日本の陸送・海運の脱炭素化事業としてのHVO輸入利用への期待

(文責:青野 雅和)

 ドイツでは2023年3月3日に給油所での100 % 合成燃料販売が承認され、既にHVO100 の給油スタンドがミュンヘン北隣に位置するシュロベンハウゼンとインゴルシュタットでZIEGLMEIER社 が展開している。同社が供給するHVO100 は、再生可能で持続可能な原材料から作られている。HVO100 は従来のディーゼル燃料と同様の化学組成を持っているため、エンジンや分配システムを調整する必要はない。いわばドロップイン燃料と呼ばれている燃料であり、ドイツでは既にDeutsche Bahnの貨物輸送におけるディーゼル機関車の燃料として利用されている。HVOは廃油やバイオマス(生物資源)を水素化処理した燃料であり、Hydrotreated Vegetable Oilの略で、日本語では水素化処理植物油と呼ばれている。
 本稿では、弊社NEWSの8月21日の投稿「ドイツ、オランダではDeutsche Bahn Cargoがディーゼル機関車でHVOを利用」に続いてHVOを取り上げ、日本でも利用が拡大されている状況をお伝えする。

1.マツダにおける自動車での実証実験
 日本ではマツダがスーパー耐久の2023年シーズンでレーシングカーとして利用しているディーゼル車のマツダ3(車名:「MAZDA 3 Bio concept」)でドイツの燃料メーカーからユーグレナ社が輸入したユーグレナ社がドイツの燃料メーカー から輸入したもので、それをレースで使用し、検証している。

2.バスでの利用
 日本では2010年に遡るが、国土交通省が「次世代低公害車開発・実用化促進プロジェクト」の一環としてFTD燃料とHVO燃料を混合使用するハイブリッド路線バスの実証運行を7月1日より東京都で6カ月展開した。
 また、海外ではオーストリア でBLAGUSS社が同社の3種類のバスでHVO(図参照)を既に商業利用しており、同社は2035年にカーボンニュートラルゼロを実現するとしている。

3.トラックでの利用
 BMWグループ(BMW Group)は2022年4月からHVOを部品輸送に使用するパイロットプログラムをドイツで開始している。ドイツ・ミュンヘン工場と、その約120km北東のランダウ・アン・デア・イザールを結ぶルートでは、6台のトラックがNESTE社のHVOであるNeste MY Renewable Dieselに利用し1日に数回往復している。

4.重機での利用
 日本ではコマツと100%子会社である欧州コマツが、欧州地域の工場で生産される建設・鉱山機械の充填燃料を、ディーゼル燃料から水素化植物油(以下、「HVO燃料」)に順次切り替えることを決定している。2023年4月より、コマツドイツ(有)建機部門(以下KGC、ドイツ ハノーバー)の工場で切り替えを開始しており、順次、他の欧州地域の生産工場でも切り替えを進めるとのこと。

5.船舶での利用
 日本郵船は伊藤忠エネクス株式会社よりフィンランドNESTE社のバイオディーゼル燃料:Neste MY Renewable Dieselの供給を受け、試験航行を7月27日から開始している。

図 BLAGUSS社のHVO利用バス

出典:BLAGUSS社HP

 日本におけるHVOの供給は上述のようにドイツもしくはフィンランドからの輸入であり、海外では、フィンランドのNESTEやイタリアのEni、スウェーデンのPreem 米国のDiamond Green Dieselが生産しているが、日本では生産されていないと推察される。HVOは既存のディーゼル燃料と比較して90%のCO2削減が可能とされており、既存のディーゼル車両や船舶の改造を必要としないことから、新たな投資(コスト)を必要としない点で非常に有望な燃料である。日本ではSAFが取りあげられ、グリーンなジェット燃料として期待されているが、HVOはSAFの製造過程で製造可能であることから、陸送や海運で脚光が浴びることで今後輸入が拡大される燃料と思料する。グリーン水素に至るまでの移行期間でenjoyすることを検討する企業も今後現れ、利用が拡大するのではなかろうか。市バスやその他物流セクターのトラックでも利用可能である。自治体や地域の脱炭素化の有望な事業モデルとしても検討頂きたい。

[ⅰ] https://www.zieglmeier.de/

[ⅱ] https://baumconsult.co.jp/2023/08/21/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e3%80%81%e3%82%aa%e3%83%a9%e3%83%b3%e3%83%80%e3%81%a7%e3%81%afdeutsche-bahn-cargo%e3%81%8c%e3%83%87%e3%82%a3%e3%83%bc%e3%82%bc%e3%83%ab%e6%a9%9f%e9%96%a2%e8%bb%8a%e3%81%a7h/

[ⅲ] https://motor-fan.jp/mf/article/130128/

[ⅳ] https://n.freemap.jp/st/list.html

[ⅴ] https://www.press.bmwgroup.com/japan/article/detail/T0414238JA/bmw%E3%82%B0%E3%83%AB%E3%83%BC%E3%83%97%E3%80%81%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E5%8C%96%E6%A4%8D%E7%89%A9%E6%B2%B9%E7%87%83%E6%96%99%E3%82%92%E4%BD%BF%E3%81%84%E9%83%A8%E5%93%81%E3%81%AE%E8%A9%A6%E9%A8%93%E8%BC%B8%E9%80%81%E3%82%92%E9%96%8B%E5%A7%8B?language=ja

[ⅵ] https://www.komatsu.jp/ja/newsroom/2023/20230420

[ⅶ] https://www.nyk.com/news/2022/20220727_01.html