EUのH2Globalへの30億€承認により、グリーン水素のEU流入チャネルが確立へ

(文責: 青野 雅和)

 欧州委員会は、昨年12月中旬に、非EU諸国からのグリーン水素(またはその派生物、renewableアンモニア、renewableメタノール、eSAF)のH2Globalスキーム第2回オークションにおいて、ドイツでのオークションに27億€、オランダでのオークションに3億ユーロ(31億2000万ドル)の国家補助の承認を与えた。
 これにより、ドイツでは、連邦経済気候保護省(BMWK:Bundesministerium für Wirtschaft und Klimaschutz)が、気候変革基金(KTF:Klima- und Transformations fonds)からHintcoが実施する新たなH2Global入札に補助金を提供する予定であり、オランダはBMWKに次いでH2Globalの入札に資金を提供する最初の政府となった。オランダでは気候政策・グリーン成長省(KGG:Ministerie van Klimaat en Groene Groei)が補助金を供給することとなる。

■H2Globalの国際的な展開

 H2Globalは特定の実務から知識の共有まで、さまざまなステージで17カ国が関与している(図1参照)。図1の紺色は資金提供を確約している国であり、青色はH2Globalスキームを活用する議論をしている国、緑色は支援対象国である。日本は支援の対象となっており、昨年にJOGMECや東京都がMOUを締結している。

図1 H2Globalの国際的なつながり

出典:H2Global

 図1の紺色に該当するカナダでは、3億カナダドルを、オーストラリアからは3.3億豪州ドルをまた、アマゾン創業者ジェフ・ベゾスが100億ドル(約1.5兆円)の慈善資金を拠出して2020年に設立された基金であるベゾス・アース・ファンドからは100万ドルを受領している。

■H2Globalのダブルオークションの仕組み

 さて、H2Globalに関しては、弊社の2023年の6月12日付けのレポート「ドイツの水素調達(入札)プログラムであるH2GlobalがEU各国に拡大へ[i]」にて情報を提供させていただいているが、H2Globalが推進する非EU諸国からのグリーン水素またはその派生物のオークションについて、本稿でも簡単に説明したい。
 ちなみにダブルオークションの第1回のパイロットオークションのrenewableアンモニアの枠では、Fertiglobeが落札した。同社はアブダビに本社を置き、アブダビ国系石油の子会社の肥料会社である。同社は2027年の1.95万tから2033年までに39.7万tのrenewableアンモニアをエジプトからドイツに輸出することとなる。
 このオークションの運営はH2Globalの子会社であるHintcoが運営しており、グリーン水素の供給とグリーン水素の購入の2つのオークションを行うことからダブルオークションと呼ばれている。ダブルオークションでは購入側に1年の短期オフテイク契約を提供することで市場の流動性を確保し、一方で生産者にはHintco が10年の長期購入契約を締結することでグリーン水素の生産者に銀行融資能力を提供し、取引の不確実性を軽減することとしている。[ii] 
 本稿タイトルに記載した30億€という莫大な金額の承認は図2の供給額と購入額のギャップの補填に充てられることとなる。

図2 H2Globalのダブルオークションのイメージ

出典:H2Global資料にBCJ加筆

■東京都のグリーン水素トライアル取引でもH2Globalのダブルオークションを採用

 東京都では、2024年12月に実施したグリーン水素トライアル取引を行い、水素供給側では300円/N㎥、水素の利用側ではトレーラー輸送コースで89円/N㎥、カードル輸送コースで230円/N㎥の単価で落札が決まり、日本で初めての水素取引所の立ち上げに向けた(試行事業)グリーン水素の取引が今後3月末までに成立する予定となる[iii]。なお、本オークションは株式会社東京商品取引所が、都と協定を締結し、オークションを運営した。水素の供給は山梨県が50%を出資(東京電力ホールディングス株式会社25%、及び東レ株式会社が25%を出資)する「やまなしハイドロジェンカンパニー(YHC、甲府市)」が行うこととなる。[iv] 日本において流通量の少ないグリーン水素の利用普及に期待が持てる仕組みとなる。

図3 東京都のグリーン水素トライアル取引の事業イメージ

出典:東京都[v]

 

 なお、東京都では昨年の2月2日にH2Globalとクリーンな水素を世界規模で推進するという共同の取り組みを強調するために、協力協定を締結している。

■EUへのグリーン水素の流入が拡大していく

 EU域内のrenewable水素の調達はEU Hydrogen Bankによるオークションで実施(2024年9月には第2回目が実施されている)し、EU 域外からのグリーン水素及び派生物の 調達はH2Globalにより行うこととされ、1,000 万トンのrenewable水素を輸入するという目標により国際的なrenewable水素の流通が拡大していく動きとなっている。
 European Hydrogen Observatoryによれば、2023年の水素輸入のトップ5か国はオランダ、フランス、ドイツ、デンマーク、オーストリアの順であり、オランダは19,568tの水素(ここではグリーン水素のみならず全ての色の水素を指す)を輸入しており、EU全体29,767tのうち66%を占めている。
 本稿でのH2GlobalによるEU枠外からのグリーン水素及び派生物の輸入は2027年から開始となるが、H2Globalは既に17か国と協定を結んでおり、カナダがドイツに水素を輸出することも公表されていることを鑑みても、北米→EUの大陸間のグリーン水素のチャネルが先ず確立し、次に豪州・中東・インドからEUへ流れるチャネルが確立。いずれにしてもEUに流入していくチャネルが拡大していくと想定される。

引用

[i] https://baumconsult.co.jp/2023/06/12/%e3%83%89%e3%82%a4%e3%83%84%e3%81%ae%e6%b0%b4%e7%b4%a0%e8%aa%bf%e9%81%94%ef%bc%88%e5%85%a5%e6%9c%ad%ef%bc%89%e3%83%97%e3%83%ad%e3%82%b0%e3%83%a9%e3%83%a0%e3%81%a7%e3%81%82%e3%82%8bh2global%e3%81%8ceu/

[ii] https://www.h2-global.org/the-h2global-instrument

[iii] https://www.jpx.co.jp/hydrogen/results/index.html

[iv] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.yhc-inc.jp/wordpress/wp-content/uploads/2024/12/R061223_%E3%83%88%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%82%A2%E3%83%AB%E6%B0%B4%E7%B4%A0%E5%8F%96%E5%BC%95.pdf

[v] https://www.metro.tokyo.lg.jp/tosei/hodohappyo/press/2024/11/29/12.html