EUでは廃棄物輸送規則が改正へ
~廃棄物の区分に関心が寄せられる~
(文責:青木 翔太)
2023年11月17日、EU理事会と欧州議会は、「廃棄物輸送規則」の改正案に関して、暫定的な政治合意に達したことを発表した。過去に2021年11月に改正案を公表したことがあったが、2年の経過の後、合意に至ることとなった。※1同規則の改正は、2050年に欧州でカーボンニュートラルを達成するための政策「欧州グリーンディール」の一環とされている。※2 なお、今回の発表では、合意された内容に関する文書は公開されていないため、以下に欧州議会で採択された改正案の主な内容を示す。※3
(1)EU加盟国間における廃棄物輸送の効率化
・届出に関する文書のデジタル化や、廃棄物の分類を統一することにより、EU域内の廃棄物輸送を円滑にする。ただし、焼却処理や埋め立て処分される廃棄物の輸送に関しては、規制を厳格化する。
(2)EU域外への廃棄物輸出に関する規制の強化
・EU域外に廃棄物を輸出する全ての域内企業は、相手国の施設が環境に配慮した廃棄物の管理を行っているかについて、監査を実施する必要がある。
[輸出相手国が非OECD(経済協力開発機構)加盟国の場合]
・EU加盟国からの廃棄物の輸出は原則禁止となる。ただし、相手国が、人体や環境に悪影響を及ぼさない非有害廃棄物の受け入れに同意し、かつ持続可能な廃棄物の管理ができる場合のみ輸出が許可される。
[輸出相手国がOECD加盟国の場合]
・廃棄物の輸出に関して、モニタリングを実施する。当該廃棄物が相手国で深刻な環境又は公衆衛生上の問題を引き起こすと判断された場合には、輸出が停止される。また、4年以内にプラスチック廃棄物のEU加盟国からの輸出を段階的に廃止していく。
(3) 違法な廃棄物輸送への対策
・行政罰に関する規定を強化する。また、廃棄物輸送規則の執行グループを設置し、EU加盟国間の協力を強化する。
改正案が欧州議会で採択されたことを受け、欧州リサイクル産業協会と欧州廃棄物管理協会が相次いで意見を述べており、「混合プラスチック廃棄物」と「リサイクルされた金属や紙のスクラップ(いわゆる中間処理を経た廃棄物)」に同一ルールが適用されている点を指摘した。※4※5また、欧州リサイクル産業協会は、廃棄物の分別が行われないことで、欧州の金属及び紙のリサイクル業界で最大50%の人々が失業する可能性があると予想している。この懸念については、図1で示すように、EUから輸出される廃棄物の大半が鉄鋼や紙・段ボールとなっていることが背景にあると想定される。
図1. EUから輸出される分類別の廃棄物量(2020年)
出典:欧州委員会が公表している資料※6を基にBCJにて作成
前述のような業界関係者からの意見がある一方で、廃棄物輸送規則の改正の必要性を示す資料を欧州会計検査院が公表している。※7 同資料では、人体や環境に悪影響を及ぼす有害廃棄物について、EUで発生する半数以上が適切にリサイクルされずに処分されており、行方不明となっているものが約20%を占めているとされている。
また、欧州委員会は、2020年にEUが約3,300万トンの廃棄物を域外へ輸出していることを取り上げ、輸出先の廃棄物の適正な管理を確保するための規定が、現行規則において十分に整備されていないことを問題視している。※8
改正案は今後、EU理事会と欧州議会での正式な採択を経て施行される予定となっている。2006年に施行された廃棄物輸送規則は、改正案の内容を見る限り、EUは域外への廃棄物の輸出を制限し、廃棄物を二次資源として域内で利用することを更に推進しようとしていることが伺える。業界関係者からの指摘が見受けられることや、各国の廃棄物の輸出入や処理の在り方に影響を及ぼすと推察される点からも、文書の詳細情報の公表が待たれるところである。
参考資料
※1
※2
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52021PC0709&qid=1642757230360
※3
※4
※5
※6
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/fs_21_5988
※7
https://www.eca.europa.eu/en/Pages/DocItem.aspx?did=63242
※8
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX%3A52021PC0709&qid=1642757230360