ネイチャーポジティブがサステナブル・ツーリズムとアドベンチャー・ツーリズムに貢献しているドイツの観光市場

(文責: 青野 雅和)

 日本の観光は、観光産業としての勃興、そして大量消費(マスツーリズム)的な団体旅行、最近は上述のような、特定の目的を達成するための観光(オルタナティブツーリズム)もしくは個人の嗜好に基づいた個人旅行に移行してきている。この個人旅行のテーマの1つとしてエコツーリズムがある。

 エコツーリズムは自然志向の意識に基づいた旅行であり、自然環境の保全に貢献することを目的とした自然志向の観光の一形態であり、一般的には環境への影響が最小限で、保全と環境教育の両方への貢献を含むと定義されている。

 グローバリズムが進む現在、「意識のネットワーク化」によりインターネット等の技術インフラを介し、国境を越えて情報、価値観、文化が瞬時に共有されていく中で、観光業においても地域の文化と資源、歴史のサステナブル化を尊重すべきであり、観光業の当事者と観光者そのものが責任を持つという考え方である「サステナブル・ツアー」が浸透しつつある。環境への関わり方がグローバリズムによって世界に浸透し、日本でも広まりつつあるのであろう。観光そのものを環境への関わり方でとらえる目線が世論に普及していると考えて良いであろう。

 なので、観光業における環境用語が関わる言葉は、エコ⇒サステナブルに移行していると筆者は見ている。この点は読者も得心いただけるのではなかろうか。しかしながら、エコツーリズムはサステナブル・ツアーに包含される考え方であり、同様な視点ではネイチャー・ポジティブ・ツアーなる考え方も含まれ、最近は観光業界でも認識され始めているのではなかろうか。ネイチャー・ポジティブ・ツアーとは、観光を通じて生物多様性の損失を止め、自然環境をプラスの回復軌道に乗せる(ネイチャーポジティブ)ことを目指す、参加型の旅です。サンゴの植え付けや植林活動、環境保全活動体験などを通じて、地域環境の再生に寄与するサステナブルな観光手法であり、積極的な自然回復(リジェネラティブ)を目指すリジェネラティブツアーなる用語も出てきている。

 本稿では、前述したサステナブル・ツーリズムにおけるドイツの状況と、今後活況となると予測するドイツ人が好きなアドベンチャー・ツーリズムを紹介したい。

ドイツのサステナブル・ツアーの展開

 ドイツでは、観光の用語の一つに「Sanfter Turismus」がある。これは「優しい観光:

 ソフトツーリズム」と訳され、環境への影響を最小限に抑え、地元の文化を尊重し、地元経済に利益をもたらす旅行形態を指す。主な原則としては、公共交通機関の利用、環境に優しい宿泊施設への宿泊、ハイキングやサイクリングなど環境への影響が少ない活動への参加などがあり、大量観光よりも持続可能性を優先している。「Sanfter Turismus」は、1970年代後半から1980年代初頭環境や社会に及ぼす悪影響に対する批判的な反応として開発された。1988年に世界観光機関(UNWTO)によって決められた“責任ある観光”(responsible tourism)として正式な定義を行われ、ソフトツーリズムは“責任ある観光”responsible tourismに包含され、現時点では”持続可能な観光” (sustainable tourism)に言葉を変えて受け継がれてきている。現在、ドイツの連邦環境・気候対策・自然保護・原子力安全省(BMUKN:The Federal Ministry for the Environment, Climate Action, Nature Conservation and Nuclear Safety)は”持続可能な観光”sustainable tourismという言葉を使っている。

ドイツにおけるサステナブル環境・社会基準を旅行業が取り入れている

 ドイツ環境保護庁(UBA)が2024年に実施した調査によると、国民の48%が環境に配慮した休暇を希望し、62%が社会規範に沿った休暇を望んでおり、ますます多くの旅行業者が、法的拘束力のある環境・社会基準をブランド戦略に取り入れ、関連する認証やラベルを付与しているとのこと。これらの該当基準は、例えば以下の要素である。

  • 水などの天然資源の節約
  • 気候に優しい交通手段
  • 廃棄物の削減
  • 種の保護プロジェクトへの関与

 なお、ドイツ政府観光局(the German National Tourist Board:GNTB)はヨーロッパで唯一、グリーングローブ・インターナショナル認証を2024年に取得している[i]。これは、一部のホテルチェーンやエコロッジだけでなく、ドイツ全体に与えられている。ドイツ政府観光局の職員は、政府から公共交通機関の利用を奨励されており、出張にはドイツ国鉄を利用することが一般的だ。出張を含むあらゆる活動(海外の旅行代理店やジャーナリストとの視察旅行を含む)に伴うCO2排出量は、atmosfairという非営利団体のカーボンオフセットで相殺している。また、ドイツ政府観光局主催のイベント等で利用するホテルは、対象ホテルが環境保護を実践しているかどうか精査して決定するほどの徹底ぶりだ。

ドイツの観光市場と今後の嗜好性

 ドイツでは、パンデミック以前には、観光業では280万人が雇用され、ドイツ経済の総付加価値額1,040億ユーロの約4%を生み出していたが、パンデミック以降の2024年には約7%を占めており、2024年の観光産業のGDP貢献額において世界第3位(78兆8250億円)の規模を持ち、観光市場で大きな存在感を示している。ちなみに日本は世界第5位の(48兆6450億円)[ii]である。

 さて、ドイツ人は自然と文化的なアクティビティを楽しむ旅行が好きで、サイクリングやウェルネス/フィットネス、ランニングなどの運動や、ハイキング、ビーチ観光、キャンプなどのアウトドアが好きで、アドベンチャー・ツーリズムという統計数字があるほどである。アドベンチャー・ツーリズムは世界でも著しい成長を遂げており、アドベンチャー分野の年平均成長率(CAGR)は15%と予測されている。2030年までに740億ドルを超える規模に達すると見込まれているほどだ。

 なお、ヨーロッパは米国と並んで冒険旅行者の支出額が最も多い地域であり、ニッチ市場に特化したツアーオペレーターが最も活発に活動している地域の一つである。ヨーロッパのアドベンチャー・ツーリズムは地域経済にも貢献しており、支出額の約3分の2が地元に留まる。参考として、下記にアドベンチャー・ツーリズム分野でサービスを提供しているヨーロッパのツアーオペレーターの割合を示す。

図1 アドベンチャー・ツーリズム分野でサービスを提供しているヨーロッパのツアーオペレーターの割合

出典:CBI Ministry of Foreign Affairs – The European market potential for adventure tourism

 一方、ドイツを訪れる旅行者は、104の自然公園や17のユネスコ生物圏保護区など、豊かで変化に富んだ自然環境の中で過ごすことを好む。ドイツでは、誰もが快適に移動できる環境が求められている。筆者も驚くのは、障害のある方もドイツで制限なく旅行できるよう、移動インフラも含め、様々な取り組みが行われていることである。

アドベンチャー・ツーリズムの可能性

 「アドベンチャー・ツーリズム」は、観光客に比較的高いレベルの感覚刺激を提供できることが特徴であり、これは通常、観光体験に身体的に挑戦的な要素を組み込むことによって実現される。本質的に新しいものを取り入れるアーリーアダプターであり、一般的に新しい目的地、アクティビティ、旅行商品を試すことに積極的だ。人気のアクティビティは急速に変化し、毎年のように既存のスポーツに新たな工夫が加えられている。アドベンチャー・ツーリズムは外国人観光客を惹きつけ、結果として外貨獲得に貢献している。

 アドベンチャー・ツーリズムには準備に時間を要し、また必要な装備も高額なことが多い。従い、宿泊費、交通費、買い物などに多額の費用を費やす。アドベンチャー・ツーリズムは外貨を生み出すことに繋がる。

 また、アドベンチャー・ツーリズムは自然を基盤としたアクティビティである。従い、アドベンチャー・ツーリズム業界のリーダーたちは、自然資源を維持し、文化の保全していく活動にも積極的に関与していることが多い。このアドベンチャー・ツーリズムを可能な限り持続可能なものにすることに尽力しているわけである。図1にThe Adventure Travel Trade Associationが示すアドベンチャー・ツーリズムの定義を記した。自然とアクティビティと文化が融合するツーリズムである。

図1 アドベンチャー・ツーリズムの定義

出典:The Adventure Travel Trade Association

 アドベンチャー・ツーリズムのアクティビティにはリスクが低いものもあれば、リスクが高いものもある。アドベンチャー・ツーリズムのアクティビティは2つのタイプに分類される。

  • ハードアドベンチャーアクティビティ
  • ソフトアドベンチャーアクティビティ

① ハードアドベンチャーアクティビティ

 ハードアドベンチャーとは、リスクが高く、強い意志と高度なスキルを必要とするアクティビティを指します。ハードツーリズムには、登山、岩登り(写真①参照)、氷上登山、トレッキング、洞窟探検などのアクティビティが含まれる。自然の中でのハードな冒険活動は、非常に危険です。これらのアクティビティを行うには、プロのガイドと高度なスキルが必要だ。多くの観光客が登山や洞窟探検中に命を落としている。例えば、以下のようなアクティビティである。

• 洞窟探検

• 登山

• ロッククライミング

• アイスクライミング

• トレッキング

• スカイダイビング

 写真①:渓流沿いの山肌を渡る旅行者たち

出典:The Adventure Travel Trade Association

ソフトアドベンチャーアクティビティ

 ソフトアドベンチャーとは、リスクは認識されているものの、ハードなアドベンチャーアクティビティに比べて危険性やリスクが低く、最小限のコミットメントと初心者レベルのスキルで体験できるアクティビティを指す。これらのアクティビティのほとんどは、経験豊富なプロのガイドが率いることが多い。例えば、以下のようなアクティビティである。

• バックパッキング

• バードウォッチング

• キャンプ

• カヌー

• エコツーリズム

• 釣り

• ハイキング

• 乗馬

• 狩猟

• カヤック/海/ホワイトウォーター

• オリエンテーリング

• サファリ

• スキューバダイビング

• シュノーケリング

• スキー

• スノーボード

• サーフィン

 日本交通公社が2023年8月15日に発行している「旅行におけるサステナビリティに関する意識~JTBF旅行者調査トピックス~」によれば、日本におけるサステナブル・ツアー参加の意向に関して、最も関心を示している年齢層は、男性では10代から20代の、16.5%であり、女性は30代の27.7%であった。全体では16.9%でサステナブル・ツアー[iii]に経験したいと回答している。こうしたデータを見るに、日本人における旅行・観光に対する捉え方は世相を背景に代わってきていると読者も感じていらっしゃるであろう。

 日本における素晴らしい自然と風土は海外の方々にも伝わっている。東京や京都・大坂よりも地方に赴くインバウンドの方々が増えているのはご承知の通りである。例えば三重県、奈良県、和歌山県、大阪府に跨る熊野古道に訪問する外国人観光客は2011年に1,217人から、2018年には43,824人と、35倍の増加という境地的な数値を叩き出した。また、長野県白馬は第二のニセコと呼ばれ、全国の税務署ごとの最高路線価地点として2年連続で全国1位で、前年比上昇率は32.4%となった。オーストラリア人らが別荘を買い始めているという。日本では環境省と観光庁が積極的にエコツーリズムを実践するよう促進策を展開している。その中で、ネイチャー・ポジティブ・ツアーの調査も昨年実施された。自然資本を活かして、ネイチャー・ポジティブ・ツアーに動くのか、アドベンチャー・ツーリズムに動くのか、いずれにしても、インバウンド需要に自然資本を求める動きが活況となりそうである。

引用

[i] https://www.greenglobe.com/news/german-national-tourist-board

[ii] 世界旅行ツーリズム協議会(WTTC)のレポート「旅行&ツーリズム経済インパクト2025」より引用

[iii] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.jtb.or.jp/wp-content/uploads/2023/08/sustainability_awareness_report_JTBF230815.pdf