フランス:来月から国内外企業に関わらず同国販売の繊維製品は環境ラベル表示が必要 ~16の影響領域の環境コストを記載した環境ラベルの表示を義務化~

(文責:坂野 佑馬)

 フランスでは2025年10月1日より、繊維製品分野で先がけ環境ラベル制度「Affichage Environnemental」がスタートする。[i]同制度は、2020年の「循環経済のための反浪費法 (loi AGEC)」[ii]および2021年の「気候・レジリエンス法 (loi Climat et Résilience)」[iii]に基づいて実施される取り組みである。気候・レジリエンス法第2条では、消費者が「信頼性が高く、容易に理解できる」様、製品のライフサイクル全体における環境影響に関する表示を行うことが定められている。
 同制度の狙いとしては、製品の環境負荷の「見える化」によりグリーンウォッシング(製品やサービスの環境価値を誇大に主張すること)を排除すること、企業の環境配慮設計の取組努力の可視化、さらには循環経済の促進を、目的としている。フランス政府は、EUの方針である製品環境フットプリント(PEF:Product Environmental Footprint、16の項目を対象とした環境負荷を数値化したもの)[iv]の考え方を踏襲し、「環境コスト (coût environnemental)」と呼ばれる統一指標を用いて環境影響を示すフランス独自の枠組みを開発した。
 この、フランスにおける環境ラベルそのものは、EUで策定中の「製品環境フットプリントカテゴリールール(PEFCR): アパレル・フットウェア」に基づいた評価手法を適用するかたちとなる。義務化に至るプロセスであるが、先ずフランス政府が本制度の実施にあたりEUに対して規則の事前通知を行った。その後、2025年5月14日に欧州委員会(EC)がフランスの繊維製品環境ラベルに関する政令を承認しており、EU域内において検討中のPEFの方針に沿うものであるとの確認がなされた。また、ECは将来的に製品に紐づく様々な情報をデジタル形式で一元管理・共有する仕組みである「デジタル製品パスポート(DPP:Digital Product Passport)」[v]などによる情報開示を義務付ける方針を示しており、フランスの環境ラベル制度はDPP[雅青1] とも合致する方向で設計されたようである。
 フランス議会では2024年3月14日に「繊維産業の環境影響を削減するための法案(Proposition de loi visant à réduire l’impact environnemental de l’industrie textile)」を可決し、環境スコアに連動した罰金・課徴金制度を導入することを検討したことが環境ラベル制度「Affichage Environnemental」とも関連している。具体的には環境スコアが悪い製品に対し、追加の拠出金を義務付けるものだ。フランス政府の狙いは、使い捨て型のビジネスモデルを抑止し、循環型経済への移行を促進したいのである。

 さて、本稿では、以降に「フランスの繊維製品に対する環境ラベル制度:Affichage Environnemental」の詳細を紹介する。

制度の概要

実施スケジュール:

  2025年10月1日から施行される。当初1年間は企業による任意表示という位置づけである。しかし、2026年10月以降は、メーカーや販売者が自社で環境コストを公開していない場合でも、第三者(流通業者、NGO、報道機関等)が製品の環境コストを算出して公表しても良い制度となる。企業が隠しても第三者が暴くことができるのだ。これは事実上、企業に対し自主的な開示を促す強いプレッシャーとなっており、制度開始から1年後には全ての製品が何らかのかたちで環境スコアを提示することになるかもしれない。気候・レジリエンス法では将来的にこの表示を義務化し、違反時には法人で最大15,000ユーロの罰金を科す規定が設けられており、フランス政府は今後のEU動向を見据えつつ段階的に強制力を高める可能性がある。

対象製品の範囲:

 繊維製品のうち、主として繊維素材で製造された衣料品が対象となる。具体的には、「Tシャツ/ポロシャツ」「ジーンズ」「パンツ/ショートパンツ」「シャツ」「セーター(プルオーバー)」「コート/ジャケット」「スカート/ドレス」「下着(ブリーフ、ショーツ)」「靴下」「水着」など、日常的な衣類カテゴリ11品目が網羅されている。一方で、除外対象も明確化されており、以下の製品は当面スコア表示義務の対象外である。

  • 靴・フットウェア類やファッション小物類:
     
    革製品を含む靴、ベルト、バッグ、アクセサリー等は対象外(繊維を一部含んでも衣類に該当しないものは除外)
  • 繊維以外の素材が主要構成の製品:
     
    全体重量の20%超を繊維以外の素材(金属部品など)が占める製品は対象外。
  • 電気・電子部品を含む「スマート衣類」:
     電子デバイスを内蔵した衣類も対象外。
  • 中古品および再調整(リユース)品:
     
    古着など一度消費者使用された製品は、新品時の環境スコア表示義務は負わない。
  • 現行の評価手法でカバーされない素材を大量に含む製品:
     
    現在のLCAデータベースに環境負荷係数が存在しない特殊素材を20%以上含むもの(該当データがない場合評価困難なため除外)。

 今後は評価手法やデータ拡充に伴い、対象範囲が広がる可能性がある。また、本制度は当初繊維製品分野に限定されているが、法律上は将来的に家具、電子製品、化粧品など他分野へも拡大する計画である。

表示すべき環境情報の内容:

 環境ラベルは、各製品のライフサイクル全体にわたる環境影響を総合評価した単一の数値で表示される(図1における360の数値)。フランス政府はこの数値を「環境コスト (Coût Environnemental)」と称しており、ポイントで表現する(ポイントに上限はなく、値が大きいほど環境負荷が大きいことを意味する)。また、製品ごとの環境コストを比較しやすくするために、重量あたりの環境コストのポイントも表示する(図1右下の灰色塗、100グラム当たり154の環境コストであることが示されている)。

図1. フランスの環境ラベルの例

出所: フランス政府のHPより引用

 環境コストは、EUが策定したPEFに準拠した16の影響領域(表1に整理)で環境影響指標を用いて算出される。数字が大きくなればなるほど、その衣服は地球にとって高価であることを示す。
 環境コストはLCA(ライフサイクルアセスメント)の専門的な手法である「正規化」と「重みづけ」(図2を参照いただきたい)を活用して、16の影響領域における影響度合いを表す単位やスケールの異なる数値を単一の数値に統合したものを環境コスト(図1における360の数値)として扱う。

図2. LCAにおける異なる影響領域の影響度合いを単一の数値へ統合する手法「正規化」と「重みづけ」の概略

出所: BCJにて作成

 前述の説明ではわかりづらいので図3に式を記載する。幾分わかりやすくなるであろうか。

図3. 気候変動指標についての環境コスト算出のイメージ図

出所: BCJにて作成

 ちなみに、この環境ラベル制度では、地球温暖化への影響(気候変動指標)は重視されており、EUのPEFに規定されている重みづけの基準より、大きな重みづけ係数が乗じられている。また、PEFにおける人体毒性に関する2項目は、評価基準が未確立であるために数値の信憑性に欠けるなどの理由から重みづけ係数をゼロとする(環境コストの計算に事実上含めない)など、フランス独自の調整がなされている。

表1. PEFが対象とする16の影響領域

出所: https://green-forum.ec.europa.eu/green-business/environmental-footprint-methods/life-cycle-assessment-ef-methods_en?utm_source=chatgpt.comをBCJにて翻訳

 さて、フランス国内で製品を販売する国外企業も本制度を無視することはできない。本制度の適用対象は国籍を問わずフランス市場に製品を供給するすべてのメーカー・輸入業者・小売業者であり、海外ブランドも例外ではない。従い、たとえ本国で環境情報開示義務がなくとも、フランス向けにはデータ提供と環境コスト表示が求められるということである。そのため、フランス市場を敬遠する動きも懸念されているが、フランスは欧州有数のアパレル市場であり、多くのグローバルブランドにとって無視できない市場規模を誇っているため、最終的には多くの海外企業がフランスの制度に対応する方向に動くのではないだろうか。また、今後EU全体でも類似の制度導入が検討されているため、一種の将来投資と捉えて対応を急ぐ企業が多くなると推察する。

 日本国内にもフランスでの製品の販売や、フランスを代表する大手メゾンへ素材を販売している企業は多数存在するはずであるが、環境ラベルへの対応からは逃れられなさそうである。

引用


[i] https://www.ecologie.gouv.fr/presse/mode-durable-laffichage-du-cout-environnemental-vetements-est-lance-partir-du-1er-octobre

[ii] https://www.ecologie.gouv.fr/loi-anti-gaspillage-economie-circulaire

[iii] https://www.legifrance.gouv.fr/jorf/id/JORFTEXT000043956924

[iv] https://green-forum.ec.europa.eu/green-business/environmental-footprint-methods_en

[v] https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/14382-Digital-product-passport-rules-for-service-providers_en