欧州気候変動適応計画Pathways2Resilienceから見た、日本の異常な気候への示唆

 近年、記録的な少雪や暖冬、局地的な少雨により、例年(平年)と比べてダムの流入量が大幅に低下する渇水が頻発している。特に2024~2025年にかけては、30年に1度レベルの降水不足や、冬期〜春先の降雪・降雨量減少が原因で、渇水が起きている。弊社でも渇水を取り上げて報告しているが、昨年は空梅雨による渇水が夏に現れ、新潟県上越市や兵庫県加古川市で節水要請や取水制限が実施されていた[i]

 こうした今の日本の気象状況を考えると、各自治体の展開や我々国民がどのような意識で人生を過ごしていくべきかと思ってしまうわけであるが、気候変動適応へのアナウンスの仕方は日本と欧州で大きく違うと考える。日本では土地の価値や魅力が棄損してしまう恐れから自身の土地にリスクがあることは余り吹聴しないようにする意識が働いていると感じる。一方で、欧州では明確に現状を公開し、対策を打つために資金と知略を投入していく覚悟を感じるのである。本稿では、前半に日本の1月の気候の現況を気象庁の情報を基に記し、後半で欧州の気候変動適応の自治体ネットワークに関して触れる。

2026年の渇水は1月から展開するのであろうか?

 気象庁によれば、2026年1月の降水量は、西日本日本海側と西日本太平洋側では、月降水量平年比がそれぞれ41%、9%、月間日照時間平年比がそれぞれ136%、133%となり、1946年の統計開始以降、西日本太平洋側では1月として1位の少雨・多照、西日本日本海側では1月として1位の少雨、1位タイの多照となった[ii]。図1に状況を示す。

  

図1 平均気温平年差、降水量平年比、日照時間平年比の分布

出典:気象庁

 気象庁は「気候変動監視レポート」では、こうした日本と世界の大気・海洋等の観測・監視結果に基づき、社会経済活動に影響を及ぼす気候変動に関する最新の情報をまとめている。2026年2月17日に更新された、同レポート[iii]によると、「2025年の日本の年平均気温偏差は+1.23℃で、1898年の統計開始以降、3番目に高い値となった。日本の年平均気温は、100年あたり1.44℃の割合で上昇している。」と報告しており、降雨量に関しては、「2025年の日本の降水量の基準値(1991〜2020年の30年平均値)からの偏差は-153.8mmでした。」とあり、降雪量に関しては、「日本の年最深積雪の基準値に対する比は、日本海側の各地域とも減少しているとみられます(統計期間1962~2025寒侯年で、北日本日本海側で信頼水準90%、東日本日本海側で信頼水準95%、西日本日本海側で信頼水準99%で統計的に有意)。」との結果を報告している。

 日本における大雨の発生頻度と強度は、1時間降水量80mm以上、3時間降水量150mm以上、日降水量300mm以上など強度の強い雨は、1980年頃と比較して、おおむね2倍程度に頻度が増加(図2参照)しており、全国の日降水量1.0mm以上の年間日数は減少している(図3)。また、北日本、東日本、西日本の日本海側で、積雪量は減少しているとみられる(図4に北日本のみ掲示)。

図2 全国(アメダス)の日降水量300mm以の年間日数

出典:気象庁

図3 全国(51地点平均)の日降水量1.0mm以上の年間日数

出典:気象庁

図4 北日本 日本海側の年最深積雪の基準値との比較

出典:気象庁

 こうした、気候変動が様々な分野へのリスクを生じ、市民のインフラや生活、場合によっては生命を脅かすことを日本自治体は認識しているが、さほど一般の方々には伝わっていないように感じる。筆者の知り合いの農家の方々から最近は生育状態が良くないとは頻繁に聞くが、その原因と対処をどうするのか?例えば種まきと収穫時期を従来と変えていくなど、その具体的な策についての声を聴くことは無い。水稲等の穀物は時期を変更することで生育環境を変更できるが、既に根付いている果樹は生育場所・地域を変更することは難しく、生育果樹を変更することとなり、数十年先を見越した農業となる。気候変動は現在進行しているわけであるが、農林水産省が気候変動適応法に基づく「気候変動適応計画」を公表しており、記載されている対処策は2030年を目途としたものである。脱炭素化のロードマップでは2050年からの逆算で策定されている中、農業の気候変動対策も中長期スパンのロードマップが必要と思われる。それほどに急激に気候変動が起きていると認識すべきではなかろうか。図5の気象庁発表の「日本の年平均気温偏差の経年変化」は筆者も5年ほど継続してチェックしているが、2022年を境にこれまでの日本の環境から劇的に気象が変化していくのではと心配している。2022年からわずか3年で約1度も増加しているのである。二拠点生活などが世論では謳われているが、そんな悠長な状況ではなく、夏の避難先としての住環境を考えるレベルにあるのかもしれない。

図5 日本の年平均気温偏差の経年変化(1898〜2025年)

出典:気象庁資料にBCJ加筆

 日本の自治体は確実に気候変動適応に関して対策の重要性を認識しているが、欧州では欧州各国・自治体間での連携し、お互いに情報交換と痛みを共有していくことを実践している。

欧州における気候変動適応の自治体の動きを支援するICLEI

 世界では、持続可能な都市開発に取り組む 2,500 以上の地方自治体および地域自治体からなるグローバル ネットワークが構築されている。ドイツのボンに本拠地を構える- Local Governments for Sustainability e.V. (通称ICLEI)であり、この非営利団体は125カ国以上で活動し、持続可能性に関する政策に影響を与え、低排出、自然を基盤とした、公平で、レジリエント(強靭性)な、循環型の開発に向けた地域活動を推進している。

 ICLEIは、都市部における災害リスク削減を目指す「都市レジリエンス強化2030(Making Cities Resilient 2030(MCR2030)」の中核パートナーである。ちなみに、MCR2030国連防災機関(UNDRR)が主導し、地方自治体を通じた都市の災害に対する強靭性の促進を追求しており、世界の1972の都市が参加し、日本の都市では仙台市が2024年にMCR2030レジリエンス・ハブ(他の都市に知見を共有し、支援する役割を担う都市)に日本では初めて認定されている。

 このICLEIが欧州環境庁による共同イニシアチブであり、10年以上にわたり、都市代表者や様々な地方・地域機関のステークホルダーが一堂に会し、気候変動への適応と都市レジリエンス構築のための戦略・行動を議論する欧州都市レジリエンスフォーラム(European Urban Resilience Forum :EURESFO)を提供してきた。2026年は2026年6月17日から19日までポルトガルのギマランイスで開催される。

 また、欧州では欧州委員会にHorizo​​n Europeホライズン・ヨーロッパ[iv]に基づく資金調達の機会が定められている。この資金調達による気候変動適応の政策の一つが、Pathways2Resilience(P2R)イニシアチブである。Pathways2Resilienceは、ヨーロッパ全域の100の地域とコミュニティが、変革的な気候変動レジリエンス戦略を策定・実行できるよう展開されている。前述のICLEI EuropeはPathways2Resilienceプログラムのパートナーである。

ヨーロッパ地域のうち62地域100自治体が気候適応計画を強化

 欧州で推進されている気候変動適応計画として最も推進されているプログラムは「Pathways2Resilience[v]」であろう。同プログラムでは最も脆弱なヨーロッパ地域のうち62地域100自治体が、 EU気候変動適応ミッションの旗艦プロジェクト「Pathways2Resilience」に基づき、気候適応計画を強化するために選定されている。2023年に開始されたこのプログラムは、現在、合計100の地方自治体(1億人以上の住民を代表する)が、実証済みのレジリエンス計画アプローチを通じて気候変動の影響への備えを強化することを目的とした様々な研修セッションに参加している。

 2つのコホート(共通の特性や経験を持つ観察対象のグループ(集団)のこと)で類別され62地域が参加しているが(表1と図6参照)、新たに選定された地域のうち5地域はICLEI会員であり、オールボー(デンマーク)、ベルファスト(イギリス)、ブラガ(ポルトガル)、ペスカーラ(イタリア)、ティラナ(アルバニア)である。この5地域の人口は約5,500万人であり、インフラ、公共の安全、文化部門に影響を及ぼす主要な気候災害として、沿岸および河川の洪水(43%)、熱中症(36%)、干ばつ(21%)が挙げられている。新たに選定された5地域は、2024年10月にプログラムを開始した38地域に加わり、貴重なピアサポート(同じ経験や境遇を持つ人(ピア=仲間)」同士が、対等な立場で支え合う活動)と経験を得ることが可能となる。各地域には21万ユーロの助成金に加え、カスタマイズされたツールとガイダンス、インタラクティブなピアラーニング、メンタリング、10カ国15組織のパートナー[vi]による専門家による指導へのアクセスが提供されるとのこと。図6が分かりやすいが、海に面した都市が多く参加している。

下記表1 Pathways2Resilience参加地域(下記赤字は新たに参加したICLEI会員地域)

出典:Pathways2ResilienceよりBCJ作成

図6 Pathways2Resilience参加地域の位置

出典:Pathways2Resilience

引用

[i] https://baumconsult.co.jp/%e3%83%87%e3%83%bc%e3%82%bf%e3%82%bb%e3%83%b3%e3%82%bf%e3%83%bc%e3%81%ab%e3%81%8a%e3%81%91%e3%82%8b%e6%b0%b4%e8%b3%87%e6%ba%90%e6%b4%bb%e7%94%a8%e3%81%ae%e5%9f%ba%e6%ba%96wue%e3%82%92%e5%b0%8e/

[ii] https://www.data.jma.go.jp/cpd/longfcst/monthly/202601/202601m.html

[iii] https://www.data.jma.go.jp/cpdinfo/monitor/index.html

[iv] Horizon Europe:欧州と世界の最高の頭脳を結集して、現代の重要な課題に対する優れたソリューションを提供し、EUの政策優先事項を支援するとともに、欧州の次世代のためによりよい未来を築くことを目的とした研究とイノベーションのためのEUの主要プログラムで、日本の機関も参加者として加わる事が可能。

[v]https://www.pathways2resilience.eu/news-100-European-Collaborate-to-Advance-Climate-Resilience

[vi] ERRIN、ICLEI、CKIC、Regions4、RCCC、Deltares、Tecnalia、IIASA、、ICLEI、LGI、GIB、AUEB、PWA、PPMI,IIED Europe