「経済の近代化アジェンダ」:「ドイツ基金」で企業に投資額の10%を支給へ

(文責:坂野 佑馬)

 2024年10月23日にドイツのロベルト・ハーベック経済大臣は「経済の近代化アジェンダ(Update für die Wirtschaft – Impuls für eine Modernisierungsagenda)」を発表した。[i]このアジェンダは、ドイツ経済の強化を目的とし、革新や投資の推進、官僚主義の軽減、そして持続可能な発展を重要な要素としている。ロベルト・ハーベック経済大臣は、構造改革と投資の両輪が経済の持続的成長に不可欠であると強調している。加えてドイツ経済を持続可能な形で再活性化することを目指し、11月末には多くの経済団体との協議を予定している。実際の施行時期に関しては未定である。

 さて、同アジェンダにおいては、以下の7つの重点分野が設定されている。

  1. 革新の促進:技術革新を加速し、企業のデジタル化を支援する。
  2. 官僚主義の削減:特に中小企業やスタートアップが直面する規制を簡素化する。
  3. 気候保護の推進:脱炭素化を経済の競争力向上と結びつける。
  4. 人材確保:熟練労働者を確保し、労働市場の柔軟性を高める。
  5. インフラと投資の強化:持続的な投資を促進するための「ドイツ基金(Deutschlandfonds)」を提案。
  6. エネルギーコストの削減:企業のコスト負担を軽減するため、エネルギー価格の見直し。
  7. 貿易契約の強化:国際貿易を促進し、経済の競争力を維持するための新たな取り組み。

 この中でも特筆すべき施策としてとしてインフラ、教育、デジタル化、そしてエネルギー分野への重点的な投資の促進を目的とした「ドイツ基金」が挙げられると考える。ドイツ基金の概要を以下に示す。

1. 投資促進のための「ドイツ基金」

  • 投資金額の10%を投資奨励金として支給(インセンティブ):
    • 全ての企業、特に中小企業(中でも新興企業や手工業の分野)を対象に、建物投資を除く全ての投資に対して10%の奨励金を提供。
    • 企業の税額と相殺し、利益がない企業や新興企業には差額を現金で還元する仕組みを採用。
    • 例: 100,000ユーロの投資を行うと、10,000ユーロが奨励金として支給され、残りの90,000ユーロも通常の税控除対象となる。
  • 投資奨励金の期間: 5年間の期限付きで実施し、経済成長を促進することで国家債務の増加を抑える。
  • 利点:
    • 企業税率の引き下げよりも効果的: 税率の引き下げでは利益を上げる企業しか恩恵を受けにくいが、投資奨励金であれば利益が少ない企業も支援できる。
    • 新規投資を促進し、経済全体の成長を目指す。

2. インフラ、教育、デジタル化への重点的な投資

  • インフラ整備:
    • 交通インフラ(鉄道、道路など)に重点を置き、2030年までに1000億ユーロ以上の追加投資が必要と見積もられている。
  • 教育・研究:
    • 教育機関(幼稚園、学校、大学など)の施設改善と教育人材の確保に、70億ユーロ以上の投資が必要とされている。
    • 教育と研究への投資は、将来の生産性と経済成長の基盤になると強調されている。
  • デジタル化:
    • 2030年までにデジタルインフラ拡充に600億ユーロの追加投資が必要とされ、公共・民間部門双方のデジタル化を推進。
    • 「ドイツ・アプリ」の開発を提案し、すべての社会的サービスを一元的に申請できるプラットフォームを構築。

 持続的な投資を促進するための「ドイツ基金」は、財政制限(債務制限条項)が投資を妨げているという認識に基づき、国内外の経済専門家(Draghiレポート、OECD、BDIなど)による助言を反映している。ドイツ政府は、持続可能な財政と必要な投資のバランスを取ることを目指し、同ファンドを通じて経済の再活性化を図ろうとしている。
 大企業だけでなく、中小企業にも焦点を当てた「ドイツ基金」の施策により、ドイツ国内では一定の産業活性化が発現するであろう。特に企業における気候変動対策の一番の足かせは資金問題であることからも企業の脱炭素化の発展が期待される。

引用

[i] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Downloads/P-R/Pressemitteilungen/impulspapier-update-fuer-die-wirtschaft.pdf?__blob=publicationFile&v=2