プラスチックに関する新たな国際条約に向けた交渉が開始される                           ~EUの役割に期待を寄せる~

(文責:青木 翔太)

 2022年3月2日、ケニアの首都ナイロビで国連環境総会(United Nations Environment Assembly:略称UNEA)が開催され、175か国の国連代表団が、プラスチック汚染を抑制するための国際条約に向けた交渉を開始することに合意した。本会合における決議内容を、以下に示す。※1

・海洋環境及びその他環境におけるプラスチック汚染は、越境性を有しており、地球規模における喫緊の課題である。

・プラスチックのライフサイクル全体を踏まえた対策を講じる必要がある。

・プラスチックの有用性を認識しつつ、世界規模で効果的かつ進歩的なプラスチック汚染対策への行動を促進することが緊急に必要である。

・政府間交渉委員会は2022年後半から協議を開始し、2024年までに条約案をまとめることを目指す。

 上述のように、合意された決議内容にはプラスチックに係る資源循環の必要性が示されており、国連加盟国のサーキュラーエコノミーへの転換が促進されることとなっている。

 ここで、世界に先駆けてサーキュラーエコノミーを推進してきたEUのプラスチックに関する取組に目を向けてみよう。EUは、2019年7月に「特定プラスチック製品の環境負荷低減に関わる指令(EU)2019/904」を施行し、2021年までにストローやカラトリー(フォーク,ナイフ,スプーン等)といった特定のプラスチック製品の使用を禁止する措置をとっている。また、2020年3月に策定された「新循環型経済行動計画 」では、リサイクルプラスチック材の含有量に関する必須要件、マイクロプラスチックと生物由来・生分解性プラスチックの使用に関する規制措置が盛り込まれており、EUは、グローバルレベルでサーキュラーエコノミーを先導することを明確に謳っている。※2

 一方、日本国内では2022年4月から「プラスチック資源循環促進法」が施行される予定となっており、プラスチックの3R(リデュース=削減、リユース=再利用、リサイクル=再資源化)に加え、「リニューアブル=再生可能」を促進する措置が掲げられている。環境省が2022年3月9日に公表した同法の措置事項を見る限りでは、プラスチックの削減(=リデュース)に向けた取組は、「プラスチックの提供事業者が取り組むべき判断基準を策定する」といった内容に留まっている。取り組むべき判断基準では、特定のプラスチック製品の提供事象者が、消費者に対して製品を有償で提供することや製品の繰り返し使用を促すことなどが挙げられている。※3このことから、特定のプラスチック製品の使用を禁止しているEUの措置と比べて、日本のプラスチックの排出削減への取組には温度差があることが分かる。

 今後、国際条約の制定に向けて協議が開始される政府間交渉委員会では、国別行動計画の策定・実施・更新に加えて、科学的知見や優良事例についても議論されることから、日本をはじめとする各国のプラスチックに関する法規制の内容が、EUの規制措置を規範に変化していくことが想定される。協議におけるEUの先進的な規制内容の提案が、プラスチック汚染対策としてより効果のある国際条約の制定に繋がることを期待したい。

参考資料

※1  環境省

https://www.env.go.jp/press/110635-print.html

※2  Circular Economy Action Plan

https://ec.europa.eu/environment/pdf/circular-economy/new_circular_economy_action_plan.pdf

※3  環境省

https://www.env.go.jp/press/109195.html