“European Green Capital Award” ~欧州の都市は、環境改善と経済成長の両立、並びに人々の豊かな生活を実現させることを目指している~
(文責:河北浩一郎)
現在、欧州委員会は、“European Green Capital Award 2024”(以下、GCA)への応募を受け付けている。
GCAは、都市部の環境改善と経済成長を両立させ、尚且つ人々の生活の質を向上させる都市の取組を称えると同時に、立案した計画の更なる推進を後押しすることを目的に、欧州委員会が2010年に創設した賞である。対象となるのは、EU全域における一定規模(人口10万人、若しくは、その国最大の都市)以上の自治体であり、毎年、応募都市の中から1都市が、下記3点を考慮の上選定される。
- 高い環境目標を達成し、社会的に認知されていること。
- さらなる環境改善と持続可能な発展のために、継続的かつ野心的な目標を掲げていること。
- EU全域における他都市の取組を誘発させる模範的な優良事例足り得ること。
尚、申請する都市は、以下の12の要素における業績や計画のアピールが必要となる。
(1) 気候変動への対応
(2) 地域の交通・移動手段
(3) 持続可能な土地利用を取り入れた都市の緑地
(4) 自然と生物多様性
(5) 大気の質
(6) 音環境
(7) 廃棄物の発生・処理
(8) 水の消費
(9) 廃水処理
(10) 環境関連のイノベーションと雇用創出
(11) 自治体の環境管理
(12) エネルギーの使用効率
これまで、2010年に受賞したストックホルム市(スウェーデン)に始まり、2023年のタリン市(エストニア)まで、14都市が受賞している。
本稿では、他都市への模範という観点で高い評価を受けた、エッセン市(ドイツ:2017年受賞)の事例を紹介する。ところで、読者の中には、エッセン市と聞くと、近代以降のドイツにおける重工業を牽引したルール工業地帯の中心都市、をイメージされる方もおられるかも知れない。現在のエッセン市は、炭鉱業の斜陽に伴い、サービス及び金融セクターを中心とした経済構造を変革し、ドイツで9位の人口を有するまでの経済成長を遂げている。「よりクリーンでグリーンな都市“cleaner, greener city”」にさらに変化していくとのエッセン市の表明に対し、「現在構造変化を進めている欧州の多くの都市にとって模範となる」と欧州委員会は高く評価している。
なお、エッセン市が掲げた具体的な目標に対し、審査員が特に感銘を受けた点を以下に掲載する。
- 市全体のCO2排出量を2020年までに1990年対比40%削減、2050年までに1990年対比95%削減する。
- 道路において低騒音アスファルトを128,000m2にわたり再舗装する(1,210万ユーロの投資)。
- 2020年までに、雨水管理、洪水管理、地下水涵養に利用する為の多機能緑地を開発するとともに、合流式下水道への雨水流入量を15%削減する。
- 2035年までに自家用車25%、公共交通機関25%、自転車25%、徒歩25%のモーダルスプリット(輸送機関分担)を達成する。
- 376㎞に及ぶ自転車専用レーンを敷設する。
- 2025年までに環境分野において20,000人の雇用を創出する。
2022年2月16日に、エッセン市は、受賞(2017年)後の進捗レポートをHP*1で公表した。そこでは、受賞に満足するだけでは無く、常に”Green Capital”であり続けるとの意思が示されている。また、レポートでは、現時点において、成功している領域、課題及び障害がある領域を明確に文書化し、目標を確実に達成する為に必要な強化策並びに新たな施策の展開を継続することが記されている。尚、欧州委員会への正式な報告は2023年となる。
欧州委員会の環境担当委員を務めていたヤネス・ポトチェニック氏は、「この賞は単なる表彰ではない。さらなる努力への決意とその実行を後押しするものである。」とGCA創設当時に述べている。エッセン市の事例は、まさにこの言葉を具現化しているものであると言える。