気候変動への対策と自然保護を考慮したドイツの具体策:ドイツ自然気候保護に関する行動計画を公表

(文責:坂野 佑馬)

 2022年3月29日、ドイツ連邦政府の環境・自然保護・原子力安全・消費者保護相を務めるSteffi Lemke氏は自然気候保護に関する行動計画(ANK:Aktionsprogramm Natürlicher Klimaschutz)※1を発表した。自然気候保護とは、「気候変動への対策と自然保護は密接に関係しており、双方に効果的な施策を推進すべき」という考え方である。ドイツ連邦政府は自然気候保護に対して、2022年から2026年の間に合計で約40億ユーロ(約5400億円)を投資するとしている。同計画の基本方針の中で以下の10の行動分野について示されている。

1.泥炭地の保護と再湿潤化

前段で弊社より泥炭に関する説明を加える。泥炭は湿原での植物の炭化物であり、通常浸水していると分解されないが、排水等により乾燥すると二酸化炭素が排出されてしまう。従い、泥炭地や排水された泥炭地の土壌を保護・復元することで、温室効果ガスの排出を大幅に削減することが可能となる。以下基本方針の説明を抜粋する。

ドイツの泥炭地の92%は排水されており、年間約5,300万トンのCO2(ドイツ国内の温室効果ガス(GHG)総排出量の約6.7%)を排出している。泥炭地を回復させるべく、連邦各州と、泥炭地保護のための優先地域の選定、泥炭採取と使用の段階的廃止、再湿潤化計画に関する基本原則について合意形成を図る。並行して、湿地農業の新たなバリューチェーンの構築と産物のマーケティングを推進し、湿潤化した泥炭地での太陽光発電や既存の湿地帯の水管理の最適化も促進する。

2.河川・湖・氾濫原(河川の流水が洪水時に河道から氾濫する範囲にある低地部分の総称)における水のバランス

ドイツの氾濫原のうち、生態系が保たれているのはわずか9%である。水系の再生と氾濫原の再連により、多様な動植物の生息域を確保できる。同時に、地表水を貯留する能力が上がり、干ばつや洪水による被害を予防する効果が期待できる。これらの水系・氾濫原が有する能力を成長・復活させるべく、水系における汚染された堆積物の浄化から取り組みを始め、氾濫原の整備と利用を強化し、自然保護と農業の連携を推進する。

3.海と海岸

北海とバルト海は、GHGの吸収や気候変動の影響で水温が上昇し、酸性度も高くなってきており、海洋動植物にも影響を与え、回復力が低下してきている。2020年までに良好な環境状態を達成するというEU海洋戦略枠組み指令(MSFD:Marine Strategy Framework Directive)※2の目標が見送られ、ドイツの海洋保護区の首都生息地もNature2000指令によれば、好ましい保護状態にはない。EU各国と連携して、海洋戦略・計画を新たに策定し、海洋・沿岸生態系の機能を回復させ、自然なCO2貯留能力を向上させることを目指していく。

4.原生地域と保護地域

2030年までに生物多様性を回復軌道に乗せることを目標とした「EUの生物多様性戦略2030」※3には、陸域と海域の10%を厳格な保護下に置くという目標がある。この目標達成には、自然の営みに任せている地域が重要だとされている。

一方、ドイツでは国土の2%を大規模な原生地域として確保、小規模の原生地域では森林面積の5%を恒久的に確保するという目標がある。原生地域を保護し、可能であれば拡大し、その管理目標を発展させていく。

劣化した生態系を回復させるため、景観を考慮した対策に加え、保護区に焦点を当て、EUの生物多様性戦略2030に沿ったドイツ独自の再生計画を策定し、実施するとしている。

5.森林生態系

ドイツ連邦食糧農業省(BMEL)の指導のもと、人工林を天然林の状態に近づける施策、植林活動、土壌保全型の森林管理を具体的に推進するためのインセンティブシステムを共同で構築していく。

また、公有地で天然に近いブナの老齢林の伐採を止める措置を取りたい。

6.炭素貯蔵庫としての土壌

農業景観における、アグロフォレストリー、並木、畑の雑木林など、気候や生物多様性に良い影響を与える要素を保全していく。また、1998年に制定された連邦土壌保全法※4において、汚染が認められ封鎖されている土地について、封印解除や土地利用の検討を強化する等、その取扱いを見直すとしている。

7.居住・交通エリアにおける自然気候保護

都市部の木々は、遮光や蒸発による冷却効果、大気汚染物質やCO2を吸収する効果がある。これらの効果を維持・強化する為に、地方自治体の森林管理を支援し、管理に関する適切な枠組みを設けることで義務化していく。具体的には、都市部における追加植樹や都市林の再緑化を促進することなどが含まれる。

8.データ取集、モニタリング、モデリング、レポーティング

生物多様性保全や地球温暖化防止を効果的に推進するには、生態系の状態や変化を的確に記録することが必要である。人工衛星によるリモートセンシングなどの新しいデータソースが統合される予定となっている。BMELの指導のもと、連邦森林インベントリーを見直し、また生態系をモデル化するためのツールである「デジタル森林モニタリング」を導入する。

また、連邦環境庁に土壌モニタリングセンター設立し、土地部門の温室効果ガス排出量を記録・報告するための法的基盤を整備する。さらに、陸と海の生態系のモデリングを改善するための研究も具体的に推進していく予定。

9.研究・技術開発

自然気候保護に関する独自の研究プログラムを立ち上げる予定である。近自然生態系の持続可能な管理と可能なバリューチェーンの提案を行い、土地利用のモニタリングやモデリングの強化も行うとしている。

10.EU及び国際社会との協力

連邦環境・自然保護・原子力安全省(BMUV)はEUレベル、国際レベル問わず、自然気候保護を強調し、野心的なアプローチを提唱していくとしている。

 ANKは生物多様性国家戦略、水国家戦略、泥炭地保護戦略、海洋戦略(予定)とも連携していく予定で、その一つとして、連邦政府のプログラム「ブルーベルトドイツ」※5が挙げられる。

 ブルーベルトドイツは、連邦交通省と連邦環境省が2015年に共同で開始したプログラムで、ドイツ全土の水路を相互に繋げ、水路と氾濫原の生態系を保全することを目的としている。連邦環境省によって助成プロジェクトが組まれており、2022年から2024年にかけて約1,400万ユーロ(約19億円)が水路沿岸の近自然化プロジェクトに対して支援される予定である。主に、沿岸地帯・湿地帯の復元や不要になったダムや排水施設の撤去を推進している。

 EUは2022年夏までに「EUの自然保護制度」のドラフトを提示する。その内容はEU生物多様性戦略の2030年の目標である「生態系の回復」を法的拘束力で規定することとなる。ANKは「EUの自然保護制度」におけるドイツでの中心的な手段となる。環境・自然保護・原子力安全・消費者保護相はANKの施策をできるだけ早く実施するために加速検討していくと記載している。

※1 Steffi LEMKE氏による発表。https://www.bmuv.de/fileadmin/Daten_BMU/Download_PDF/Klimaschutz/aktionsprogramm_natuerlicher_klimaschutz_bf.pdf

※2 欧州委員会(EC)_ EU海洋戦略枠組み指令

https://ec.europa.eu/environment/marine/eu-coast-and-marine-policy/marine-strategy-framework-directive/index_en.htm

※3 EC _ EU生物多様性戦略2030

https://ec.europa.eu/environment/strategy/biodiversity-strategy-2030_en

※4 ドイツ連邦法務省 _ 連邦土壌保全法

http://www.gesetze-im-internet.de/bbodschg/index.html

※5 ドイツ連邦環境・自然保護・建築・原子力安全省 _ ブルーベルトプログラム

https://www.blaues-band.bund.de/Projektseiten/Blaues_Band/DE/neu_01_Bundesprogramm/bundesprogramm_node.html