EUのFCEV・水素エンジンの開発が再燃 REDⅢのRFNBO義務化で地道に市場拡大へ

(文責: 青野 雅和)

 先週、WEB記事として、ボルボが2030年完全EV化を撤回するとのニュースが公表された。2023年に2035年までにEV化するという欧州「2035年EV化法案」にドイツが待ったをかけ、e-fuelやHVOを利用できる環境を維持することとなっている状況下、各社は「本当にEV一辺倒で良いのか」という疑問を抱えながら開発を進めているのであろう。皆さんは日本でのEV車開発の記事と平行してどのような視点をお持ちであろうか?
 日本ではFCVは普及しないとの揶揄を込めた記事も散見するが、トヨタの水素エンジンやマツダのロータリーエンジンの水素化など、水素燃料の新技術が出てくる中で、FCEVは前述のバイオ燃料等との共存をしばらくは続けていくと筆者は考えている。本稿ではEUで再燃するFCEV車開発と水素エンジンの開発を紹介しながら、水素利用の地道なプロモーションの状況をお伝えする。

■ドイツでの燃料電池車の開発が再燃。水素ステーションの整備も進む

 さて、ドイツにおける燃料電池自動車(以下FCEV)の展開は、既に商用車を販売している段階であり、ダイムラー・メルセデスベンツは 2019年にGLC F-CELL (EUと日本でのみ発売)、燃料電池バスのeCitaroを販売している。トラックセクターにおいてはGenH2をアマゾン向けに実証試験中である。また、これまで商用レベルのFCEVを販売できていなかったBMWは、日本の自動車大手トヨタとの提携により、水素燃料電池パワートレインを共同開発する「iX5」水素燃料電池(FCEV)乗用車を2028年に初めて量産する予定であることを公表した[i]。また、BMWは日本水素ステーションネットワーク合同会社(現在36社)に8月に参画している。[ii]アウディは2018年からヒュンダイとFCEVの技術提携をしているし、各メーカーは必ずしもEV一辺倒ではないことが伺える。

 日本における水素ステーションは157か所を数えるが、EUでは161か所であり、そのうちドイツでは87か所が設置されている(図1参照)。700気圧の水素ステーションの設置も予定されており、EUでは、2030年末までに、人口10万人規模の都市はその周辺に水素ステーションを200kmごとに設置することを義務づけている。

図1 EUの水素ステーションの整備状況

出典:https://h2.live/en/

■EUでもFCEV及び水素エンジンは開発されている

 EUでは水素ステーションの設置数は少ないものの、FCEVを開発している他のメーカーはOpel、ルノーグループの燃料電池車の合弁会社HYVIAがFCEVに加え、トヨタと同様に水素エンジンの開発に注力している。来月に開催される「パリモーターショー」(一般公開日:2024年10月15~20日)では、6気筒水素エンジンを搭載した低エミッションのスポーツカー「Alpenglow Hy6」を公表する予定だ。また、フェラーリは水素を動力源とする内燃機関の特許を申請しており[iii]、今後はスポーツカーでの展開も拡大していくのではと期待している。トラックに関しては、ドイツのボッシュとマン、スウェーデンのボルボが水素エンジンを開発中となっている。

水素エンジン車:Alpenglow Hy4

出典:https://media.alpinecars.com/198909-198933/?lang=eng

■グリーン水素のステーション建設は継続して進んでいる

 フランスのグリーン水素製造企業Lhyfe(EURONEXT:LHYFE)は、ドイツ大手の水素ステーション開発業者H2 MOBILITY Deutschlandと、ドイツ国内の同社の燃料ステーションの一部に水素を供給する拘束力のある契約を締結したことを発表した。最初の水素供給は、ルートヴィヒスハーフェンとフランケンタールを皮切りに、バーデン=ヴュルテンベルク州とラインラント=プファルツ州全域で H2 MOBILITY Deutschland が開発、運営する 4か所の水素ステーションで使用されることとなっており、5年間の供給契約となっている。
 また、今年の3月にはドイツのノルトライン=ヴェストファーレン州(NRW)政府はトラック用の水素ステーションに2000万€を支給することをエアプロダクツとE.ONを含む5企業に決定しており、水素トラック需要にも応えていく姿勢を示している。

 弊社のowned mediaであるClimate change solutions &Sustainable Reportに9月9日付で「REDⅢで再生可能燃料(RFNBO;Renewable fuels of non-biological origin、グリーン水素と合成燃料)の利用が義務化される」[iv]とお伝えしたが、RFNBO認定されたグリーン水素を供給するのが前述のLhyfeである。
 REDⅢでRFNBO利用が義務化されたことの意味は「期待と普及」であると認識しており、グリーン水素のみならず、HVOやe-fuelの製造企業は増加していくと視ている。REDⅢがEV一辺倒にならない「拠り所」として、産業界に影響していくことは皆さんもご納得されるのではなかろうか。

引用

[i] https://www.press.bmwgroup.com/global/article/detail/T0444790EN/hydrogen-pioneers:-bmw-group-and-toyota-motor-corporation-take-collaboration-to-the-next-level-to-offer-fuel-cell-electric-vehicle-fcev-options-for-passenger-cars?language=en

[ii] 自動車会社 ビー・エム・ダブリュー株式会社が参画しました。 - JHyM 日本水素ステーションネットワーク合同会社

[iii] https://hydrogeneurope.eu/ferrari-patents-hydrogen-internal-combustion-engine/

[iv] https://baumconsult.co.jp/2024/09/09/%e3%80%90red%e2%85%b2%e3%80%91eu%e3%81%a7%e3%81%af%e3%82%88%e3%82%8a%e4%b8%80%e5%b1%a4%e3%81%aernfbo%e4%bd%bf%e7%94%a8%e3%81%8c%e7%be%a9%e5%8b%99%e5%8c%96%e3%81%b8/