ドイツのCCS法が改正。石炭火力発電所のCCUS利用を禁止

(文責:坂野 佑馬)

 2024年5月29日、ドイツ連邦政府の経済・エネルギー省(BMWK)は、CCS法(Carbon Capture and Storage Act ドイツ語Kohlendioxid-Speicherungsgesetz:KSpG)の改正法案を採択した。[i]同改正法案の目的は、CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)の利用、CO2の輸送と海底貯蔵を可能にすることである。今後、同改正法案はドイツ連邦議会による審議を受けることとなり、依然として大幅な変更が加えられる余地はある。
 そもそも、ドイツのCCS法[ii]は2012年に制定されたもので、試験・研究目的での炭素貯留のみが限定的に許可されていた。同法(弊社の2013年7月21日で紹介)[iii]は4年に一度の頻度で評価することを規定しており、BMWKは2022年12月公表の評価報告書において、ドイツが気候中立(climate neutral; 全ての温室効果ガス排出量を正味ゼロにすること)を達成するためにはCCUSの活用が必要であり、CO2のパイプライン輸送やその他の必要なインフラ整備に関する法整備の重要性を言及していた。ドイツ政府は、2045年の気候中立を達成するために、2045年までに年間3,400万トンから7,300万トンのCO2を回収する必要があると見積もっている。

CCS法の改正法案のポイントを以下に示す。

➀対象とするCO2排出源

・石炭火力発電所によるCO2パイプラインへのアクセスは認めない(事実上、石炭火力発電所へのCCUS/CCUの適用を排除)

➁CO2貯留を許可する範囲

・ドイツの領海(EEZまたは大陸棚)内におけるCO2貯留のための探査と商業利用のための開発を許可(海洋保護区は除外)

・陸域におけるCO2貯留は、各連邦州が州法で許可した場合のみ可能となる

➂CO2パイプラインに対する承認制度を創設

・CO2パイプラインに対する統一的な承認制度を創設し、民間資金でのCO2パイプラインの建設開始が可能となる

・天然ガスパイプラインをCO2輸送パイプラインへ転用することを促進する枠組みを導入

ドイツは地質学的には、北海の一部に約15~83億トンのCO2貯留ポテンシャルを有しており、年間2,000万トンまで貯留できる可能性を秘めているとされている。今回の改正によって、CO2の海底貯留は許可されたが、CO2をパイプラインで国境外へ輸送するためには、ロンドン議定書の担保法である公海輸送法(Hohe-See-Einbringungsgesetz )[iv]を改正し、CCSを目的とするCO2の輸出を認めるロンドン議定書第6条改正を受託する必要がある。現時点においては、ドイツ政府は公海輸送法の改訂を完了していないため、CO2の海底貯留プロジェクトを実行に移すことはできない。ドイツ政府は、今回の採択に際して公海輸送法の改正に関する言及をしていないが、2024年2月にCCS法改正案を発表した時点では、公海輸送法の改正を急ぐ方針であるとしていた。

 日本国内では、「GX実現に向けた基本方針」[v]において、2030年までのCCS事業開始に向けた事業環境を整備するため、模範となる先進性のあるプロジェクトを支援していく方針を示している。2023年にJOGMEC(独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)が選定した「先進的CCS事業」には7件のプロジェクトが選ばれた(図1)。図1を参照すると、選定された7プロジェクトは、発電、石油精製、鉄鋼、化学、紙・パルプ、セメント等の事業分野が幅広く参画していることが分かる。
 此度のドイツ政府のCCS法改正案と日本のCCS推進方針で異なる点は、日本においては石炭火力発電所由来のCO2に関してもCCUSの対象として認められている点である。ドイツのCCS法改正の議論の中では、前述のとおり、石炭火力発電所が発電拡大のためにCCUSを利用することが懸念点であるとして、CCS改正法の対象から除外されることとなっている。JOGMECが認定したプロジェクトの中では、「5」九州北部沖~西部沖CCS事業」において電力開発株式会社の石炭火力発電所からのCO2を貯留する計画となっている。弊社は引き続きCCUS関連の情報を紹介していく。

図1.JOGMECが選定した「先進的CCS事業」

出所:経済産業省HPより引用

引用


[i] https://www.bmwk.de/Redaktion/DE/Pressemitteilungen/2024/05/20240529-entscheidung-ccs-industrie-deutschland.html

[ii] https://climate-laws.org/document/carbon-capture-and-storage-act-kspg_f99d

[iii] https://baumconsult.co.jp/2023/07/21/%E3%83%89%E3%82%A4%E3%83%84%E3%81%A7%E3%81%AF%E6%B5%B7%E5%BA%95%E4%B8%8B%E3%81%B8%E3%81%AEco2%E8%B2%AF%E7%95%99%E3%81%8C%E9%80%B2%E3%82%80%E3%81%AE%E3%81%A7%E3%81%82%E3%82%8D%E3%81%86%E3%81%8B/

[iv] https://www.gesetze-im-internet.de/hoheseeeinbrg/

[v] https://www.meti.go.jp/press/2022/02/20230210002/20230210002.html