シュタットベルケが能動的な気候変動実践に成功へ

(文責: 坂野 佑馬)

 ドイツのシュタットベルケ(Stadtwerke)は、ドイツの地方自治体が設立する、電気、ガス、水道などの公共サービスを担う自治体が投資した公営企業を指す。シュタットベルケは電気自由化などの市場開放後も、地域インフラの維持や公共サービスの提供を担い続け、地域の経済を活性化し、住民の生活を支えることを目的としている。一方、日本では、同様の事業を担う第三セクターや自治体直営の公共事業が利益を追求する傾向が強く、経営難や公共性の確保といった課題を抱えている点がドイツとの主な違いである。
 ドイツでは、地方公共団体はシュタットベルケの出資者として、事業内容や方向性を決定するだけでなく、地域住民の意見を反映させながら、インフラの維持・改善に取り組んでいるところが大きな違いかもしれない。民間企業と同様にサービスを意識的に行っているのである。

 現在、ドイツ全土には1592社のシュタットベルケが存在し(2023年時点でのドイツ地方公共企業協会:Verband kommunaler Unternehmen e.V.[i]:略称VKUによる) 、ドイツ全体の自治体の1割以上を占めるほどに至っている。
 ちなみに、弊社のドイツ法人であるB.A.U.M. Consultはシュタットベルケに関与しており、ドルトムント近郊のハム市が出資するStadtwerke Hammから市民への相談や情報の提供やハム市の気候保護措置の実施に関するデータと情報の収集と把握を行うことを委託されている。こうした背景もあり、日本法人である弊社も日本の自治体を含む多くの方々に対してシュタットベルケの情報を提供しているものである。シュタットベルケは最近では水素の供給や通信事業にも関与し始めているが、やはり電力やガス、水供給の展開が多いことから、気候変動への対応に敏感であると感じている。

 さて、VKUは毎年、シュタットベルケのショーケース・プロジェクトを表彰し、自治体公益事業のコミットメントを示す取り組みを行っている。来年度の「STADTWERKE AWARD 2025」では第16回を数えることとなる。本賞は9月30日に受賞結果が発表されるが、昨年の受賞者の情報を見ると気候変動への対応を展開しているシュタットベルケが受賞している。その意味ではドイツでの1割強を占めるシュタットベルケにおいて気候変動への対応が求められていると推察される。果たして日本の公営企業は如何であろうか?

 本稿では昨年の受賞者の情報を提供して、今後の日本の公営企業に対する参考として締めくくるものとする。

2024年度受賞者第3位:フランクフルト近郊のWorms EWR Ag の「Climate Connection[ii]

 自治体やB2B顧客向けに「気候コネクション」による包括的な持続可能性コンサルティングを提供している。その目的は、シュタットベルケの事業を展開しようとしている自治体や同社の顧客にデジタル技術を駆使した総合的なアドバイスを提供し、持続可能な未来への道を一歩一歩歩んでもらうことである。このプロジェクトには、分析・報告から対策の実施まで、あらゆる段階での支援が含まれる。例えば、ハーンハイム市では地熱供給事業の計画を戦略から実施プロセスに必要な多くの環境技術やDX化、市民が利用し支払いに関するソフトウェアなど、全てのサポートを同社から受けている。
 審査員は、このプロジェクトの時事性を特に強調した。多くの中小企業が、すでに持続可能性報告義務の影響を受けているか、あるいは今後受けるであろうリソースが乏しいとき、"Climate Connection "のようなオファーは、こうした企業にとって適切な窓口となると評価されている。自治体の事業へのコンサルティングを自治体が行うという、日本では事例の無い面白い展開が推進されている。

2024年度受賞者第2位:ミュンヘンのStadtwerke München GmbHの子会社であるSWM Services社[iii]の「Isarlicht」プロジェクト

 「Isarlicht」の推進するコンセプトが評価を受けた。光ファイバー網の拡張と「スマート・ゲートウェイ」接続の設置を組み合わせたものだ。ここで、光ファイバー網の拡張に必要な工事は、電力網をデジタル化するために、地下や屋根裏にいわゆるサービス接続ソケットを設置するために同時に行われる。このソケットは、例えば、通信接続を必要とする太陽光発電システムやその他の技術設備に対し、メータリング・ポイント・オペレーターを使用すること可能である。

2024年度受賞者第1位:ニュルンベルグの北に位置するStadtwerk Haßfurt GmbH[iv]の「ハースフルト・エネルギー・コミュニティのパイロット・プロジェクト-e-CREW」

 地元で発電されたグリーン電力の消費を促進することで、送電網のボトルネックを解消することが評価された。9~11世帯が10のグループに分かれ、共同で発電と蓄電池の使用シミュレーションを行い、エネルギー効率と支出を最適化する。そして、受動的な消費者を、情報に基づいた意思決定と集団行動によって、地域のエネルギー・システムの能動的な参加者に変えることを目的として実施したそうである。その結果、地域のグリーン電力を意識変革された能動的消費者に消費させることを促したことが評価されたのである。
 実験的な実践により消費者意識を変えるこの取り組みは、日本における脱炭素化の実践に消極的な自治体や中小企業に有効な手段と光明を見出す取り組みであると弊社も評価する。

引用

[i] https://www.vku.de/

[ii] https://www.climateconnection.de/

[iii] https://www.swm.de/english/company

[iv] https://www.stwhas.de/