ドイツはEUタクソノミー規則に先駆けより仔細なドイツサステナビリティコードを規定している。

(文責:坂野 佑馬)

 2019年12月に欧州委員会(EC)から発表された欧州グリーンディール[i]の目的は2050年カーボンニュートラル達成である。EUはこの目標達成へ向けて、2030年までに少なくとも1兆ユーロ(約130兆円)のサステナブル投資を行う投資計画を開始した。この資金を調達すべく、非財務情報の明確な指標と透明性を投資家へ提供し、ESG投資を活性化することを目的にEUタクソノミーは発案された。

 EUタクソノミー規則((EU)2020/852)は、2020年7月に施行された委任法(下位の政令や法令で定めることが可能)、「何が持続可能な経済活動なのかを具体的に分類(定義)したリスト」を指す。持続可能な経済活動の目標として、「気候変動の緩和」、「気候変動への適応」、「水・海洋資源の持続可能な利用と保護」、「サーキュラーエコノミーへの移行」、「環境汚染・公害の予防と管理」、「生物多様性・生態系の保護と再生」の6分野について規定している。

 2021年6月に、6つの環境目標のうち「気候変動の緩和」と「気候変動への適応」に関する委任規則が採択され、詳細な基準が定められた。2022年1月1日より、これらの委任規則が適用されることになり、従業員数500人以上の大企業と金融機関は規則に則った情報開示を義務付けられることとなった。

 今回のEUタクソノミー規則の適用に当たって、ドイツサステナビリティコード(DNK:Deutscher Nachhaltigkeits Kodex:サステナビリティ活動の報告方法を示したもの)[ii]では、EUタクソノミー規則に準拠した報告の仕様に対応しているかの確認作業を行っている。DNKの報告仕様はハンブルク大学のKerstin Lopatta教授によって作成され、弁護士であるAndreas Hecker氏によってEUタクソノミー規則に準拠しているかに関して法的な有効性を確認されている。

 DNKは、ドイツ政府の諮問委員会であるサステナビリティ開発委員会(RNE:Rat für Nachhaltige Entwicklung)[iii]が 2011 年に策定したものであり、EUタクソノミー規則よりも数年前に策定されている。規模や法的位置付けに関係なく、ドイツに限らず世界中の全ての組織・企業に対して非財務報告の枠組みを提供し、ステークホルダーへのサステナビリティ戦略に係る情報開示を目的としている。

 DNKでは非財務情報開示の基準を以下の20項目に分けて詳細に規定している[iv]

  1. 戦略(サステナビリティ戦略や施策等)
  2. マテリアリティ(企業が環境・社会へ与える影響、企業が環境・社会から受ける影響)
  3. 目標(定性・定量的な中長期のサステナビリティ目標)
  4. バリューチェーン(サステナビリティ事項へのバリューチェーン全体での施策)
  5. 責任(サステナビリティに係るコーポレートガバナンス責務)
  6. ルールとプロセス(日常業務におけるサステナビリティ戦略の位置づけ)
  7. 管理(KPIの報告、データの一貫性・信頼性の確保)
  8. インセンティブ制度(役員や従業員を対象とした協定や報酬制度の持続可能な目標への貢献方法と当該制度の長期的な価値創出との連携方法等)
  9. ステークホルダーの関与(ステークホルダーの特定と連携方法等)
  10. イノベーションと製品管理(製品・サービスのサステナビリティ事項へ対する影響)
  11. 天然資源の利用(事業活動が天然資源へ与える影響)
  12. 資源管理(資源の効率的な利用へ向けた定性・定量的な目標等)
  13. GHG排出量(GHG排出量、削減目標、結果)
  14. 従業員の権利(従業員の権利の遵守に関する施策と目標等)
  15. 機会均等(従業員の機会均等や多様性を確保する施策と目標等)
  16. 資格(従業員の育成に関する施策と目標等)
  17. 人権(人権尊重、人権侵害防止へ向けた施策と目標等)
  18. 地域コミュニティ(地域社会における市民活動への参加・貢献等)
  19. 政治的影響(立法手続き、ロビー活動、政治献金等)
  20. 法・政策の遵守(不法行為を防止するために整備された施策、基準、プロセス等)

 日本国内の動向に目を向けると、青山学院大学名誉教授/東京都立大学特任教授を務める北川哲雄氏を代表とした、「非財務情報の開示指針研究会[v](2021年6月)」と「一般社団法人ESG情報開示研究会[vi](2020年6月)」という2つの団体が設立されている。これらの研究会では、非財務情報の開示指針の世界的な動向について情報共有を行いながら、開示及び開示媒体の在り方について検討を行っている。また、経済産業省由来の「非財務情報の開示指針研究会」においては非財務情報の開示及び指針に関する日本の立場を的確に発信し、非財務情報の開示に関する国際的な評価を高めることを目指すとしている。

 現状として、日本は非財務情報開示において海外の動向を後追いしていると分析している。非財務情報開示への対応の遅れが、日本企業のグローバルな経済活動における足枷とならないためにも、日本でも同様な仕組みが早急に構築されることが必要ではなかろうか。僭越ながら、各個社には率先して斯様な海外の先進的事例に目を向けていただければ幸いである。


[i] EU_A European Green Deal

https://ec.europa.eu/info/strategy/priorities-2019-2024/european-green-deal_en

[ii] DNKの利点。

https://www.deutscher-nachhaltigkeitskodex.de/de-DE/Home/DNK/DNK-Overview

[iii] RNE_HP

[iv] DNKの基準概要。

https://www.deutscher-nachhaltigkeitskodex.de/de-DE/Home/DNK/Criteria

[v] 経済産業省_非財務情報の開示指針研究会。

https://www.meti.go.jp/press/2021/06/20210603004/20210603004.html

[vi] 100超の事業者、機関投資家、監査法人が参画(2022年3月現在)。