再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive:REDⅢ)が改正へ
~再生可能エネルギー比率の2030年目標を45%以上に引き上げ、森林バイオマス利用は再生可能エネルギーの対象に留めることを決定~
(文責:青木 翔太)
2022年9月14日、再生可能エネルギー指令(Renewable Energy Directive:REDⅢ)の改正案が欧州議会で採択された。※1同改正案は、欧州委員会が2030年に温室効果ガス55%削減(1990年比)を実現するための政策パッケージ「Fit for 55」の一環として提案したものである。
今回の欧州議会で採択されたREDⅢの主な項目として、(1)2030年に向けた再生可能エネルギー比率の引き上げ、(2)加盟国間の共同プロジェクト開発に関する要求、(3)バイオマスエネルギーの取り扱い、の3点が挙げられる。以下に各項目の内容を示す。
(1) 2030年に向けた再生可能エネルギー比率の引き上げ
EUにおける2030年の最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率の目標が、現行指令上の「32%以上」から「45%以上」に引き上げられた。これは、ロシアの化石燃料への依存を脱却する「REPowerEU」計画に沿った目標となっており、欧州理事会や「Fit for 55」で示されている目標よりも高いものとなる。(表1)
表1 参考:EU団体及び各政策に記載されている、2030年の最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギー比率の目標値
発表元 | 欧州議会 | 欧州理事会※2 | 「REPowerEU」計画※3 | 「Fit for 55」パッケージ※4 |
公表日 | 2022年9月14日 | 2022年6月27日 | 2022年5月18日 | 2021年7月14日 |
目標値 | 45%以上 | 40%以上 | 45%以上 | 40%以上 |
出典:※2~※4の各サイトよりBCJ作成
また、改正案では、部門別の最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率について、産業部門で年率1.9%、地域冷暖房部門で年率2.3%増加させることを各加盟国に求めている。なお、この増加率についても欧州理事会が示す目標より高い数値となっている。欧州理事会は同増加率を産業部門で年率1.1%、地域冷暖房部門で年率1.1%(2026年~2030年)にすることを加盟国に求めている。
(2)加盟国間の共同プロジェクト開発に関する要求
各加盟国は、次のような要件に基づき、再生可能エネルギーを生産するための共同プロジェクトを確立していくことが求められる。
・年間電力消費量が100TWh以下の加盟国は、2025年12月31日までに、少なくとも2つの共同プロジェクトを確立する。
・年間電力消費量が100TWhを超える加盟国は、2030年までに、3つの共同プロジェクトを立ち上げる。
ちなみに、EU統計局(Eurostat)によれば、EU加盟国の中で2021年度における年間電力消費量が100TWhを超えている国は、「ドイツ(515TWh)、フランス(442TWh)、イタリア(300TWh)、スペイン(234TWh)、ポーランド(153TWh)、スウェーデン(130TWh)、オランダ(113TWh)」の計7ヵ国である。※5
(3)バイオマスエネルギーの取り扱い
「森林から直接取り出される木質バイオマス(以下、森林バイオマス)」を燃料とする発電のみを行うプラントについては、2026年12月以降、補助金の支給を原則取り止められる。ただし、バイオエネルギーを使って炭素を回収・貯留するBECCS(Bio Energy with Carbon Capture and Storage)を行うものであること、欧州委員会に許可された「公正な移行計画」に位置づけられたプラントであること、のいずれかの条件を満たす場合は、適用除外となる。また、欧州議会はエネルギー利用のさらなる増加が森林伐採量の増加につながるリスクを念頭に、森林バイオマスの利用量の上限も盛り込んだ。具体的には2017年から2022年までに使われた森林バイオマスの平均量を算出し、それ以上の利用を禁止するものとなる。
欧州では、この森林バイオマスについて、カーボンニュートラルであるか、生物多様性と環境の破壊を引き起こしていないか、という2点で議論が続いている。2018年に改正されたRED IIでは、環境破壊への懸念は認識しているものの、森林バイオマスがカーボンニュートラルであることについて、公式には否定されていない。欧州以外の各国の政府にとっても、このRED IIは、森林バイオマスを再生可能エネルギーに含める根拠であり、さらには、補助金の正当性を担保する拠り所となってきた。しかしながら、欧州委員会から委託を受けた合同調査センター(JRC: Joint Research Center)が2021年1月25日に発表した公式調査報告書「EUのエネルギー生産における森林バイオマスの使用(The use of woody biomass for energy production in the EU)」によって状況は一変する。※6同報告書では、「森林バイオマスの燃焼は、収穫残渣や枝葉を一定の条件で利用する場合以外に、生物多様性と環境破壊のリスクがあり、カーボンニュートラルではない」と結論づけられた。この調査結果に端を発して、環境NGOなどから「エネルギー利用が森林伐採量を増加させている」といった批判が相次ぎ、ついには「森林バイオマスを再生可能エネルギーの対象から外すべきだ」という主張がなされるようになり、その帰結が注目されていた。結果として、欧州議会は森林バイオマスを再生可能エネルギーに含め、REDⅢの目標達成に算定できる基本的な枠組みを変えなかった。
今回採択された改正案は、今後、欧州委員会と欧州連合理事会との三者間協議が行われ、2022年内を目途に文案がまとめられる予定となる。2030年の目標値などで欧州理事会との相違点が見受けられるが、果たしてどのように文案が最終化されるだろうか。また、欧州のバイオエネルギー団体であるBioenergy Europeが、補助金廃止について反対の意を示していることもあり※7、森林バイオマスの補助金政策については特に注目していきたい。
参考資料
※1
https://www.europarl.europa.eu/doceo/document/TA-9-2022-0317_EN.html
※2
※3
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_3131
※4
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_21_3541
※5
https://ec.europa.eu/eurostat/databrowser/view/nrg_cb_e/default/table?lang=en
※6
※7
https://bioenergyeurope.org/index.php?option=com_content&view=article&id=382