CCS戦略を進めるEU。地中海とフランスでCCSが推進へ 熱を利用しないDAC技術を活用

(文責:青野 雅和)

 本稿では、欧州のCCS戦略の中で具体化しつつあるCCSを2件紹介する。

1.プリノス油田(地中海)でCO2貯留を開始

 ロンドンを拠点とする独立系 E&P(exploration and production)企業であり、地中海と英国北海の資源開発に重点を置いているEnergian[i]の子会社であるEnEarthは、ギリシャ北東部のカヴァラ沖のプリノス油田でCO2貯留ライセンスの申請を提出した。
 プリノス油田での動きは2022年9月にCO2貯留のための探査許可を取得し[ii]、その後の調査により、プリノスの貯留層とその下の帯水層は25年間で最大3百万トン/年のCO2を貯留できることが明らかになったことで継続して事業の可能性を検討してきた。同社はまた、追加の貯蔵庫が利用可能になるまでの需要に対応するため、より短期間でより高い注入率を検討している。
 「プリノス油田でCO2貯留」は、フランス、イタリア、ギリシャが策定した地中海CCS戦略計画の一部であり、地中海南東部に初の産業/商業規模のCO2貯蔵ハブを開発することを目指している。
 このプロジェクトでは6月にDAC 技術を保有しているアメリカのRepAir CarbonがMOUを締結し[iii]、プリノス油田に貯留するCO2を回収することとなっている。このプロジェクトは2026年初頭に運用を開始し、除去された最初の1キロトンの二酸化炭素を貯蔵する。2028年には、プリノス油田におけるEnEarthが注入するCO2の能力は年間最大300万トンとなる予定である。

 ギリシャ炭化水素・エネルギー資源管理会社への申請によると、プロジェクトの第1フェーズの貯留容量は年間最大100万トンのCO2になるとされている敷地が完全に開発されれば、この容量は年間300万トンまで増加する可能性がある。

2.フランスで陸上DACプロジェクトが推進へ

 前述のRepAir Carbon US Inc.[iv]とオランダの独立系炭素貯蔵スタートアップ企業C-Questraは8月19日にフランスで欧州初の陸上における直接空気回収・貯蔵 (DACS)プロジェクトを開発するための戦略的提携を発表した。このプロジェクトは、フランス中北部のイル・ド・フランス地方のパリ近郊グランピュイにあり、C-Questraはここで陸上CO2貯留施設の開発許可を申請している。同プロジェクトは2030年までに、年間10万トンのCO2を大気から除去することを目標とし、2035年までにメガトン規模に拡大していくとのこと。

 本稿で紹介した4社の概要を下記に記載する。

 概要
RepAir Carbon熱を使わない超モジュール式電気化学技術も使用しており、電気のみを使用する従来のDACソリューションと比較してエネルギー消費を 70% 削減させるDAC技術を保有。
C-Questraオランダの独立系炭素貯蔵スタートアップ企業。温室効果ガスの排出を削減する持続可能な産業の取り組みを支援するCO2貯蔵バリュー チェーンに特化した、ヨーロッパを代表する独立系スタートアップ企業およびCCUSオペレーターである。
Energian地中海の資源開発に注力。複数の国にまたがる10億バレル以上のBoE(イングランド中央銀行)のポートフォリオの80%はガスで占められており、最大15万バレル/日を生産。2050年までに排出量を実質ゼロにすることを目標としている。
EnEarthEnergianの子会社。地中海の二酸化炭素排出量を削減し、ギリシャ北部に新たな低炭素/環境サービス産業インキュベーター/ハブを創設することを掲げている。

出典:各社のHPからBCJ作成

 欧州委員会(The European Commission)は、2024年2月6日に産業炭素管理コミュニケーションを採択し、産業施設からのCO2排出を回収、貯蔵、輸送、利用できる技術のEUにおける導入を促進する戦略を公表している。欧州議会とEU理事会の間で、ネットゼロ産業法(NZIA:The Net-Zero Industry Act[v])が成立し、2030 年までにCO2貯留サービスのEU市場を創設することを目指している。またEUレベルの目標を設定し、年間CO2貯留能力を少なくとも5,000万トンにすることを義務付けている。また、NZIAでは、EUの石油・ガス生産者に2020年から2023年までの石油・ガス生産量に基づいて比例配分してこの目標達成に貢献することを義務付けている。こうした背景もあり、欧州では今後も多くの事業が創出されていくであろう。

 プリノス油田でのCO2貯留は、前述のとおりガス生産者であるEnergianの展開であることからNZIAを踏襲した事業と理解いただきたい。お分かりいただけるように欧州では法制度によりCCS(を含む脱炭素技術)の事業運営及び技術ノウハウはエネルギー会社に帰結することとなる。技術開発には痛みが伴うが、その後は世界で先端技術となる。欧州の政策・制度設計による市場創出と技術開発の推進には感嘆する。

引用

[i] https://www.energean.com/

[ii] https://www.enearth.earth/what-we-do

[iii] https://www.repair-carbon.com/press/repair-enearth-sign-a-landmark-direct-air-capture-storage-agreement

[iv] https://www.repair-carbon.com/

[v] https://single-market-economy.ec.europa.eu/industry/sustainability/net-zero-industry-act_en