欧州の水電解装置6社が新たな連合E4Eを組成。中国企業を警戒か。
(文責: 青野 雅和)
本稿では、EUと中国における水電解槽のリーダーシップを巡る動向を紹介し、今後の市場の主導がどのように移行していくのかを推察したい。
2026年2月1日、欧州の大手電解装置メーカー6社は、欧州でのグリーン水素生産の拡大にむけた新たな連合「Electrolysers for Europe (E4E)[i]」を結成した。現時点では6社が参加している。以下の表1に概要を示す。
表1 Electrolysers for Europe参加企業6社一覧
| 本社 | 保有技術 | 納入及び生産済み容量 | ||
| ITM Power | 英国 | 330人以上 | PEM、グリーン水素プラント | 累積500M以上 |
| John Cockerill | ベルギー | 約8,000人 | 加圧アルカリ | 累積600M以上 |
| Nel | ノルウェー | 500人以上 | アルカリ、PEM | 1.5GW(年間) |
| Sunfire | ドイツ | 650人以上 | アルカリ、SOEC | 1GW(年間) |
| hyssenkrupp nucera | ドイツ | 700人以上 | アルカリ | 累積10GW以上 |
| Topsoe | デンマーク | 約2,800人 | SOEC | 500MW |
資料 E4EよりBCJ作成
E4Eによると、世界的な競争の加速とクリーンテクノロジーへの投資の変化によって戦略的なバリューチェーンは再構築されつつあり、ヨーロッパは決定的な局面を迎えていると言及している。また、今後5年間で、欧州が電解装置におけるリーダーシップを築くか、あるいは失うかが決まるだろうと、非常に断定的且つ欧州の政治に対し、危機を煽る表現を示している。 この6社は欧州の電解大手であり、欧州における水電解装置のポジションを守るために共同戦線を張った形となる。HPには「「私たちは約束を守りました。政策立案者も今こそ同じことをしなければなりません」との記述もあり、欧州の生産容量は10GWを超えるものの、EUにおける2024年までの目標である6GWに対して、現実はわずか1GW未満であることから、中国の国を挙げての展開に危惧し、政府の対応を促している状況だ。
E4Eマニフェストの発表
E4Eマニフェスト[ii]は2需要側インセンティブとヨーロッパ産基準の導入を訴えるマニフェストを2026年2月4日に発表した。2040年までに電解装置の生産規模を拡大し、100万人の雇用を創出し、最大2,000億ユーロ(2,160億ドル)の輸出額を生み出すというビジョンを掲げる。
E4Eは、欧州委員会に対し、EUの資金メカニズムにおける明確な「Made in Europe」基準の適用、需要側インセンティブの拡大、そして水素インフラプロジェクトの迅速化を強く求めている。電解装置は単なるエネルギー技術ではなく、戦略的な産業資産であると強調し、早急な政治的連携がなければ、欧州はより積極的で支援の厚い世界の競合相手に、初期の優位性を失うリスクがあると主張している。この危機感を醸成している競争相手はマニフェストでは名言していないが、明らかに中国である。後述するが中国は昨年から欧州での展開を見越し、水素業界でグローバル取引への企業品格の形成とEUの炭素国境調整メカニズム(CBAM)への対応を推進している。
同マニフェストでは、戦略的要請として、①市場創出と需要刺激の加速、②水素の規制定義の整備、③資金調達メカニズムの簡素化と強化を挙げており、欧州がクリーンエネルギー技術のリーダーシップを維持するためには、政策立案者が電解槽の市場需要を加速し、規制を簡素化し、長期的な投資の確実性を提供する必要があり、欧州の競争力、主権、回復力を強化することができると結論づけている。
中国の展開
中国工業発展促進協会は2020年8月18日に中国工業発展促進協会水素エネルギー支部(以下、「水素エネルギー促進協会」という)を設立し、中国全土での水素エネルギー産業推進組織を形成している。そして昨年の11月17日に、同協会は、「中国電解装置産業の健全な発展のためのイニシアチブ[iii]」と名付けられた業界協定を公表し、「原価割れの価格設定」と「虚偽の主張」を終わらせ、市場を安定させるための以下の10の基本的措置を講じることを約束した。 これには40社が署名している。
中国電解装置産業の健全な発展のためのイニシアチブにおける10の基本的措置
1 業界の繁栄を過大に約束したり誇張したりするプロジェクト計画を避ける
2 通常のプロジェクト中止による業界発展に関する不当な悲観論を避ける
3 機器のコアパフォーマンス指標を盲目的に自慢するのは避ける
4 原価割れの低価格競争を避ける
5 業界の市場シェアと出荷量における混乱したランキングを避ける
6 規模の拡大のみを追求するのではなく、技術革新を強化する
7 市場秩序を規制するための業界標準を確立する
8 政策支援を合理的に捉え、生き残りのための補助金への依存を避ける
9 業界交流を強化し、市場を共同で育成する
10 海外市場への進出を規制し、中国ブランドのイメージを維持する
水素に限らず、すべての産業セクターで同様な傾向にあると思うが、中国的気質から脱却し、グローバル基準で認められる企業気質と品位を身に着けようとする姿勢が見受けられ、非常に興味深い。
加えて、2026年1月4日には、「2026年における我が国のグリーン水素酸産業の発展動向に関する10の展望[iv]」を公表した。水素エネルギー促進協会」)のデータベースによると、2025年末までに、中国のグリーン水素、アンモニア、メタノールプロジェクトの生産能力は約29万トン/年に達し、水素ステーションは約430カ所が建設・稼働している。また、水素燃料電池自動車は約3万4000台普及したとのこと。電解装置、液体水素装置、70MPa型Ⅳ水素貯蔵タンク、燃料電池などの主要設備とコア部品は、いずれも国産化において飛躍的な進歩を遂げ、第15次五カ年計画では、水素エネルギーを未来産業育成と新たな経済成長拠点創出の重点分野として掲げられている。
2026年は第15次五カ年計画の初年度であり、「中国のグリーン水素・アンモニア・メタノールエネルギー産業が実証・探査段階から大規模開発段階へと移行する出発点となる。産業の発展は、政策主導の実証・探査段階から市場主導の商業化へと移行する。」と述べている。この点に関し、水素エネルギー促進協会は、2026年における中国のグリーン水素・アンモニア・メタノール産業の発展に向けた10の主要な展望を提示している。全文は長文となるので省略するが、以下の10の展望となる。
2026年における我が国(中国)のグリーン水素酸産業の発展動向に関する10の展望
- 産業の確実性を継続的に高めるために、二重炭素排出制御システムを導入する。
2. グリーン価値実現の基盤を強化するために、カーボンフットプリント会計システムを確立する。
3. 的を絞った政策支援により、産業発展における秩序ある躍進が促進されます。
4. 空間的障壁は急速に解消され、産業発展は新たな地域連携の形態へと向かっています。
5. 業界は深刻な調整期に入り、産業発展は徐々に価値重視のアプローチに戻りつつあります。
6. プロジェクト建設が加速しており、完成後の生産能力は年間50万トンを超える見込みです。
7. 貯蔵・輸送システムの構築が加速しており、水素ステーションの土地利用制約にも順調に対処しつつある。
8. 運輸部門は画期的な進歩を遂げようとしており、産業部門では従来の水素からグリーン水素への置き換えが加速している。
9. 規模重視の競争から品質重視の競争へ、水素エネルギー機器の競争は新たな段階に入った。
10. 業界の海外展開モデルをアップグレードし、水素エネルギー産業のグローバルガバナンスに深く参加する。
この記述の説明の中には、中国では今年中にグリーン水素アミンアルコールのカーボンフットプリント算定システムが暫定的に構築されることから、CBAMに対する対応を検討することを念頭に置いた記述も垣間見える。水素エネルギー促進協会は、2026年においては、企業は国内市場でのプレゼンスを高めつつ、海外市場への進出を強化すると予測しており、業界の競争環境は「国内競争」から「グローバル競争」へと移行すると断言している。
前述したとおり、欧州では大手6社が結束し、迫りくる中国企業への対策を早く打つよう政府に促しており、このままだと競争に負けるかもしれないという焦りが見て取れるが、後述の中国は欧州市場に乗り込む自信を感じる。
文章で垣間見える欧州側企業の焦りと中国側の自信の対比が興味深い。欧州は、過去には太陽光発電ではメーカーの開発競争と市場獲得競争に負け、現時点では、陸上・洋上風力発電市場でも中国がトップを占めている状況だ。欧州は、水電解槽の市場を技術優位で牽引してきた。価格優位で攻めるであろう中国は市場をまたも譲ることになるのだろうか。
引用
[i] https://www.electrolysers4europe.eu/
[ii] https://www.electrolysers4europe.eu/manifesto
[iii] https://cn-heipa.com/newsinfo/10818592.html
[iv] https://cn-heipa.com/newsinfo/10916259.html
