北欧の自治体は地域のGHG排出量データの精緻化を進める
~日本国内においてもCFPの展開から波及していくか~
(文責:坂野 佑馬)
今日、脱炭素化の必要性が叫ばれ、企業のみならず自治体や消費者にものその意識浸透しつつある。脱炭素化を推進する上では、その第一段階として温室効果ガス(GHG)の排出量を把握することが重要であるというのが一般論とされている。北欧の自治体においては、このGHG排出量の把握をより正確に、詳細に実施しようという動きが見られる。
北欧閣僚理事会(Nordic council of ministers)は「自治体の消費に基づく温室効果ガスの排出量インベントリー」についての調査を行った。※1本調査の対象となったのは、デンマークの52自治体、フィンランドの71自治体、ノルウェーの71自治体、スウェーデンの68自治体である。北欧閣僚理事会が言うには、北欧の自治体の多くは、GHG排出量削減のために野心的な目標を設定し、国がUNFCCC(国連気候変動枠組条約)の事務局に年次報告と同等な取り組みで、GHG排出量のモニタリングを行ってきた実績があるとしている。
こうした取組は日本国内においても実施されており、「自治体排出量カルテ」※2という名前で公表されている。読者の皆様にはご存じの方も多いと思うが、簡単に紹介すると、GHGの部門別排出量や特定事業所(算定報告公表制度における)の排出量等の経年実績データ、及びREPOSにおける再エネポテンシャルデータ等の地域自治体のGHG排出量に関する情報を包括的に整理した資料となっている。「自治体排出量カルテ」におけるGHG排出量の現況推計に関しての算出方法は公表されているが、市区町村の排出量を計算する場合に利用される排出原単位は日本もしくは都道府県レベルでの平均値が採用されている。
今回、北欧閣僚理事会の調査テーマとなっている「消費に基づくインベントリー」とは、「全ての製品・サービスについての排出原単位を用いて、最終消費が行われる地域における全ての関係者によって算定される排出量のデータベース」とされている。つまりはより実態に即したGHG排出量を把握するために、活動量(製品・サービスの利用量)及び排出原単位についても個別具体化を進めていくというものである。
自治体が「消費に基づくインベントリー」を完成させた場合の利用用途について、回答者の圧倒的多数(4カ国全体で90%近く)が、「排出量を削減するための行動を特定し、優先順位をつけるために利用できる可能性がある。」と回答した。
図1.自治体の「消費に基づくインベントリー」の利用可能性
出所:北欧閣僚理事会の資料より引用
少し焦点がずれるが、日本国内の自治体においてもGHG排出量の把握の精緻化を図る取組が散見される。一例として、大阪府で現在展開(公募は終了し、委託先の選定も終了)されている「サプライチェーン全体のCO₂排出量見える化モデル事業」においては特定の事業者(江崎グリコ社、サラヤ社、三起商行社、ミズノ社)に対し、製品のカーボンフットプリント(CFP)値を算定及び削減に向けたコンサル 等をモデル的に支援している。※3具体的には、①モデル事業者の選定とサプライチェーン排出量の算定(1次データ&2次データ(IDEA等を想定)活用)、②排出量削減に向けた提案、③業種毎の汎用的かつ簡便な算定モデルの構築を支援する。この事業は、大阪府が掲げるGHG排出量削減目標の達成にむけて、2025年日本国際博覧会(大阪・関西万博)も1つの契機としながら大阪府内の事業者による排出削減対策を加速させることを目的としている。
世界全体で、GHG排出量の把握はより正確さ、精緻さが求められるようになってきている。その潮流は企業のみならず自治体レベルにおいても求められるようになってきているようだ。これらの展開を静観することなく、各自治体には自らの地域のGHG排出量の把握のレベル(緻密性や把握プロセス)を今一度見直す必要があるかもしれない。
引用
※1 https://pub.norden.org/nord2023-021/index.html
※2 https://www.env.go.jp/earth/ondanka/ghg-mrv/overview.html
※3 https://www.pref.osaka.lg.jp/eneseisaku/supplychain/index.html