EU各国に先駆け、ドイツでREDⅢの国内法化を推進へ ~ 2040年には輸送燃料の12%をRFNBOに転換 ~
(文責: 坂野 佑馬)
再生可能エネルギー指令(RED III)[i]は、EUの気候中立社会実現に向けた重要な枠組みで、特に再生可能エネルギーの比率を2023年から2030年にかけて急速に増加させることを目指している。この指令のもと、EU加盟国に対し2030年までに再エネ比率を42.5%に引き上げ、 2025年5月21日までにREDⅢの国内法の整備を義務付けていたが、どの国も未だに検討段階に状況である。
【REDⅢにおける主な数値目標】
再エネ全体の目標:
- EU全体で再エネのシェアを2030年までに42.5%以上にすることを義務付けている。
産業部門:
- 産業用エネルギーの1.6%の年次増加を達成することを求めている。
- 産業用水素の42%を非生物由来の再生可能燃料(RFNBO:Renewable fuels of non-biological origin、グリーン水素と合成燃料)とすることが義務付け、2035年までに60%に引き上げることを目指している。
輸送部門:
- 再エネの使用によって、2030年までにGHG強度(単位エネルギー使用量あたりのGHG排出量)を14.5%削減することを求めている。
- 輸送部門での再エネの最終消費比率は29%を目指している。
- 次世代型バイオ燃料とRFNBOの合計で5.5%の割合を2030年までに達成し、そのうち1%はRFNBOとする必要がある。
建築部門:
- 再エネの割合を2030年までに49%にすることが推奨されている。
- 毎年1.1%ずつの増加を義務付けている。
さて、2025年6月23日、ドイツ政府は、EUの再生可能エネルギー指令(RED III)の実施に向けた法案を採択した。[ii]この法案は、再生可能エネルギーの発電プロジェクトに関連する排出規制法(Immissionsschutz)[iii]および水資源法(Wasserhaushaltsgesetz)[iv]の承認手続きを大幅に簡素化することを目的としている。政府は、夏の議会休会後に速やかに法案を議会に提出し、可決を目指している。
【ドイツのREDⅢ実施法案の概要】
1. 電子化とデジタル手続きの導入
- 重要な変更点: 2025年11月21日から、再生可能エネルギー関連の許認可手続きは完全に電子化することを求める。これにより、申請者は物理的な書類を提出する必要がなく、全ての申請はオンラインで行われることになる。
- 目的: デジタル化は手続きの効率化を図り、紙ベースでの処理に伴う時間的・人的コストを削減することが目的である。
2. 申請書類の確認と期限
- 申請者が提出した書類を、許認可機関は30日以内に確認し、義務として申請者に通知する。もし書類に不備があれば、許認可機関は申請者に対して修正を求め、期限内に必要な補足情報の提出を指示する。期限内での通知により、申請者は迅速に不備を修正し、手続きを進めることが可能となる。
3. 再生可能エネルギー加速地域内での許認可手続き
- 加速地域の役割: 加速地域は、再生可能エネルギー発電設備が迅速に設置されるための特別な区域であり、地域内で行われる許認可手続きは簡略化され、通常よりも短期間で決定が下される。
- 風力発電の例: 加速地域内での風力発電設備の設置に関して、例えば、150 kW未満の新規設備の場合、30日以内に許認可の決定が下される。また、風力発電設備の大規模な変更(例えば、出力の変更など)があった場合も、迅速な許認可プロセスが適用され、6ヶ月以内に決定が下されることになる。
4. 変更手続きと確認
- 変更時の処理: 風力発電機の設置場所や設備変更に関しては、重大な環境影響を引き起こさない限り、再評価を省略できる場合がある。例えば、設備の配置を若干変更したり、発電容量を若干増加させたりする場合でも、環境影響評価が免除される可能性がある。ただし、設置場所が大幅に変更されたり、施設の性能が大きく変更された場合には、追加的な評価が行われ、環境に与える影響についての調査が行われる。
5. 支払い義務と対策措置
- 支払い義務: 環境保護のため、特に風力発電設備やエネルギー貯蔵施設においては、環境への影響が認められない場合、追加的な支払い義務が課せられる。例えば、風力発電設備に対しては、1MWあたり7,800ユーロの支払いが求められることになる。この支払いは、動植物保護や環境保護プログラムに充てられる。
6. 環境保護と地域の関与
- 許認可手続きは地域の環境に与える影響を評価するため、環境影響評価や動植物保護のための対策が強化される。特に、風力発電設備が地域の動植物に影響を与える場合、施設の運転方法(例えば、回転を抑制する「回転停止」措置)が義務付けられることがある。
7. GHG排出量削減目標とRFNBOの義務化
- GHG排出削減目標:輸送部門におけるGHG排出量を2040年までに53%削減することを目指し、これは同部門での再エネ使用率77%以上に相当する。
- RFNBO義務化:2026年からRFNBOの導入義務が開始され、2026年は0.1%、2030年には1%、2040年には12%に達することが求められる。これは、EUのRED III指令で定められた2030年のRFNBO最低基準1%を上回る数値である。
- 持続可能性基準の強化:食用作物由来のバイオ燃料(例:大豆やパーム油由来)を段階的に廃止し、政府による現地検査を通じて認証された燃料のみが義務達成にカウントされるようになる。
上記のようにドイツでは、REDⅢの国内法化が開始された。この展開に追随すべく、他のEU加盟国でも、国内法化の流れが活発化すると推察される。EUとしては、国内法化を進めない国にはしかるべき対応をとるとスタンスを明らかにしている。REDⅢの国内法化が進めば、欧州におけるRFNBOの重要性がより一層高まってくる。グリーン水素の調達に関連したプロジェクトの動向を注視していく。
引用
[i] https://observatory.clean-hydrogen.europa.eu/eu-policy/renewable-energy-directive
[ii] https://www.bundesumweltministerium.de/pressemitteilung/bundesregierung-bringt-schnellere-genehmigungsverfahren-fuer-erneuerbare-energien-auf-den-weg
[iii] https://www.umweltbundesamt.de/en/immission-control-law#current-research-projects-on-behalf-of-uba