EUは大型車のCO2排出規制を強化 ~ゼロエミッション車両の販売を推し進める~

(文責:坂野 佑馬)

 2024年5月13日、欧州理事会は大型車メーカーを対象としたCO2排出基準の改正規則を採択した。[i]基本的にはEU域内における大型車のゼロエミッション車両(トラック:3 gCO2 /トンキロ未満、バス: 1 gCO2 /旅客キロ未満、トレーラー:1 gCO2 /kWh未満の条件を満たす車両と定義している)への移行を推進する方向性であるが、e-fuelやバイオ燃料等の利活用に関しても検討を重ねる方針だ。同規則において、欧州委員会は、大型車におけるに先進バイオ燃料、バイオガス、非生物由来の再生可能燃料の導入にインセンティブを与える方法を分析した報告書を2025年12月31日までに作成することとし、2027年末までに本「改正規則」を再度見直しすることを規定している。

 EUにおいては、道路交通からのGHG排出量の25%以上を大型車が排出している。大型車CO2排出基準は2019年に制定され、車両総重量が16トンを超える大型トラックについてのみ、販売される車両の平均CO2排出量(gCO2/トンキロ)の削減目標値は2025年と2030年の二つの目標年度を設定していた。今回の改正では規制対象車両の拡大と同時に、2025年から2040年まで5年刻みで目標値を設定し、CO2排出量削減へ向けた規制強化を図っている。また、路線バスに関しては、CO2排出削減目標の代わりに新車販売におけるゼロエミッション車両(バス: 1 gCO2 /旅客キロ未満)の販売シェア目標を設定している。具体的な目標値に関しては、図1、図2に整理したので参照してもらいたい。

図1.車両分類ごとのCO2排出削減目標の一覧

出所:ICCT「The revised CO2 standards for heavy-duty vehicles in the European Union」[ii]を基にBCJ作成

図2. 路線バスの新車販売におけるゼロエミッション車両の販売シェア目標

所:ICCT「The revised CO2 standards for heavy-duty vehicles in the European Union」を基にBCJ作成

 同規則においては、以前より「クレジット・デット制度(credit and debt system)」が導入されていた。具体的には、2つの目標(例えば2025年の15%と2030年の43%)を結ぶ直線(図3参照、黒線)よりも上回る削減実績を達成した大型車メーカーに7年間有効な「クレジット」(図3参照、緑塗範囲)を与えるものである。このクレジットは、大型車メーカーが目標を達成できなかった場合に発生する「デット」(図3参照、赤塗範囲)を相殺するために使われる。現在規制されているトラック及び新たに追加されたトラック・都市間バスについては、CO2排出削減に基づいてクレジット・デットが発行されるが、新たに追加された路線バスについては、新車販売におけるゼロエミッション車両販売シェアに基づいて発行されることとなる。
 なお、クレジットを利用しても相殺しきれなかった分のデットに基づいて、大型車メーカーは【車両台数】×【目標超過量(gCO2/トンキロ)】×【4,250ユーロ】の罰金を課されることとなった。クリーンな交通手段を専門としたシンクタンクのICCT(International Council on Clean Transportation)による分析では、大型車メーカーはCO2削減目標を達成できなかった場合、約9,000万ユーロの罰金を支払うことになると指摘している。[iii]
 クレジット・デット制度は2039年まで有効であるが、2040年以降、大型車メーカーが目標を達成できなかった場合、クレジットによる補助無しで罰金(図3参照、Non-compriance部分)を支払う義務が課せられることとなる。

図3. 改正後のクレジット・デット制度の概要図

  • 現在規制されているトラックのCO2排出削減に基づいたクレジット・デット

  • 新たに追加されたトラック・都市間バスのCO2排出削減に基づいたクレジット・デット

  • 新たに追加された路線バスの新車販売におけるゼロエミッション車両販売シェアに基づいたクレジット・デット

出所:ICCT「The revised CO2 standards for heavy-duty vehicles in the European Union」より引用

 EUにおいては、2024年3月28日にも「新型の普通車・商用車」のCO2排出基準をより厳しくする規則を採択しており、本格的に道路交通におけるGHG排出量削減を取り組んでいく姿勢を示している。一方で、EUはEVシフトを前衛的に推し進めていたが条件付きで内燃機関車を容認する方針に切り替えた過去がある。そうした背景からも今回の大型車のCO2排出基準の改正規則に関して方向転換される可能性は十分にある。規則内にも2027年末までに規則の見直しを実施することが規定されており、今後の展開に関しては注意深くベンチマークしていく必要があるであろう。弊社としても引き続き情報を提供させていただきたい。

引用

[i] https://www.consilium.europa.eu/en/press/press-releases/2024/05/13/heavy-duty-vehicles-council-signs-off-on-stricter-co2-emission-standards/

[ii] https://theicct.org/publication/revised-co2-standards-hdvs-eu-may24/

[iii] https://theicct.org/publication/europe-heavy-duty-vehicle-co2-standards-may23/