EUでは環境破壊対策への意識がより一層高まっている
(文責:坂野 佑馬)
2019年12月に欧州委員会(EC)から発表された欧州グリーンディール政策※1は、気候変動に対する対策の印象が強いかもしれないが、EUでは気候変動は生物多様性危機や森林破壊、海洋汚染などと密接に結びついており、これらの問題全体へ並行して対策を行っていくべきと考えられている。
2021年11月17日にECは、欧州グリーンディールの一環として、「森林減少(deforestation)と森林劣化(forest degradation)に関連する商品・製品のEU市場での流通ならびにEU外への輸出に関する規則案(EU)995/2010」※2を発表した。ここでの「森林破壊」とは「森林を農業利用に転換すること」を意味する。また、「森林劣化」とは「森林を伐採することによって、自然再生力の低下を招き、生態系や炭素を貯蔵する能力が低下すること」を意味している。同規則案では、地球温暖化や生物多様性に悪影響を及ぼす主原因の1つとされている「商品作物用農地の拡大に伴う森林破壊」を防止することを目的としている。
同規則案において、森林破壊・森林劣化を引き起こしている生産地由来の生産物をEU市場に持ち込ませることを禁止することが、結果的に森林破壊の抑止に繋がるという考え方が根幹にある。対象生産物をEU市場に供給する業者は、EU市場へ供給する前に、「生産地が2020年12月31日以降の森林破壊によって開発されたものでないこと」と、「生産国の法令を順守していること」をデューデリジェンス(Due Diligence:詳細調査を意味する)し、報告書を提出する義務が課せられる。加えて、森林伐採が必要な場合には森林劣化に繋がらないよう、適切に植林等を行い、持続可能な森林経営を行う必要があると記してある。デューデリジェンスにより不適合リスクがあると判明した場合、またはデューデリジェンスを実施・完了できない場合は、対象産品をEU市場に供給することはできない。規制の対象となる生産物としては、大豆、牛肉、パーム油、木材、カカオ、コーヒーの他、付属書I※3に規定された対象生産物を原料とする皮革、チョコレート、家具などの二次生産物が挙げられる。
弊社ドイツのB.A.U.M. Consult GmbH を設立したB.A.U.M. e.V.ではこの新規則案の発表に先駆けて「森林破壊のない農業用原材料のサプライチェーンに関するチェックリスト」※4を提供している。これは国連生物多様性条約(CBD)の目標に基づいて策定されたもので、チェック項目は以下の9つとなっている。
- 戦略と管理
- 様々なステークホルダー
- 企業の所有する不動産
- 購入:原材料、エネルギー、水など
- 製品開発と生産
- ロジスティクスと物流
- 製品とサービス
- 販売とマーケティング
- 人材
EUでは気候変動対策だけでなく生物多様性保全へも、世界に先んじて取り組みを進めている。ユニリーバが森林、泥炭地、熱帯雨林のほかにも、炭素蓄積量が多く保護価値の高い重要な地域の保護活動を行っているように、国家レベルでなく企業単位でも対策を推進している。脱炭素・カーボンニュートラルへ向けた取り組みだけでなく、こうした環境保全へ寄与する事項へも、更なる投資が今後必要になってくることは予想できる。日本国内にも環境保全に関する規制が適用されるようになることを予測し、先進的なEUの規制や評価基準を参考に対策を講じておくことが将来の助けになるように思う。
※1 EU_欧州グリーンディール概要。
https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en
※2 EC_規則案(EU)995/2010 原文。 https://ec.europa.eu/environment/system/files/2021-11/COM_2021_706_1_EN_ACT_part1_v6.pdf
※3 EC_規則案(EU)995/2010 付属書Ⅰ。
※4 B.A.U.M. e.V. _環境破壊のないサプライチェーン。