ハンブルグ沖で世界初めての事例:洋上DACユニットを設置しジェット燃料を製造

(文責:青野 雅和)

 ドイツのハンブルクに本社を置く DACMA GmbH[i]が、同社の DAC ユニットである「BLANCAIR」をカールスルーエ工科大学 (KIT)のエングラーブンテ研究所の DVGW 研究センター[ii]が展開するH2Mare PtX-Windプロジェクトで展開するオフショア Power-to-X プラットフォームに設置する契約を締結したことを7月9日に公表した。

 H2Mare PtX-Windプロジェクトは、ドイツ連邦教育研究省(Federal Ministry of Education and Research:BMBF)の資金提供を受けており、同省が進める3つの水素プロジェクト[iii]の一つである。主に洋上風力発電由来の電力を利用し、洋上で水電気分解により水素を製造するだけでなく、e-Kerosene、LNG、メタノール、アンモニアなどの水素誘導体を生産することを目指している。
 H2Mare PtX-Windプロジェクトでは、海上での実験テストのために、移動可能な浮体式実験プラットフォーム(図1)が建設され、前述のように多段階のPower-to-liquid(PtL)プロセスが設置される。

図1 浮体式実験プラットフォーム

出典:DACMA GmbH HPより

 H2Mare PtX-WindプロジェクトにおけるDACの活用は、最終的にはフィッシャー・トロプシュ合成(FTS)によりジェット燃料用の合成パラフィン灯油(synthetic paraffinic kerosene:SPK)を製造することを目的としており、以下のステップで製造される。

  1. DACMA GmbHによる大気からのCO2回収
  2. 海水から電気分解用の超純水の製造
  3. 高温共電解法によってCO2と超純水から合成ガスを生成
  4. 逆水性ガスシフト反応(Reverse Water Gas Shift Reaction:rWGS)[iv]に従って、水蒸気電気分解に続いて水素によるCO2を変換
  5. フィッシャー・トロプシュ合成(FTS)により、FT 合成原油をSPK にアップグレード

 テストは、KIT 北キャンパスのエネルギー ラボの一部である PtX ラボで実施され、その後、同様のテストが 2025年の夏にハンブルグ沖にあるヘルゴラント島付近の北海のドイツ領海で実施される予定。FTSには原料としてCO2 が必要であり、約 100kg/日規模の入力を必要とするもので、DACが唯一の実行可能な設備ということで選択されている。
 DACユニットを設置している事例は過去に三菱造船の事例があるが、ジェット燃料迄製造するプロセスを設置した事例は世界初となる。

 ドイツのハンブルクに本社を置く DACMA GmbH は、最先端の技術を備えた先駆的な DAC メーカーです。当社の最初のDACは 2023 年に納品されている。当社のスケーラブルな設計はギガトンの容量に達し、最小限のエネルギー需要で高い CO2 吸収を保証するとのこと。当社はマドリードに本拠を置くスペインの多国籍エネルギー・石油化学会社REPSOLのベンチャーキャピタルであるRepsol Energy Venture SAが23年10月24日に株主となっており、ブラジルのリオグランデドスル州立カトリック大学 (Pontificia Universidade Católica do Rio Grande Do Sul:PUCRS)[v] で実証されるDACプロジェクトに同社製品のBLANCAIRを納品している。

引用

[i] https://dacma.com/about-blancair-and-dacma/

[ii] https://www.dvgw-ebi.de/en/dvgw-ebi/news/h2-mare-lead-hydrogen-project-launched

[iii] https://www.wasserstoff-leitprojekte.de/projects

[iv] 水素と二酸化炭素を反応させ、合成ガスを製造する反応を指す

[v] https://www.pucrs.br/en/