デンマークでEU初の商業炭素貯留CCSが2025年に稼働へ the Greensand Future carbon capture and storage (CCS) projectの出資3社がFIDを承認

(文責:青野 雅和)

ノルウェー、英国、ドイツ、アルゼンチン、メキシコ、北アフリカ、東南アジアで事業を展開しているロンドン証券取引所に上場の英国独立系石油・ガス会社である「1.Harbour Energy[i]:非運営権益40%」と石油化学製品、特殊化学製品、石油製品を製造する英国のINEOS Groupのデンマーク登記の関連会社である「2. INEOS E&P A/S[ii]:運営権益40%」、及びデンマークの国営企業であり、デンマークで3番目の企業規模である「3. Nordsøfonden[iii]運営権益20%」の3社は、同3社で展開する炭素回収・貯留(CCS)プロジェクトであるthe Greensand Future carbon capture and storage (CCS) project(以下GFCCS)の最終投資決定(FID)を発表した。このプロジェクトは、デンマークの排出源から出る二酸化炭素をデンマーク北海の枯渇した油田に貯留するものである。

 上述INEOSのニュースリリースによれば、今回のこの最終投資承認により、貯留容量の拡大に向けてGFCCSのバリューチェーン全体で1億5,000万ドルを超える投資が見込まれると予想されている。また、同社のジム・ラトクリフ会長は「これは炭素回収・貯留にとって画期的な進歩だ。グリーンサンド・フューチャーは、デンマークとEUの気候目標の両方をサポートするEUで稼働する最初のCO2貯留施設となるだろう と語っている。[iv]

■事業者概要

  1. Harbour Energy
     同社は、2024年9月に独化学大手BASFと、プーチン氏とのつながりを同様に指摘されたオリガルヒのミハイル・フリードマン氏が率いるL1の合弁会社であるWintershall Dea(ドイツ)の資産ポートフォリオを買収[v]し、GFCCSの権益を取得していた経緯がある[vi]。その他の案件として、英国、デンマーク、ノルウェー、ドイツでさまざまな開発段階にあるプロジェクトを有し、ヨーロッパで主導的な CO2 輸送貯蔵の地位を占めている。
  2. INEOS E&P A/S
     石油、ガス、液化天然ガス (LNG)、カーボン クレジットを生産および取引している。同社はエネルギー転換を通じて事業の持続に役立つ低炭素および炭素貯蔵技術への投資によって支えられている。本稿で紹介している Project Greensand と、HydrogenOne Capital への投資が挙げられる[vii]
  3. Nordsøfonden
     デンマーク政府を代表して、炭素貯蔵に関するすべての事業に20 %のライセンス比率で参加している。特定のプロジェクトに応じて、同社は関連するインフラストラクチャ、輸送、中間貯蔵の共同所有者になることも可能。デンマークの地下には、沖合、沿岸、陸上を問わず、CO2 を貯留する大きな可能性があり、デンマークは欧州の炭素貯留拠点となる可能性がある。Nordsøfonden は、デンマーク領北海における石油・ガス事業において長年にわたり一貫したパートナーとして存在している[viii]

■GFCCSの概要

 GFCCSは、INEOSが運営する北海南部のデンマーク領にあるNini 油田(Nini field)にCO2を貯留することを目的とし、EU初の運用可能なCO2貯留施設である。GFCCSは、まずは毎年40万トンのCO2を回収・貯蔵することを目指している。CO2量の増加に合わせて2030年までに貯蔵容量を徐々に拡大していく予定だ。昨年2023年3月8日、デンマーク国王フレデリック陛下が Nini 油田に初のCO2注入をパイロット稼働として開始しており、今後は、2025年末から2026年初頭にかけて商業稼働を開始する予定である。

図1 北海 デンマーク沖のNini 油田の位置

出典:Google Map にNini 油田の位置をプロット

 欧州委員会は、パリ協定の目標を達成するために、欧州連合は2040年までに年間2億5000万トンのCO2の炭素貯蔵能力を確立する必要があると見積もっている。CCSは、デンマークの2045年ネットゼロ目標を達成するための重要な技術と考えている。
 GFCCSの第一フェーズで発生するCO2は、デンマークのバイオメタン生産プラントで回収・液化され、エスビャウ港に輸送された後、Royal Wagenborg 社によってデンマーク北海の Nini 油田に輸送され、安全かつ永久的に貯蔵される。
 GFCCSは、独立系認証機関である DNV によって検証されている。徹底した技術検証により、貯蔵された CO2は、北海の海底から 1,800 メートル下にある閉鎖されたニニ ウェスト貯留層に安全かつ永久に保持されることが保証されている。

引用

[i] https://www.harbourenergy.com/

[ii] https://www.ineos.com/businesses/ineos-energy/oil-and-gas/european-operations/denmark/

[iii] https://eng.nordsoefonden.dk/

[iv] https://www.ineos.com/news/shared-news/ineos-led-greensand-to-become-the-first-full-scale-co2-storage-facility-in-eu-to-help-mitigate-climate-change/

[v] https://www.harbourenergy.com/news-and-media/latest-news/2024/trading-operations-update/

 

[vii] https://www.ineos.com/businesses/ineos-energy/

[viii] https://eng.nordsoefonden.dk/about/who-are-we