「世界のCCSの動向2020年版」
図1中に記載のある「LANGSKIP PROJECT」は、ノルウェー政府が2020年から開始したCCSプロジェクトであり、ノルウェーの工業地帯からのCO2を船舶でヴェストラン郡のCO2集積ターミナルへ輸送することが計画されている。
・英国とノルウェーにおけるCCSプロジェクト
2022年5月13日、Equinor、Total、Royal Dutch Shellのオーロラプロジェクト事業者と英国の廃棄物処理会社Coryは、英国とノルウェー間のCCSプロジェクトの実現に向けて協力する契約を結んだ。※3 Coryはロンドンのテムズ川沿いで廃棄物発電を実施しており、そこから回収されたCO2をオーロラプロジェクトのCO2集積ターミナルに輸送する計画である。両社は同プロジェクトを通じて、テムズ川の立地を活かし、国境を越えたCO2の海上輸送における可能性を探る。また、英国及び欧州全域でCCSプロジェクトの展開を加速させることも目指すとしている。
・ドイツとノルウェーを結ぶCCSプロジェクト
2022年8月30日、Equinorとドイツの石油・ガス会社Wintershall Deaは、ドイツとノルウェーのCO2貯留サイトをつなぐCCSプロジェクトを開発することに合意した。※4同プロジェクトでは、2032年までに、ドイツのCO2回収拠点とノルウェーのCO2貯留サイトの接続に長さ約900キロメートルの海底パイプラインの建設が予定している。(図2) 年間2,000~4,000万トンのCO2回収・貯蔵能力を見込んでいる。これはドイツの2021年の産業部門におけるCO2排出量の約20%に相当する。※5 また、同プロジェクトでは、ドイツからのCO2の船舶輸送が早期検討される予定である。
図2 ドイツとノルウェーを結ぶCCSプロジェクトの概要図
出展:「OFFSHORE ENERGY」ニュースリリースより
CCSプロジェクトに積極的なノルウェーに加えて、EUもCCSに大きな期待を寄せている。EUは2020年7月3日に再生可能エネルギーの拡大、エネルギー集約型産業での低炭素技術の活用、CO2回収・有効利用・貯留などの革新的な技術を開発するために、100億ユーロを投資することを明らかにしている。※6 EUはこの資金を、テクノロジーの研究開発を目的とする「イノベーション基金」から調達し、2020年から2030年までの10年間にわたって提供していく方針を示している。今般紹介したノルウェーを中心とするCCSプロジェクトの展開や、EUの資金面での援助により、欧州全体でCCSの発展が期待される。
参考資料
※1
https://www.equinor.com/energy/northern-lights
※6
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/IP_20_1250