ドイツにおける核融合発電産業の動向

(文責: 坂野 佑馬)

 2026年の新年のレポートでは2週にわたり、将来の利用が期待されている、核融合発電に関して、連続して投稿させていたただく。第一回の本稿では、ドイツにおける核融合発電産業の動向を、①政府、②アカデミア、③民間の3つの視点から紹介する。

ドイツ連邦政府の動向

 ドイツ連邦政府は、核融合を将来のベースロード電源を担うクリーンエネルギーの柱と位置づけ、基礎研究から産業化への橋渡しを加速させるための包括的な支援策を展開している。

  1. 資金援助プログラム「Fusion 2040」

 2024年3月、ドイツ連邦教育研究省(BMBF;Bundesministerium für Bildung und Forschung)は資金援助プログラム「Förderprogramm Fusion 2040 Forschung auf dem Weg zum Fusionskraftwerk(Fusion 2040)」を発表した。[i]同プログラムでは、核融合発電の従来の純粋な技術研究としての支援から、2040年代の発電所稼働を見据えた産業育成へと舵を切ることを明確に宣言している。

 同プログラムの中で、核融合発電所の実現に向けた道のりは3つのフェーズに区分されている。

第1フェーズ(~2030年代前半)

 核融合炉に必要となる技術の技術成熟度(TRL;Technology Readiness Level, 1~9 の尺度で1が基礎研究段階、9が商用化段階を表す)を現在TRL1~4であるものを1~2段階高め、純粋な基礎研究から、応用研究へと軸足を移すことに主眼を置いている。

第2フェーズ(2030年前半~2040年代初頭)

 各種技術のTRLを7~8に引き上げるべく、官民パートナーシップの強化を図るとしている。

第3フェーズ(2040年代)

 核融合炉商業化の実現のボトルネックとなる莫大なCAPEXおよびOPEXをドイツ政府が援助する姿勢を明らかにしている。

  1. 商業用核融合発電の実現を加速する戦略「Fusion Action Plan」

 2025年7月30日、ドイツ政府は技術革新と経済競争力の強化などを目的とした国家戦略「Hightech Agenda Deutshland」[ii]を発表している。同戦略では、ドイツにとって重要な6つの未来技術の1つとして核融合を位置付けている。更に、2025年9月30日には、同計画をマスタープランとし、商業用核融合発電の実現に向けたアクションプランとして「Fusion Action Plan」を発表した。[iii]以下に、概要を紹介する。

 ドイツ政府は、これらの計画に続くものとして2026年末までに「Fusion Energy Research and Innovation Roadmap (FIRE)」を策定するとしている。

Fusion Action Plan の概要

  1. 明確な国家目標:世界初の核融合発電所の建設

 ドイツ政府の目標は、「世界初の核融合発電所」をドイツ国内に建設することである。これはドイツ企業を中心とした産業主導のコンソーシアムによって実現されるべきものと定義されている。ドイツを核融合技術の輸出国として確立する狙いがある。

  1. 大規模な資金投入:20億ユーロ超

 政府は2029年までに、総額で20億ユーロ(約3,700億円超)を超える資金を核融合分野に投入する意向だ。これらはFusion 2040などを通じて配分される。

  • 研究助成・エコシステム構築: 最大8億5,500万ユーロ(約1,600億円)
  • インフラ・実証炉建設: 最大7億5,500万ユーロ(約1,400億円)
  1. 投資を呼び込む規制の枠組み:「原子力法」の適用外

 核融合発電の産業化に向けた最大の障壁の1つが規制環境であるが、ドイツ政府はこの点において実用的なアプローチを採用している。核融合発電所を、従来の核分裂炉(原子力発電所)を対象とした厳格な「原子力法(Atomgesetz)」[iv]の管轄下ではなく、「放射線防護法(StrlSchG)」[v]の下で規制する方針を固めたのである。

  • 許認可プロセスの迅速化:核分裂炉のようなメルトダウンのリスクや高レベル放射性廃棄物の処理問題が存在しない核融合の特性を反映させることで、建設許可取得までの期間を大幅に短縮できる。
  • コストの予見可能性:過剰な安全規制によるコスト高騰を防ぎ、民間投資の呼び水となる。
  • 社会的受容性:脱原発を完了したドイツにおいて、核融合を「核」という言葉のイメージから切り離し、先進的な物理工学技術として再定義する政治的意図も含まれている。
  1. 州政府による支援

 ドイツの核融合支援は連邦政府レベルに留まらず、州政府が独自の産業政策として競争的に支援を行っている。

  1. バイエルン州:核融合クラスターの構築

バイエルン州は、ミュンヘン近郊のガルヒングを核融合研究の世界的中心地とする「Masterplan Kernfusion」[vi]を推進しており、州独自に約1億ユーロ(約200億円)を投じ、研究施設の拡充やスタートアップ支援を行っている。

クラスター形成:マックス・プランク・プラズマ物理研究所(Max-Planck-Institute;MPI)[vii]、ミュンヘン大学、そしてProxima Fusion[viii]やMarvel Fusion[ix]といった主要スタートアップが地理的に集中しており、人材と知見が循環するシリコンバレー的なエコシステムを形成している。

核融合研究アライアンス(Fusions Allianz)の結成:バイエルン州を含む6州(バイエルン州、ハンブルク州、エッセン州、メクレンブルク・フォアポンメルン州、ザクセン州、シュレスビヒ・ホルシュタイン州)が、10月31日に「核融合研究アライアンス(Fusions Allianz)」[x]を結成している。核融合を将来のエネルギーミックスにおける基盤技術と位置付け、商業用核融合発電所の建設を目指す。Hightech Agenda DeutshlandやFusion Action Planとも連携する方針を明らかにしている。産学とスタートアップによる協力体制の構築、研究者の育成とネットワーキング強化などの取組と各州固有の重点プロジェクトを並行して進めていく。

  1. エッセン州:既存インフラ(核分裂炉)の転換

 エッセン州は、ダルムシュタット工科大学発のスタートアップであるFocused Energy[xi]を強力に支援している。特筆すべきは、脱原発政策により閉鎖されたビブリス原子力発電所の敷地を、レーザー核融合の研究開発および実証炉の建設予定地として再利用する計画である。同プロジェクトは、既存の送電インフラや冷却水インフラを活用できるだけでなく、原子力産業に従事していた技術者や地域経済の流用を図る事例として注目されている。大手電力会社RWEの参画し、この地域的な取り組みを下支えしている。

アカデミア(研究・学術機関)の動向

 ドイツのアカデミアは、世界の核融合研究において中核的な地位を築いている。特に、マックス・プランク・プラズマ物理研究所(Max-Planck-Institute:MPI)、カールスルーエ工科大学(Karlsruher Institut für Technologie:KIT)[xii]ユーリッヒ研究センター(Forschungszentrum Jülich:FZJ)[xiii]の3機関は連携しながら、基礎物理から核融合炉工学に至る全領域をカバーしている。

  1. マックス・プランク・プラズマ物理研究所(MPI)

 MPIは、磁場閉じ込め方式のトカマク型とヘリカル型の両方の核融合炉の研究開発を推進する世界でも稀有な研究所であり、特にヘリカル型の研究において世界の最先端を走っている。

  • ヘリカル型:Wendelstein 7-X(W7-X)[xiv]

 グライフスヴァルトに建設されたW7-Xは、世界最大のヘリカル型核融合装置であり、その運用実績は磁場閉じ込め核融合の将来像を塗り替えつつある。

定常運転の実証:トカマク型がパルス運転(断続的な運転)を基本とするのに対し、ステラレータ型は原理的に定常運転(連続運転)が可能である。W7-Xは、複雑な3次元形状の超伝導コイルを用いることで、プラズマ電流に依存せずに磁場を形成し、トカマクの弱点である電流駆動の不安定性を克服している。

トリプル積の世界記録:トリプル積とは核融合反応を持続・効率化させるための重要な指標で、プラズマ密度(n)、温度(T)、閉じ込め時間(\(\tau _{E}\))の3つの要素の積で表され、この値が大きいほど核融合反応が進みやすいことを意味する。2025年5月、W7-Xは長時間プラズマ放電におけるトリプル積(密度×温度×エネルギー閉じ込め時間)の世界記録を樹立した。これは、ステラレータがトカマクに匹敵する閉じ込め性能を持ちうることを証明する歴史的快挙である。[xv]

エネルギー回収:1.8 GJのエネルギーを360秒間にわたってプラズマに投入・排出し続けることに成功した。これは、将来の発電炉に不可欠な「熱の定常的な取り出し」が可能であることを示している。[xvi]

  • トカマク型:ASDEX Upgrade[xvii]

 ガルヒングのASDEX Upgradeは、ITER(International Thermonuclear Experimental Reactor)[xviii]と同様のプラズマ形状を備えた中型トカマク装置である。特に、炉内壁をすべてタングステンで構成した「フル・タングステン壁」での運転技術を確立した点が大きな成果と言われている。この研究成果は、ITERが当初想定していたカーボン壁を採用せず、タングステン壁へ方針転換する重要な判断材料となった。

  1. カールスルーエ工科大学(KIT)

 KITは、核融合炉に必要となる周辺技術の開発を主導している。

  • ジャイロトロン開発

 プラズマを数億度に加熱するためのマイクロ波発振管「ジャイロトロン」の開発で、KITは欧州のリーダーである。防衛・航空宇宙・セキュリティ分野で展開しているフランスのThalesと共同開発した1MW級・170GHzジャイロトロンは、ITERの電子サイクロトロン加熱装置(ECRH)の中核部品として採用されている。KITのテストスタンドでは、長時間の連続運転試験が行われ、99%を超える高純度なガウスビーム(指向性に優れた電磁波ビーム)出力と安定性が実証されている。安定かつ高効率な加熱装置の存在は、核融合炉のエネルギー倍増率(Q値)を左右する決定的要素であり、ドイツの製造技術が国際プロジェクトの心臓部を握っていることを意味する。

  • トリチウム増殖とブランケット技術

 核融合燃料であるトリチウムを炉内で自給自足するための「増殖ブランケット」の開発もKITの主要ミッションである。液体金属(リチウム鉛)やセラミック増殖材を用いた実証設備の設計を行い、ITERでの試験に向けた準備を進めている。

  1. ユーリッヒ研究センター(FZJ)

 FZJは、プラズマと炉壁が接触する境界層の物理(プラズマ・壁相互作用)と、スーパーコンピューティングによる解析に特化している。

  • 直線型プラズマ装置「PSI-2」[xix]

 核融合炉のダイバータ(排熱部)は、スペースシャトルの再突入時を超える熱負荷と、激しい中性子線に晒される。FZJは複雑な装置を使わずに、強力なプラズマビームを材料に照射できる直線型装置「PSI-2」を運用している。

  • スーパーコンピューティング施設「Jülich Supercomputing Centre(JSC)[xx]

 FZJのJSCは、欧州最高峰の計算能力を有し、プラズマ乱流や材料挙動のシミュレーションに活用されている。実験データの解析と理論モデルの構築をループさせることで、開発サイクルの短縮に貢献している。

民間企業の動向

 ドイツの核融合産業における最大の変革は、公的研究機関からスピンオフしたスタートアップ企業の台頭である。これらの企業は、豊富な知見を原資に、2030年代の発電開始を目指している。各社の比較情報を表1に整理した。

表1. ドイツ核融合スタートアップ企業4社の比較表

項目Proxima FusionMarvel FusionFocused EnergyGauss Fusion
核融合方式磁場閉じ込め方式(ヘリカル型)慣性閉じ込め方式(レーザー方式)慣性閉じ込め方式(レーザー方式)磁場閉じ込め方式(ヘリカル型)
主要燃料重水素-三重水素軽水素-ホウ素11 (pB11)
※「無中性子核融合」と呼ばれ、反応によって3つのヘリウム原子核が生成されるだけで、中性子が発生しないため、炉壁が放射化しない。
重水素-三重水素重水素-三重水素
商業化目標2030年代2030年代後半 (実証炉)2045年
出自MPIからのスピンオフスタートアップダルムシュタット工科大学(ドイツ)とテキサス大学オースティン校(米国)からのスピンオフAlcen, ASG Superconductors, Bruker EAS, IDOM, RI Research Instrumentsによるコンソーシアム

出典:BCJにて作成

  1. Proxima Fusion

技術的特徴:従来のヘリカル型はコイル形状が複雑で製造が困難であったが、ProximaはAIを用いた最適化設計と、高温超伝導マグネット技術を組み合わせることで、炉の小型化と製造性の向上を図っている。

商用化ロードマップ
2027年:ヘリカル型実証コイルの完成。
2031年:実証炉「Alpha」の運転開始し、「エネルギー倍増率(Q)>1」の実証を目指す。
2030年代後半:世界初の商業用ヘリカル型核融合発電所の建設。

  1. Marvel Fusion

技術的特徴:従来のレーザー方式核融合(巨大施設で燃料ペレットを圧縮する方式)とは異なり、ナノ構造化ターゲットと短パルス高出力レーザーを組み合わせた独自のアプローチを採用している。
ナノ構造ターゲット:燃料(軽水素-ホウ素11)をナノレベルで構造化することで、レーザーエネルギーの吸収効率を飛躍的に高め、必要なレーザーエネルギーを低減させる。
・非熱的核融合:燃料全体を加熱するのではなく、粒子を直接加速して衝突させることで核融合反応を起こす、より効率的なプロセスを目指している。

米独協働戦略:本社はミュンヘンにあるが、実験施設は米国コロラド州立大学と提携して建設中である(1.5億ドル規模)。これは、米国の迅速な許認可環境と既存の研究インフラを活用しつつ、ドイツの製造技術と理論を活用する戦略的配置である 。

パートナーシップ:Siemens Energy(発電システム)、Thales(レーザー)、Trumpf(レーザー)といった欧州産業界の重鎮と提携し、サプライチェーンの構築を先行させている。

  1. Focused Energy

技術的特徴:陽子高速点火(Proton Fast Ignition)という方式の核融合発電を推進している。同方式では、ナノ秒レーザーで燃料を圧縮した後、ピコ秒レーザーで生成した陽子ビームを打ち込んで点火する。これにより、点火に必要なエネルギー閾値を下げ、ブレークイーブン(Q=1、入力エネルギーと回収エネルギーが等しい状態)を達成しやすくする。

地域展開:米国テキサス州オースティンにも拠点を持ち、DOEの支援プログラム「Milestone-Based Fusion Development Program」[xxi]に選定されている。一方で、ドイツ国内ではヘッセン州ビブリスの原子力発電所跡地での実証炉建設を計画しており、米独双方のリソースを最大限に活用している。

  1. Gauss Fusion[xxii]

ビジネスモデル:単一の技術開発企業ではなく、フランス、ドイツ、イタリア、スペインの産業企業(Alcen(仏), ASG Superconductors(伊), Bruker EAS(独), IDOM(西), RI Research Instruments(独))が共同設立したコンソーシアム企業である。「核融合のエアバス」を目指し、欧州各国の産業力を結集して商業用核融合炉「GIGA」を開発する。特定の物理実験よりも、超伝導マグネットの量産やブランケット、メンテナンスロボットなど、発電プラントとしてのシステム統合と産業化に主眼を置いている。

技術的特徴:当初はトカマク型も視野に入れていたが、近年のW7-Xの成果を受け、ヘリカル型が商用炉として最適であるとの判断に傾きつつあり、英国のTokamak Energy[xxiii]等とも高温超伝導マグネット分野で提携している。

  1. 業界団体「ProFusion」 [xxiv]

沿革:2024年6月にミュンヘン州・ニュルンベルクにて設立

ミッション:Pro-Fusionは以下の3つを主要な活動の柱としている。

  • 社会的受容性の醸成 (Public Opinion):
     核融合エネルギーに対する持続的かつ正確な理解を広め、社会的な支持基盤を形成する。
  • 政治・メディアへの窓口 (Political Engagement):
     政治家や政策立案者、メディアに対する業界の統一窓口として機能し、法規制(放射線防護法の下での規制など)や支援策についての提言を行う。
  • エコシステムの構築 (Ecosystem Structuring):
     サプライチェーン企業とスタートアップのマッチングや、経済的なエコシステムの整備を推進する。

 ドイツは現在、欧州において核融合発電の商用化レースにおける先頭集団を走っている。政府、アカデミア、民間が一体となり、2030年代の実証炉稼働に向けた現実的なロードマップを辿っている。今後の世界のエネルギー情勢を左右する中心的なプレイヤーであり続けることが予見される。

引用

[i] https://www.bmftr.bund.de/SharedDocs/Pressemitteilungen/DE/2024/03/130324-Forschungsprogramm-Fusion.html

[ii] https://www.bmftr.bund.de/SharedDocs/Publikationen/DE/L/31881_Hightech_Agenda_Deutschland.html?templateQueryString=fusion+action+plan

[iii] https://www.fusionindustryassociation.org/germany-unveils-fusion-action-plan/

[iv] https://www.nuklearesicherheit.de/en/licensing-and-supervision/the-legal-framework/german-atomic-energy-act/

[v] https://www.nuklearesicherheit.de/en/licensing-and-supervision/the-legal-framework/radiation-protection-act/

[vi] https://www.stmwk.bayern.de/wissenschaftler/forschung/mission-kernfusion.html

[vii] https://www.mpg.de/en

[viii] https://www.proximafusion.com/

[ix] https://marvelfusion.com/

[x] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://wissenschaft.hessen.de/sites/wissenschaft.hessen.de/files/2025-10/251031-eckpunkte_fusionsallianz_final.pdf

[xi] https://www.focused-energy.co/

[xii] https://www.kit.edu/

[xiii] https://www.fz-juelich.de/de

[xiv] https://www.ipp.mpg.de/w7x

[xv] https://euro-fusion.org/eurofusion-news/wendelstein-7-x-sets-world-record-for-long-plasma-triple-product/

[xvi] https://www.ifpilm.pl/en/18-news/swiatowe/2467-wendelstein-7-x-sets-new-fusion-performance-records

[xvii] https://www.ipp.mpg.de/16195/asdex

[xviii] https://www.iter.org/

[xix] https://www.fz-juelich.de/en/ifn/ifn-1/forschung/plasma-wall-interaction-in-linear-plasma-devices

[xx] https://www.fz-juelich.de/en/jsc

[xxi] https://www.focused-energy.co/news-release/focused-energy-completes-its-first-milestones-through-does-milestone-based-fusion-development-program

[xxii] https://gauss-fusion.com/

[xxiii] https://tokamakenergy.com/

[xxiv] https://www.pro-fusion.org/