CCS/CCUの実現を支援するCMSのドラフトが公表 ~CMS実現の為の6つの具体的な行動分野と具体的な手段が整理されている~

(文責:青野 雅和)

 ドイツ政府は9月11日に炭素管理戦略(CMS:Carbon Management Strategie der Bundesregierung)のドラフトを公表した。CMSの包括的な戦略目標は、ドイツにおけるCO2の回収、CO2輸送、CO2貯蔵(炭素回収・貯留、CCS)または利用(炭素回収・利用、CCU)のための技術を、特に回避が困難または不可能な排出に関して利用するための枠組みを構築することであり、いわばCCU/CCSの展開戦略と言える。
 ドイツ政府の見解として、「CCS/CCU技術は、現状では困難であるか、そうでなければ避けられない排出に対処するためのものであるが、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の1.5度目標に準拠するすべてのシナリオは、かなりの量のCCS/CCUを想定している。」とCMSに記載されている。

 ドイツは2045年までに、カーボンニュートラルな主要先進国のひとつになることを目指している。そして、包括的な目標は、温室効果ガスの排出を持続可能かつ効率的に回避することである。そのためにドイツ連邦政府は2022年から再生可能エネルギーの拡大、産業の脱炭素化、水素経済の拡大、e-モビリティの拡大、排出権取引の強化、計画・承認プロセスの加速化、建築部門の暖房転換、自然吸収源の早急な保全と拡大、技術的吸収源の強化など、多大な努力を重ねてきた。CMSの導入背景としては、これらの努力を推進してもカーボンニュートラルな主要先進国になるには足りないという論理だ。ドイツ政府は気候変動対応の手段として、将来を見据えた技術と捉え、技術的に成熟していない現段階から政策主導していく明確な意思を感じる。

 以下にCMAのドラフトに関して、ドラフトからの引用も加え紹介する。

  • CCS/CCUの使用セクター:セメント、石灰、化学セクターを想定

 この戦略では、CCS/CCUは「特に避けられない温室効果ガス排出と削減が困難な排出」に利用されるべきだとしている。セメント、石灰、化学セクターは、ドイツ産業における主要な排出集約型セクターであり、これらのセクターが生産プロセスの電化や水素への切り替えがまだ可能でない為、謂わばこのセクターでの利用を想定しているのである。
 尚、石炭火力発電所は CO2 パイプラインや貯蔵庫にアクセスできないとしている。この点は2024年5月29日に採択されたCCS法(Carbon Capture and Storage Act ドイツ語Kohlendioxid-Speicherungsgesetz:KSpG)の改正法案でも石炭火力発電所のCCUS利用を禁止している。詳細は弊社HPのリンク先(脚注[i])を参照いただきたい。
 上述の「削減が困難な」想定は、原材料の化学変換による排出や廃棄物の焼却による排出である。焼却予定の廃棄物はサーキュラーエコノミーを通じて大幅に削減できるが、2045年までにはまだ多くの廃棄物を焼却する必要があると、戦略ドラフトでは述べている。
 また、CCUにおける炭素原料化を化学セクターでは想定している。基礎化学で多くの炭素が必要になる。ドイツでは年間18百万トンの炭素が化学産業で必要とされている。

  • CMS実現の為の6つの具体的な行動分野とそれぞれの具体的な手段

 CMSでは「①CO2分離②CO2輸送③CO2の利用④CO2貯蔵⑤マイナス排出への貢献としてのCCS⑥CCS/CCU立ち上げのための市場枠組みとインセンティブ制度」の6つの行動分野と具体的な手段(対策・施策・測定・措置・方策)を掲げ、説明している。詳細については表2を参照頂きたい。注目すべき点を下記に紹介する。

  • CO2-輸送

 ドイツは2030年までに北部初の施設をCO2パイプライン網に接続することを目標としている。それまでは、CO2は鉄道、内陸水路、またはトラックで輸送される。2045年までには、ドイツは全長4,500キロメートルのCO2グリッドを備えることになる。

図:2045年に想定されるCO2ネットワークと主要供給ライン

出典:Carbon Management Strategie der Bundesregierung Draft より

  • CO2の貯蔵

 ドイツの排他的経済水域(EEZ)での探査と商業利用の許可が、2024年5月29日付の閣議決定でCCS法(Carbon Capture and Storage Act ドイツ語Kohlendioxid-Speicherungsgesetz:KSpG)で制定され、CCS法は国会手続きを経ており、2025年第1四半期末の条例制定となる予定である。

  • 優先されるセクター

 産業部門および廃棄物部門で回避が困難または不可能な排出物に重点が置かれており、特に回避不可能な排出に関するプロジェクトとしてセメント工場と廃棄物焼却に関する記載が本ドラフトには記載されており、基礎化学やガラス生産など、プロセス排出の削減が主に難しい部門では、国の支援を受けることができると記載されている。

表:CMS実現の為の6つの具体的な行動分野とそれぞれの具体的な手段

出典:Carbon Management Strategie der Bundesregierung Draft よりBCJ整理

  • CMS実現の為、CMSの調整センターを設立

 連邦政府が実施したステークホルダー・ダイアログの一環として、炭素管理のためのガバナンスの確立が、CMS戦略を成功させるために不可欠であると見なされており、そのためには、施策の実施、監視、評価を追跡し、社会参加と幅広い専門家の助言を組織的に可能となる様、制度的構造が必要とされている。そのため、CMSの実施において連邦政府を支援するCMS調整センターの設立を規定している。

 このように、CCS/CCUの実施に関しては、具体的な展開と想定されるアレルギーやハレーションに対しても具体的な対応が可能となるよう、布石を打ちながら実現に向けた戦略を検討している。然しながら、CCS/CCUのLCAに関してはドイツの独自性を出す政策は無く、現状はEUのガイドラインに沿って進めることとなる。

引用

[i]

ドイツのCCS法が改正。石炭火力発電所のCCUS利用を禁止

(文責:坂野 佑馬)  2024年5月29日、ドイツ連邦政府の経済・エネルギー省(BMWK)は、CCS法(Carbon Capture and Storage Act ドイツ語Kohlendioxid-Speicheru [&hellip…