EUはEU気候法改正案を発表 ~ 2040年までに1990年比90%のGHG排出量削減を目指す ~
(文責: 坂野 佑馬)
2025年7月2日、EUは2050年までに気候中立(全てのGHGについて正味の排出量をゼロとすること)を達成するための戦略の一環として、2040年のGHG排出削減目標を設定し、これを実現するためのEU気候法(EU Climate Law)[i]の改正案を発表した。[ii]この改正案は、EU全体で1990年比90%のGHG排出削減を達成することを目指しており、EUの気候目標達成に向けた重要な中間目標として位置付けられている。
全世界で気候変動の影響を抑制し、地球温暖化を1.5°C以下に抑えるためには、各国および企業の連携が不可欠である。これを達成するために、2040年までにGHG排出を1990年比で90%削減することが科学的に推奨されており、欧州科学諮問委員会(ESABCC)からの助言やIPCC(気候変動に関する政府間パネル)の評価に基づいて、EUは目標を決定した。
目標の達成には、GHG排出削減と炭素回収(Carbon Capture)の両方を強化する必要があることを認識しており、産業全体が協力していくことが求められる。ちなみに、EUのカーボンバジェット(気候目標と比較して、あとどれぐらいGHGを排出できる余裕があるのかを示す指標)は16 Gt-CO₂ と見積もられている。
此度の改正案の中で、新たに検討されているのが「カーボンクレジットの利用」である。改正案の記載内容を以下に紹介する。
1. 国際カーボンクレジットの利用
パリ協定第6条に基づく国際的なカーボンクレジットの利用を一定の条件で認める可能性があるとしている。この枠組みは、EU内外でGHG排出量削減を推進する第三国での活動から得られるカーボンクレジットを活用するものである。
EUは2036年から、2040年に向けたGHG排出量削減目標を達成するために、EUの1990年比GHG排出量の3%をカバーする高品質な国際カーボンクレジットの利用を検討している。
国際カーボンクレジットの質と条件:
これらのクレジットは、高品質なものに限り利用可能で、削減されたGHGがパリ協定の目標(2°C未満の温暖化抑制)に合致することが求められる。
クレジットの利用に関する詳細な基準(例えば、クレジットの発行元、質、タイミングなど)については、EUの法規制によって管理され、透明性が確保される。
2. EU域内でのカーボンクレジットの利用
EU内の炭素市場(EU-ETS)内でも、国内の炭素除去技術(例えば、BECCSやDACCS)を活用してクレジットの供給を促進することを検討している。これにより、EUの排出量削減努力がさらに補完され、特に難排出部門での削減が進むことが期待される。
国内クレジットは、EU-ETS内での炭素市場に組み込まれ、企業や国が削減目標を達成するために使用される。
3. カーボンクレジットの制限と活用方法
カーボンクレジットの利用には制限を設け、過度の依存を避ける方針である。国際クレジットは、 3 % までの利用を想定しており、それ以上の使用は認められない。
国内クレジットと国際クレジットのバランス:
国内の削減努力を優先し、国内の炭素除去技術や再生可能エネルギーの導入を進めることを重視している。一方で、国際クレジットはあくまで補完的な手段として活用されるべきとしている。
国際的なパートナーとの協力:
EUは、第三国との協力を強化し、パリ協定の目標を達成するために共同で削減活動を行うことを推奨している。これにより、世界的な温暖化対策の強化とともに、EUの削減目標も支援される。
EUにおいては、2036~2040年の期間およびGHG総排出量の3%という量の双方にて限定して、カーボンクレジットの利用を許可する方針である。しかしながら、カーボンクレジットは、追加性(プロジェクトが実施されなければ削減が行われなかったであろうことを証明する必要がある。)、永続性(削減または隔離された二酸化炭素が将来にわたって保持されることを保証しなければならない。)、二重計上(複数の市場で同じカーボンクレジットが取引されることを防ぐため、厳格な追跡と報告が必要である。)、透明性(信頼できる監視機関によって検証されたプロジェクトのみがクレジットとして認められるべきとされている。)などの観点で、課題が残ると指摘されている。EUは2025年以降、これらのリスクを軽減するため、監視・報告・検証(MRV)のガイドラインの強化、独立した検証プロセスの導入、国際的な標準化に関する協力を進めていく方針である。
引用
[i] https://climate.ec.europa.eu/eu-action/european-climate-law_en
[ii] https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_25_1687