豪州:グリーン水素製造税額控除を可能にするHydrogen Production Tax Incentive (HPTI).が議会で可決 ~豪州は世界で最も安いグリーン水素の生産地に。グリーン水素の価格は欧州の1/3、東京都の約1/10~
(文責: 青野 雅和)
2025年2月11日、豪州の上院は、グリーン水素製造税額控除を最大2豪ドル/kg(1.25米ドル/kg)まで支給できるようにするProduction tax creditsを可決し、グリーン水素の製造プロジェクトに数十億ドルの補助金を提供することとなり、経済的な負担を大きく補填できるインフラが整った。この措置により、豪州が推進しているグリーン水素及び関連製品の輸出を促し、同セクターの産業を強化していくことに繋がっていくであろう。
豪州政府は昨年の5月14日に2024~2025年の水素関連予算を発表していた。10年間で227億ドルの予算「Future Made in Australia:豪州製の未来」である。この情報については弊社の「Climate change solutions &Sustainable Reportの豪州がFuture Made in Australiaを発表~グリーン水素の製造に2豪ドル/kgを補助~[i]」にて紹介しているので詳細を一読頂きたい。豪州では製造されるグリーン水素や製造プロセスでグリーン燃料を利用して製造されるグリーン金属及び低炭素燃料を製造するサプライチェーンをモニタリングする制度として原産地保証制度を設けることも決定している。
■HPTIを含むProduction tax creditsの概要
- 2027~2028年から2039~40年の間に生産された再生可能水素1キログラムあたり2ドル相当の水素生産税優遇措置(プロジェクトごとに最大10年間)を実施。
- 重要鉱物生産税優遇措置。豪州の重要鉱物 31 種について、2027 ~ 2028 年から 2039 ~ 2040 年の間に加工・精製される重要鉱物を対象に、プロジェクトごとに最大 10 年間、関連する加工・精製コストの 10% 相当を優遇する。
上記2点のインセンティブは、グリーン水素の生産、風力タービン、太陽光パネル、電気自動車などの製品に使用される重要鉱物の加工プロジェクトの稼働に提供される。加えて、重要鉱物は豪州の防衛産業にとっても極めて重要であり、潜水艦や航空機の建造に必要と認識されている。
■HPTIの適用で豪州のグリーン水素の価格は欧州の1/3、東京都の約1/10になる。
スペインのガス市場運営機関MIBGAS(Mercado Ibérico del Gas)は2024年12月16日から、イベリア半島市場(スペインとポルトガル)の再生水素価格指数「MIBGAS IBHYX[ii]」の算出を開始した。2025年2月13日時点での同インデックスでの価格は5.82ユーロ/kgであり、同日の為替(160.95円/ユーロ)で換算すると936.7円/kgとなる。Australian Energy Councilによると、豪州のグリーン水素の製造コストは5~6豪州ドル/kg[iii]であり、HPTIの適用による2豪州ドル相当の生産税の優遇措置を考慮すると3~4豪州ドル/kgとなる。同日の豪州/円の為替は97.15円/豪州ドルであることから、中間値の3.5豪州ドル/kg で換算すると、340円/kgとなり、豪州のグリーン水素は欧州の約1/3の価格となる。
■豪州はグリーン水素と関連製品のオフテイカーを整備している?
今回のHPTIの可決に関し、豪州水素協議会のCEO、フィオナ・サイモン博士[iv]は以下のように述べている。
「水素に関しては、『何もしない』という選択肢はありません。エネルギーの脱炭素化のための大規模な選択肢として、水素が必要です。また、グリーン鉄のような商品を生産するための化学的解決策としても必要です。また、アジア全域で信頼できるエネルギーパートナーであり続ける必要があり、水素の輸出は豪州の継続的な繁栄にとって不可欠です。」[v]
豪州での水素はグリーンではなくグレーであるが、今後はグリーン水素も積極的に生産していくこととなる。豪州はドイツ、インド、日本、中国、大韓民国、シンガポール、イギリス、アメリカ合衆国、オランダとクリーンエネルギーパートナーシップを締結しており、豪州に新たなクリーンエネルギー貿易の機会を構築することを目的の一つとしている。また、ドイツとは、昨年9月末に豪州由来の再生可能水素生産者に対する欧州の買い手を保証するため、4億ユーロ(6億6000万ユーロ)のH2グローバル資金提供枠を通じて、新たなグリーン水素サプライチェーンに関する協力を深める歴史的な協定に署名した。[vi]このように豪州はオフテイカーの整備に積極的に動いている。
■日本はグリーン水素の国際融通が始まる前に価格を下げる施策が必要
日本では東京都が昨年12月末に実施したグリーン水素トライアル取引において、グリーン水素の供給価格は300円/ Nm3[vii]であったことから、1Nm3≒0.09kgで計算すると、東京都のグリーン水素の価格は3,333円/kgとなる。東京都のグリーン水素は欧州の3.5倍、豪州の10倍の価格差となり、国内での消費に限定した水素となるしかない。加えて、川崎重工によれば、豪州経由のブルー水素の船上引き渡しコストが1,888円/kg(170円/ Nm3)であることから、豪州経由のブルー水素は残念ながら豪州国内のグリーン水素よりも安価になっていない状況だ。
今回の豪州のHPTIの可決は、欧州のCBAMにも対応できる有益な措置となり、グリーン製鉄やセメント等のCCUの推進にも繋がる有益な結果と評価したい。豪州は世界で最も競争力のあるグリーン水素を製造していくことは間違いなく、豪州政府の戦略のとおり、水素を原材料として利用する鉄・セメント・化学セクターの競争力を押し上げる起爆剤となっていくであろう。
引用
[i] https://baumconsult.co.jp/2024/05/24/%e3%82%aa%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%83%88%e3%83%a9%e3%83%aa%e3%82%a2%e3%81%8cfuture-made-in-australia%e3%82%92%e7%99%ba%e8%a1%a8%ef%bd%9e%e3%82%b0%e3%83%aa%e3%83%bc%e3%83%b3%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e3%81%ae/
[ii] https://www.mibgas.es/en/news/mibgas-ibhyx-first-iberian-renewable-hydrogen-price-index-published-starting-today
[iii] https://www.energycouncil.com.au/analysis/australia-s-green-hydrogen-ambitions-soldiering-on-despite-adversity/
[iv] https://h2council.com.au/ahc-executive-team/
[v] https://h2council.com.au/media-releases/landmark-bill-passes-paving-the-way-for-hydrogen-production-tax-incentive/
[vi] https://www.bmwk.de/Redaktion/EN/Pressemitteilungen/2024/09/20240913-cooperation-between-australia-and-germany-in-the-fields-of-energy-and-climate-is-being-expanded.html#:~:text=Australia%20and%20Germany%20have%20signed,for%20Australia's%20renewable%20hydrogen%20producers.
[vii] https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/12/23/16.html