EU建築物のエネルギー性能指令（EPBD）改正案
～欧州委員会が示す、民生部門（住宅・建築物）における2050年脱炭素化実現に向けたビジョン～
s.aoki（文責：河北 浩一郎）
2021年12月15日、欧州委員会は、建築物のエネルギー性能指令（The Energy Performance of Buildings Directive 略称EPBD）の改正案を発表し、2030年までにGHG排出量を1990年対比55％削減するための政策「Fit for 55」及び2050年のEU全域における脱炭素化を実現させるための、建築分野における長期ビジョンを示した。長期ビジョンの具体的内容として、欧州全域の既存建築物（住宅、公共施設、病院、オフィス、その他の建築物等）の改修を促進させること、その為の財政支援を強化することを提示している。
EPBDは、2010年の改定において、EU全域の住宅及び非住宅建築物にエネルギー性能評価証明書（Energy Performance Certificates以下EPCs）の導入を義務付けているが、EU加盟国ごと運用に差がある事が兼ねてより問題視されていた。本改正案では、EU域内におけるEPCsで用いられる評価基準の共通化し、2025年末までに性能評価のカテゴリーを最高評価レベルAから最低評価のレベルGまでの7段階に統一する。レベルAに該当するのは、ZEB（Net-Zero Energy Building）及びZEH（Net-Zero Energy House）とされ、一方、最低評価となるレベルGは、加盟国それぞれで最も効率の悪い最下層から15%までの建築物が該当することとなる。（それ以外の建築物については、比例配分によりBからFに分類される。）
なお、今回の改正案では、非住宅建築物でレベルGに該当する建築物は2027年までに、住宅については2030年までに、レベルF以上の基準を満たす為の改修が義務付けられている。欧州委員会の試算によると、レベルGの建築物は、レベルAの建築物の約10倍のエネルギーを消費するとのことであり、レベルGからレベルFへの改修により、EU全域で年間4.6Mtoe～6.0Mtoe※１のエネルギー削減が実現できると試算されている。対象となる棟数は、EU全域で約3,000万に上る。EU域内に現存する、文化遺産でもある歴史的建造物は、本指令から除外される。
今般の改正指令案の公表に際して、欧州委員会のフラン・ティンマーマンス上級副委員長は、「住宅・建築物の改修促進は、景気回復の下支えになり、新たな雇用機会を創出する」と述べ、改修によるGHG排出量削減の直接的効果のみならず、副次効果を強調している。そして、その為に必要な「財政支援を行う」と続けた。現に、欧州委員会は、現在から2030年までに、EU予算から最大1,500億ユーロを調達するとしている。
一方、国内においては、国土交通省と経済産業省、環境省が、令和3年4月より「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」において、6回の議論を重ねてきた。2050年及び2030年に目指すべき住宅・建築物の姿（あり方）として、以下を挙げている。
■2050年：
（省エネ）ストック平均（定常状態）でZEH（ネット・ゼロ・エネルギーハウス）・ZEB（ネット・ゼロ・エネルギービル）基準の水準の省エネ性能（一次エネルギー消費量を省エネ基準から20％程度削減、建築物については用途に応じて30％又は40％程度削減されている状態）が確保される
（再エネ）導入が合理的な住宅・建築物における太陽光発電設備等の再生可能エネルギー導入が一般的となる
■2030年：
（省エネ）新築される住宅・建築物についてはZEH・ZEB基準の水準の省エネ性能「住宅は強化外皮基準及び再生可能エネルギーを除いた 一次エネルギー消費量を現行の省エネ基準値20％削減。 建築物は同様に用途に応じて30%削減又は40%削減(小規模は20%削減)。」が確保される
（再エネ）新築戸建住宅の6割において太陽光発電設備が導入される
また、国土交通省は、上記を推進するために、令和4年度新規事業として「住宅・建築物カーボンニュートラル総合推進事業」を創設、当初予算として200億円を計上している。※2引き続き、脱炭素社会に向けた高い目標の達成に向け、省エネ性能の高い住宅・建築物の整備や、既存住宅の改修等を総合的に支援していく方針だ。
※１ toe：「tonne of oil equivalent（石油換算トン）」
1トンの原油を燃焼させたときに得られるエネルギーを1単位としたもの。IEA（国際エネルギー機関）は、1toe=41.868GJと定義している。
※2 国土交通省住宅局関係予算概要https://www.mlit.go.jp/page/content/001460106.pdf