欧州における核融合発電の最前線:EU・英国・フランスの取組

(文責: 坂野 佑馬)

 弊社NEWSではこれまで複数回に渡り、米国、ドイツ、中国における核融合発電の動向を紹介してきた。本稿では、EU、イギリス、フランス各国政府の核融合発電開発に対する方針を整理する。

EU

 欧州連合における核融合開発は、世界最大の科学協力プロジェクトである「ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)」[i]を中核としている。フランス南部のカダラッシュで建設が進むITERには、日本、欧州、米国、中国など7つの国・地域が参加しており、EUはその費用の約45%(2021-2027年予算で約56.1億ユーロ)を負担するホスト役を務めている。

 また、EUにおける核融合開発は、「欧州原子力共同体(Euratom)研究・訓練プログラム」[ii]を通じて一元化されており、25の加盟国にウクライナ、スイス、英国、ノルウェーが加わる巨大な研究コンソーシアム「EUROfusion」[iii]がその実務を担っている 。

  • ITERの役割

 ITERの最大の目標は、投入したエネルギーの10倍の熱出力(Q値=10)を達成することにある。しかし、当初の計画より大幅な遅延をきたしている現状である。そんな中、EUはITERを単なる遅延プロジェクトではなく、世界最大の「核融合実証施設」として再定義している。ITERの役割は、遠隔保守、超伝導マグネット、トリチウム循環系の統合的な運用データを民間企業に提供することに移行しつつある。

  • 2026年「EU核融合戦略」とムーンショット

 2021年から2025年までの欧州原子力共同体研究・訓練プログラムには、総額約13.8億ユーロの予算が割り当てられている。このうち、核融合研究開発への多国間共同研究には5.83億ユーロ、共同研究センター(JRC;Joint Research Centre)のプロジェクトには5.32億ユーロが充てられている。

 現在、EUは2028年から2032年を対象とした欧州原子力共同体研究・訓練プログラムの策定プロセスに入っており、そこでは「ムーンショット」的な加速策が検討されている。2025年春に行われた事前評価では、単なる研究の継続ではなく、産業界の競争力を強化し、スタートアップを支援するための「強化型ユーラトム・プログラム」の創設が提案された 。

  • EUROfusionロードマップ「European Research Roadmap to the Realisation of Fusion Energy」[iv]

 2012年に初版が公表されたEUROfusionのロードマップは、21世紀後半のグリッド接続を目指し、解決すべき課題を8つのミッションに分類している 。

  1. ITER実験のためのプラズマ領域の確立: 核燃焼プラズマの制御技術の確立。
  2. 熱排気管理: ダイバータ技術の開発。イタリアのDTT(Divertor Tokamak Test)プロジェクト[v]がこのミッションの要となる。
  3. 中性子耐性材料の開発: 核融合環境に耐えうる鋼材や合金の研究。
  4. トリチウム自己充足: 増殖ブランケット技術の確立。ITERでのテストブランケットモジュール(TBM)実験が鍵となる 。
  5. 安全性と放射性廃棄物管理: 受動的安全性の確保と長寿命廃棄物の低減。
  6. DEMOの統合設計: 実験炉から発電炉への発展。
  7. 経済性の追求: 発電コストの低減と産業エコシステムの構築。
  8. ヘリカル型の最適化: トカマク型以外の有力候補としての研究。

英国

 EUを離脱した英国は、独自の核融合戦略を掲げ、野心的な商用化ロードマップを描いている。

  • 2040年の発電開始を目指す「STEP(Spherical Tokamak for Energy Production)プログラム」[vi]

 英国の戦略の柱は、ノッティンガムシャー州の石炭火力発電所跡地に建設されるプロトタイプ核融合発電所「STEP」である。STEPは「球状トカマク方式」と呼ばれる、従来よりも縦に細長いコンパクトな形状の装置を採用する。これにより、建設コストを抑えつつ効率的にエネルギーを取り出すことを狙っている。STEPプログラムは、英国の公共機関であるUKAEA(UK Atomic Energy Authority)[vii]の子会社、UKIFS (UK Industrial Fusion Solutions Ltd) が主導し、Eni、AtkinsRealis、Westinghouseなどの大手民間企業をエンジニアリング・建設パートナーの候補として選定している 。目標とするのは、2040年代初頭までに実際に電力をグリッド(送電網)へ供給し、商用化の先陣を切ることだ。

 英国政府は2025年、単年度で4.1億ポンド(約800億円)の予算を核融合に投入することを決定した。この過去最大の予算は、STEPの設計加速、およびオックスフォードシャーのカルハム核融合エネルギーセンターにあるトカマク装置「JET(Joint European Torus)」[viii]の転用などに充てられる。

  • 「核融合は原子力ではない」という法規上の決断

 英国政府は、核融合を既存の原子力発電(核分裂)の規制から切り離し、より柔軟な安全基準を適用する方針を明確にした。現在の原子力発電は、連鎖反応を制御し続ける必要があり、万が一の際には深刻な事故のリスクが伴う。しかし、核融合は燃料の供給を止めれば反応が瞬時に停止するため、チェルノブイリのような暴走事故は物理的に起こり得ない。この本質的な安全性を法的に認めることで、民間企業が過度な規制コストに悩まされることなく、自由に投資・開発できる環境を整えたのである。

  • 英国核融合材料の研究開発ロードマップ「UK Fusion Material Roadmap 2.0」

 2025年9月、UKAEAは「UK Fusion Material Roadmap 2.0」を公表した 。このロードマップでは、商用化に向けた以下の4つの重要課題を特定している。

  1. 超伝導マグネットと遮蔽: 20テスラ級の強磁場および極低温環境での中性子耐性の確保。
  2. トリチウム増殖技術: 効率的なトリチウム生産と透過防止バリアの開発。
  3. 高温構造材料: 550℃以上の高温領域でクリープ耐性を持つ材料の創出。
  4. 放射線硬化材料とシミュレーション: 実環境での中性子損傷を予測するモデリングの高度化。

フランス

 フランスはITERの建設地を提供している「ホスト国」として、欧州の核融合研究を物理的に支えている。また、フランス代替エネルギー・原子力委員会(CEA;French Alternative Energies and Atomic Energy Commission)は、ITERの建設を技術的に支援しつつ、国内のスタートアップ支援を強化している。 

  • WEST(Tungsten Environment in Steady-state Tokamak)装置による世界記録

 カダラッシュにあるフランスの実験装置「WEST」は、ITERで使用される全タングステン製ダイバータ(不純物や熱、 不要な粒子を排出し、炉壁やプラズマの純度を守るための機構)の挙動を評価する重要な役割を担っている 。2025年2月に22分間(1,337秒)という長時間プラズマ維持の世界記録を樹立した。[ix]この成果は、ITERおよび将来のDEMOにおける長時間パルス制御に向けた大きな一歩と評価されている。

  • 「フランス 2030」投資計画:

 マクロン大統領が主導する「フランス 2030」計画では、革新的な原子力技術の開発に多額の予算が配分されている。2023年11月、政府は「革新的な原子力原子炉」公募の当選者を発表し、その中に複数の核融合スタートアップが含まれた。例えば、核融合スタートアップのRenaissance Fusion社は、ヘリカル型を採用し、高温超伝導マグネットと液体金属壁技術を組み合わせたコンパクトな原子炉の開発している。

 欧州では、EU全体の協調体制を維持しつつ、各国がそれぞれの強みを活かして独自の加速策を講じている。今後の焦点は、2030年代後半から2040年代にかけて、パイロットプラントが実際に経済的な電力を供給できるか、そして複雑な大型設備を製造するための強固なサプライチェーンを構築できるかにある。どの国が核融合発電商用化レースで抜きん出るか、注視が必要だ。

引用

[i] https://www.iter.org/

[ii] https://research-and-innovation.ec.europa.eu/funding/funding-opportunities/funding-programmes-and-open-calls/horizon-europe/euratom-research-and-training-programme_en

[iii] https://euro-fusion.org/

[iv] https://euro-fusion.org/eurofusion/roadmap/

[v] https://www.dtt-project.it/

[vi] https://stepfusion.com/

[vii] https://www.gov.uk/government/organisations/uk-atomic-energy-authority

[viii] https://euro-fusion.org/devices/jet/

[ix] https://www.cea.fr/english/Pages/News/nuclear-fusion-west-beats-the-world-record-for-plasma-duration.aspx