欧州のバイオディーゼル市場は適切な原材料トレースが必要となる。輸出国が市場ニーズに乗じバージンオイルをUCO表示し輸出している可能性も

(文責:坂野 佑馬)

 昨今、脱炭素の潮流の中で次世代型バイオ燃料としてHVO(Hydrotreated Vegetable Oil:水素化分解油)が注目を集めている。このHVOとは、欧州においては食糧と競合しない植物油等を原料に用い、グリーン水素を加えて一定程度の高温高圧下で触媒を利用して水素化分解させることで生産された次世代型のバイオ燃料である。HVOの一部はジェット燃料に利用することが可能であり、SAF(Sustainable Aviation Fuel)の代表的な製造手法の1つとして期待を集めている。

 

 さて、HVO/SAFであるが、需要が高まっている原材料のがUCO(Used Cooking Oil; 使用済み食用油)であり、世界各国で争奪戦が繰り広げられている。米国のコンサルティングファームであるStratas Advisorsは世界全体でのUCOの消費に関して分析しており、欧州のNPOであるTransport & Environment (T&E)はその分析に基づいてUCOを用いたバイオ燃料の将来性に関してレポートを発表している。[i]
 同レポートによれば、欧州において今日では、1日に約13万バレル(1バレル=約160リットル)のUCOが消費されているそうだ。2023年には、欧州諸国においてバイオ燃料の原料として消費されるUCOは700万トンに到達し、これは2023年の欧州でのUCO回収量の約8倍であり、また欧州全体のUCO回収ポテンシャル量の約4倍に相当する(図1)。欧州で調達できない不足分は、主に中国、マレーシア、インドネシアからの輸入で賄っていることが把握されている(図2)。2023年には、オランダと英国が欧州におけるUCO由来バイオディーゼルとUCOの最大の輸入国となり、それぞれ欧州のUCO輸入全体の約40%を占める結果となった。より詳細には、オランダは、マレーシア最大の輸出先であり、マレーシアからUCO輸出の約40%を調達している。また、欧州・米国へのUCOの輸出が顕著であるが、ネステによるHVO生産の強化を背景に、シンガポールへの輸出も2021年から2023年にかけて倍増している。

図1. 欧州におけるUCOの消費量・回収量・回収ポテンシャル量(2023年)

出所:T&E「Unknown Cooking Oil High hopes on limited and suspicious materials」より引用

図2. インドネシア、マレーシア、中国からのUCOおよびUCOME
(UCOメチルエステル、UCO由来のFAMEのことであると推定)の輸出量の推移

出所:T&E「Unknown Cooking Oil High hopes on limited and suspicious materials」より引用

 Stratas Advisorsの分析では、パーム油などのバージンオイルをUCOと表示し輸出している可能性について指摘している。図 2 は、UCOおよびUCOMEのの回収量と輸出量を比較したものである。中国の厨房では廃食油が「側溝油(Gutter Oil)」として再利用されることが多く、ICCT(International Council on Clean Transportation)によれば、側溝油市場の規模は不明瞭で2百万トン~10百万トンと推計されている。Stratas Advisorsの評価では、中国では、UCO および UCO 由来バイオ燃料の輸出と国内利用を合計しても、国内回収量と輸入量をわずか 5%下回るに過ぎず、UCO の国内利用が不透明であることを考えると、一部は廃棄物ではないバージンオイル等の油との疑念を抱かせる。また、マレーシアにおいてはUCO と UCO 由来バイオ燃料の輸出量は国内回収量と輸入量を合計の3倍以上となり、誤標示ではなく不正の疑いが強いと言える。

図3. 中国、マレーシア、インドネシアにおけるUCOおよびUCO由来バイオ燃料の
回収量・輸入量・輸出量・国内利用量(2023年)

出所:T&E「Unknown Cooking Oil High hopes on limited and suspicious materials」より引用

 こうした現状を受けてか、欧州委員会は2023年12月、中国からのバイオディーゼルの輸入に関して不公正かつ違法な行為を評価するための反ダンピング措置(輸出国の国内価格よりも低い価格による輸出が、輸入国の国内産業に被害を与えている場合に、その価格差を相殺する関税を賦課できる措置)を目的とした前調査を開始した。 同調査の正式な結果はまだ公表されていない。同様の施策として、2023年8月にはインドネシア産のバイオディーゼルが中国と英国を経由することでEUの関税を回避していないかどうかの調査も開始している。
 EUはバイオ燃料の持続可能性(原料が森林破壊を引き起こさないかつ食糧と競合しない等の基準)について明確な姿勢を示している。こうしたアジア諸国からのUCO含む原材料輸入における不正は厳しく取り締まられるだろう。もしかしたらUCOの利用ポテンシャルは既に限界のところまで来ているのかもしれない。従い、今後はUCO以外の原材料利用が重要視されると考える。熱帯地域を中心に既に様々な油糧作物を生産する動きが見られるが、原材料はより多様化していくのではないだろうか。
 日本国内においてはHVO等のバイオディーゼル原材料として有望な作物を大量生産することは難しい。日本グリーン電力株式会社は、インドネシアやフィリピン等の「規格外ココナッツ(未成熟、芽が出ている、割れている、腐っているもの)」を活用しSAFの製造を計画している。同社の努力により、「規格外ココナッツ」はICAO(International Civil Aviation Organization)におけるCORSIA(Carbon Offsetting and Reduction Scheme for International Aviation)のポジティブリスト(CORSIAでSAFに適量可能な廃棄物・残渣・副産物由来の原材料リスト)に登録されることとなった。[ii]既にUCO以外の原材料の調達も競争が激化している中では、現段階では認知されていない原材料を1から発掘する労力が求められることなるのではないだろうか。HVOの動向と併せて、原材料に関しての情報も継続して共有していく。

引用

[i]  https://www.transportenvironment.org/articles/uco-unknown-cooking-oil-high-hopes-on-limited-and-suspicious-materials

[ii] https://gpdj.jp/news/395.html