EU Energy & Raw Materials Platformが立ち上げへ ~水素の市場発展を支援する需給マッチングの第一ラウンドが9月に実施~
(文責: 青野 雅和)
欧州委員会では2025年7月から水素メカニズムという欧州および世界の水素製造者とヨーロッパのオフテイカー、及びその双方に金融商品を提示する金融機関を対象としたマッチングツールを設計し、上記3者に登録を促していた。そのマッチングツールは「EU エネルギー・原材料プラットフォーム[i]」としてラウンチされ、需給マッチングの第一ラウンドが9月に実施されようとしているので、実施に至る背景と取り組みに関して紹介する。
実施の背景
再生可能ガス、天然ガス、水素の域内市場に関する規則「The Regulation on the internal markets for renewable gas, natural gas and hydrogen ( EU/2024/1789)」が、欧州委員会に対し、2029年末までに欧州水素銀行(Hydrogen Bank)に基づくメカニズムを設立し、運営することを義務付けている。欧州水素銀行の展開に関しては弊社で頻繁に紹介しているし、直近では8月12日に第3回のオークション取引条件(案)を公表したことに関してレポートしている[ii]ので参照されたい。
なお、EUは2030年までに産業および輸送分野における再生可能水素の消費量を目標としており、需要は確保される見込みだが、供給面では、最終投資決定に至った水素プロジェクトの数は少ない。実際に、生産者と消費者の双方が接続に強い関心を示しているにもかかわらず、取引を締結できた生産者と消費者もまた少ないという現況である。水素メカニズムは、水素市場の促進策なのである。興味深いのは金融機関に参加を促している点だ。
以下のようなタイムラインで検討されてきた。
水素メカニズムの検討の経緯

水素メカニズムの目的と取り組み
水素メカニズムは再生可能・低炭素水素とその派生製品(アンモニア、メタノール、電気持続可能型航空燃料「eSAF」)の市場発展を支援することを目的としており、具体的には、市場参加者から提出された再生可能・低炭素水素の需給情報を収集、処理し、公開していくこととしている。これにより、市場の透明性がさらに高まり、ヨーロッパのオフテイカーは欧州および世界の水素製造者とマッチングすることが可能になる。
今後、水素メカニズムでは以下のアクションを実施していく。以下、欧州委員会の記述を引用する。
【水素メカニズムの取り組み】
- 自主的な市場参加者向けの需要と供給に関する市場情報、および公的機関と民間機関から水素向けの金融ソリューションに関する市場情報を収集する。
- 収集した需要と供給量に対する関心喚起を整理し、マッチメイキングサービスを提供する。ボリュームは、プロファイルまたはボリュームに基づいて集計出来る。
- インフラプロジェクト開発への関心を評価するためのプラットフォームを提供する。
- 提携金融機関が提供する金融商品に関する情報を収集し、表示する。
今回紹介した、「EU Energy & Raw Materials Platform」は2023年から2025年にかけて実施されてきた天然ガスのマッチングプラットフォームであるAggregateEU mechanism[iii]をベースに統合されたものであり、190社が参加した実績があることから、課題把握や運用ノウハウに関しては自信をもっているであろう。またEU Energy & Raw Materials Platformの開発は、PwCとスロバキアのテクノロジー企業Sféraを含むコンソーシアムが900万ユーロで契約しているとのこと。
本稿ではこのプラットフォームの目的として「再生可能・低炭素水素とその派生製品(アンモニア、メタノール、電気持続可能型航空燃料「eSAF」)の市場発展を支援」であると紹介したが、こうしたグリーンエネルギーの調達のみならず、製造に至るまでに必要な原材料や半製品等の関連サプライチェーンのボトルネックも丸抱えし、対象となるグリーンエネルギーのコスト高な現状等のネガティブ要素をポジティブな方向に変えていくことが垣間見えることであろう。
クリーンエネルギー技術に不可欠な金属および鉱物の確保に重点を置いたEU重要原材料規則(CRM:Critical Raw Materials Act[iv])の実施も含んでいるのである。CRMでは、EUが重要原材料の安全かつ持続可能な供給にアクセスできるようにすることで、欧州が2030年までの気候変動とデジタル化に関する目標を達成することを可能にするという背景を持つ。これには、バッテリー、風力タービン、ソーラーパネルに必要なリチウム、レアアース、ニッケルなどの戦略的投入物が含まれる。
トランプ大統領が主導する関税外交と複数の国で自国優先閉鎖主義に傾倒しつつある状況下、政治的圧力の中で再び脚光を浴びつつある重要鉱物の輸出規制や採掘許可・禁止を巡る動向は、市場競争及び地政学的な圧力に柔軟に適応するツールとしてEU Energy & Raw Materials Platformに収斂したとも言える。
再生可能エネルギーは製造設備のコスト高構造と原材料高の2つが要因でコスト高な構造をコストコンシャスな状況に早く導くことが重要であり、価格パリティを打破することで、ゲームチェンジが可能となる。第一ラウンドの結果は参加者に公表されるということであるが、加えて、どのようにメディアで紹介されていくのか非常に興味深い。
引用
[i]https://energy-platform.ec.europa.eu/hydrogen
[ii] https://baumconsult.co.jp/2025/08/12/eu%e3%81%af%e6%ac%a7%e5%b7%9e%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e9%8a%80%e8%a1%8c%e3%81%ae%e7%ac%ac3%e5%9b%9e%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e3%82%aa%e3%83%bc%e3%82%af%e3%82%b7%e3%83%a7%e3%83%b3%e5%8f%96%e5%bc%95%e6%9d%a1/
[iii] https://energy.ec.europa.eu/topics/energy-security/eu-energy-platform/aggregateeu_en
[iv] https://single-market-economy.ec.europa.eu/sectors/raw-materials/areas-specific-interest/critical-raw-materials/critical-raw-materials-act_en