脱炭素化と水利用削減に繋がる有機農業 EUで有機農地への転換目標25%は達成できるか?

(文責:青野 雅和)

 有機農業の転換による効果は一酸化二窒素の排出を抑えると同時に、土壌で炭素貯留(二酸化炭素を吸収・固定)もできるため、温暖化対策の効果が高まり、国連食糧農業機関の報告では、有機農業システムでは、従来のシステムに比べて 1 ヘクタールあたりの CO2 排出量が 48 ~ 66 パーセント低くなると報告している[i]
 本稿は有機農業が脱炭素化にどの程度影響するかをお伝えするものではないが、有機農業を推進することでCO2 排出量が 48 ~ 66 パーセントと低くなるのであれば、この数値を見るだけで有機農業政策が脱炭素化に大きく貢献することがお分かりいただけると思う。なおEUの有機農業の状況に触れるが、その推進政策に対する欧州会計監査院の評価もお伝えする。

欧州各国における有機農業への転換状況

 欧州委員会は、2021年4月に、2030年までにEUの農地の25%を有機農業にするという目標「有機生産の発展に向けた行動計画(以下行動計画)」を公表した[ii]。行動計画は、欧州グリーンディールの中核戦略である「Farm to Fork(農場から食卓まで)戦略」に掲げられている目標の一つであり、気候変動への対応、環境保全、生物的多様性の維持といった目標に対し、農業分野からのアプローチが必要不可欠と位置付けられている。有機農業は、持続可能な農業を実現するためのパイオニアであると位置付けられているのだ。
 なお、行動計画を実現に導く為の欧州各国で構築された共通農業政策(通称CAP:Common Agriculture Policy)を確認すると、CAPに記載されている有機農業への転換目標数値は各国により違いが見られる。各国それぞれ自国の状況を踏まえての数値であろうが、最も高い目標はオーストリアの35%、次に30%としているのがドイツ、ベルギースウェーデン(全て2030年を目標としている)であり、最も低いのはマルタの5%である。では、現状における有機農業への転換状況はどうなのか?
 図1を見ていただくと、欧州各国の有機農業への転換状況(2019年)を確認いただける。各国で有機農業への転換状況は違い、オーストリアが最も高く25%となっており、マルタが最も低い状況である。
 CAPによりEUは有機農業の農地比率を2017年の7%、2019年の8%(図1)、2022年の10.5%から大幅に増加させる結果となっている。もちろん補助金による推進も展開されており、2014年から2022年にかけて、農家は共通農業政策の下で有機農業の実践を支援するために約120億ユーロを受け取っている。平行して、法規制も推進されており、2018年に有機生産および有機製品の表示に関する規則「有機生産および有機製品の表示に関する規則 (EU) 2018/848[iii]」を公表し、2023年に至る迄、数回にわたり付属書を改正している(2023年2月21日発行のバージョンが最新である[iv])。

図1 欧州各国における有機農業への転換状況(2019年)

出典:Eurostat(online data codes :org_cropar and apro_cpsh1)

2024年9月24日付けの欧州会計監査院の勧告

 さて、行動計画は歩みを進めているのであるが、欧州会計監査院が行動計画に対して9月24日に特別レポートを寄稿している。そして、その中でEU と各国の有機農業政策にはギャップがあると結論づけている。また、同院は行動計画を実現する為に、有機農業に対するEUの資金の戦略と有効性を改善するための勧告を記載している。以下にその勧告を引用紹介する[v]。3つの勧告に関して詳細が記載されているが、詳細は原文で確認頂きたい。本稿では省略する。

勧告1.有機農業に関するEUの戦略的枠組みを強化し、CAP(共通農業政策:Common Agriculture Policy)支援との連携を強化する。

勧告2.CAPにおける有機農業の環境目標と市場目標をより適切に統合する。

勧告3.有機農業の発展を評価するための関連データの入手可能性を確保する。 

 また、具体的なアクションとして、2030年までに25%の目標を達成するには、有機農業の導入を現在のペースの2倍にする必要がある(図2参照)と掲載している。そして、2023年末において「現行の政策と国民の支援により、有機農業の割合は増加する可能性が高いが、目標を達成するには十分ではない」と結論づけている。

図2:2030年までに25%の目標達成のための有機農業の導入ペースの比較

出典:EurostatおよびDG AGRI データに基づく ECA の計算。

 図1及び図2の勧告を見る限りは、EUにおける有機農業の導入を25%に引き上げるには非常に困難であることが伺えるが、日本の有機農業比率が0.7%(2022年:図3参照)[vi]である現状と比較するとEUの展開が如何に高い水準であるかが読み取れる。取り組み割合ではなく、面積の絶対量で見ると、オーストラリアが53,016千haと最も大きい。また、取り組み割合が共に0.5%と低い中国は2,898千ha、アメリカが2,060千haである。

図3 耕地面積に対する有機農業取組面積と面積割合(2022年)

出典:農林水産省

 さて、日本政府は2050年に有機農地を25%にすると公表している。これは化学農薬を販売しているJAが有機栽培に転換しつつあることもあることも一因であると推察される。 

 有機農業は脱炭素化のみならず、水利用の削減にも繋がる農法である。気候変動により、北海道では干ばつも起きている。弊社ではwater footprintも支援させていただいているが、食品加工に必要な水のリスクを考慮していくと、有機農業の重要性に辿り着く。気候変動対策のみならず、気候変動適応に有機農業が有効であることが、もっと世論に認知されるべきであろう。

引用

[i] https://www.fao.org/4/y4137e/y4137e02b.htm

[ii] https://agriculture.ec.europa.eu/farming/organic-farming/organic-action-plan_en

[iii] https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2018/848/oj

[iv] https://eur-lex.europa.eu/eli/reg/2018/848/2023-02-21

[v] https://www.eca.europa.eu/en/publications?ref=SR-2024-19

[vi] chrome-extension://efaidnbmnnnibpcajpcglclefindmkaj/https://www.maff.go.jp/j/seisan/kankyo/yuuki/attach/pdf/index-129.pdf