「REPowerEU」計画: ロシアからの天然ガスを含む化石燃料への依存解消に舵を切るEU
(文責:青木 翔太)
EUはロシアのウクライナへの侵攻を踏まえて、2030年までにロシアの化石燃料への依存を脱却する「REPowerEU」計画を2022年3月8日に発表した。※1同資料によれば、EUは2021年に天然ガス消費量の約90%を輸入しており、その45.3%がロシアから輸入されている。また、同年でEUは石油の27%、石炭の46%をロシアから輸入していることから、EUの化石燃料におけるロシアへの依存度が高いことが分かる。
「REPowerEU」計画では、「天然ガス供給源の多角化」が取組の柱の一つとして位置づけられている。カタール、⽶国、エジプト、⻄アフリカ地域などからの液化天然ガス(LNG)の輸入や、アゼルバイジャン、アルジェリア、ノルウェーなどからのパイプライン経由の天然ガスの輸入チャネルの増加や、2030年までにバイオメタンやグリーン水素※2の生産・輸入の拡大が示されている。ロシアへの天然ガスの依存度が高いドイツは、「REPowerEU」計画の発表に先駆け2022年3月5日に国内初となる液化天然ガス(LNG)輸入ターミナルを北部のブルンスビュッテルに建設することを発表している。※3同ターミナルの建設は、ドイツがロシアとの天然ガスパイプライン「ノード・ストリーム2」の承認手続きを停止したことが背景とされる。このターミナルの完成により船舶によるLNG運搬による輸入が可能となるため、結果としてEUのロシアへの天然ガス依存の低減に貢献することになる。
また、EUは、化石燃料への依存を解消するために、太陽光発電と風力発電による再生可能エネルギーの拡大や住宅を含めた建物へのヒートポンプの導入推進にさらなる支援を行う予定だ。EUはこれらの政策の実施により、少なくとも1,550億m3の天然ガスが削減され、2022年末にはロシアからの輸入を3分の2程度減らすことができるとしている。
上述のように、同計画はロシアへの天然ガス依存の低減に関する取組に焦点が当てられているが、EUが2021年7月に発表した2030年までに温室効果ガスを1990年対比で55%削減するための政策「Fit for 55」を考慮した計画とされている。このため、EU内でもエネルギー消費量が多い産業・運輸・建築部門において、エネルギーの効率化や最終エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの割合の引き上げが行われることで、2030年までにEUの化石燃料の輸入への依存度は低下するだろう。
一方、2022年3月23日に発表されたEUのガス備蓄に関する共通政策において、EUは加盟国に対して2022年11月までに天然ガスの備蓄容量を80%、2023年以降には90%に引き上げることを義務づけており、天然ガスの安定供給に向けた短期的な措置も講じている。また、天然ガスの貯蔵施設を保有していない加盟国に対して、2022年11月までに自国のガス年間消費量の15%相当以上を他の加盟国ガス貯蔵施設事業者から確保することも義務づけている。さらにEUは、エネルギー供給の安全保障の観点から、前述のガス貯蔵施設事業者が安定供給に対するリスクがないことを示す認定制度の創設を予定している。※4
天然ガスの主要輸入国である米国は、「REPowerEU」計画の発表の同日にロシアからの化石燃料の輸入禁止を行ったが、EUは現時点においてロシア産天然ガスの輸入禁止までは踏み込めていない。ロシアへの依存度が特に高いドイツを中心に、天然ガスの即時輸入禁止による経済と社会の混乱を懸念する声が根強いことから、EUは当分の間ロシア産天然ガスへの依存度を引き下げる対応を行う方針だ。
参考資料
※1 European Commission
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1511
※2 再生可能エネルギー由来の水素のこと
※3 ドイツ経済・気候保護省
※4 European Commission
https://energy.ec.europa.eu/system/files/2022-03/Proposal_for_a_Regulation.pdf