ドイツの気候保護政策
【気候保護プログラム】と【連邦気候保護法】

【気候保護政策の概要と変遷】

 ドイツの気候保護目標(当初)は、2010年発表の「エネルギーコンセプト※1」で示された「2030 年までに温室効果ガスの排出量を 1990 年比で少なくとも 55%削減し、2050年までにカーボンユートラルを達成する」ものであった。

 2015年、パリで開催された「国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)」にて、パリ協定(気候変動枠組条約)が採択された。パリ協定の目標は「世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃より低く保ち、1.5℃に抑える努力をする」ことである。

 以下、変遷を説明する。

 ドイツ政府は、「パリ協定の締結に尽力した」こと、「世界有数の工業国として、地球規模の気候変動に対して特別な責任を担っている」ことを公言しており、国際公約である「気候保護目標」を確実に達成し、カーボンニュートラルに資する技術革新の促進により近代的で競争力のある工業国であり続けることを目標としている。
 上記の背景より、ドイツ政府における気候保護政策のベンチマークは、パリ協定となっている。

 2019年、政府は「気候保護プログラム2030」を策定した。
 同プログラムにおいて、上記の気候保護目標(当初)を達成すると同時に、パリ協定による「国際公約」を遵守する為の施策を示した。また同年に「連邦気候保護法」が施行され、気候保護目標に法的拘束力が付与された。

 2021年、環境活動家(”Fridays for Future”※2のメンバー)による提訴を受けた連邦裁判所は、「連邦気候保護法」について一部違憲の判決を下す※3。この判決を機に法改正が行われ、2030年の気候目標が、55%削減から65%に引き上げられた。また、カーボンニュートラルの達成目標についても、2050年から2045年に繰り上げられた。

 上記の改正を受け「気候保護緊急プログラム2022」が策定され、嵩上げされた目標を確実に達成する為の追加の施策及び投資を定めた。

※1:エネルギーヴェンデ(転換)に至るエネルギー政策の礎:「エネルギーコンセプト」 - BAUM Consult

※2:※:“Fridays For Future”(未来のための金曜日):Fridays For Future is an international climate movement active in most countries and our website offers information on who we are and what you can do.
 スウェーデンのグレタ・トゥーンベリ(当時15歳)が、気候変動に対する行動の欠如に抗議するために、毎週金曜日にたった一人で国会前に座り込みをした(2018年)。この行動に共感を覚えた若者達が主導する国際的な運動(ムーブメント)のこと。

※3:詳細は、後段にて説明。

【気候保護プログラム】と【連邦気候保護法】の変遷

出典:“Key elements of the Climate Action Programme 2030”他より、B.A.U.M. Consult Japanにて整理

【気候保護プログラム2030:Klimaschutzprogramm 2030】の概要

①:2019年9月:【気候保護プログラム2030】策定

 気候保護プログラム2030は、GHG排出量を2030年までに1990年比55%削減する目標を達成する為のセクター別の施策を示したものである。
 ドイツ政府は、全てのセクターが行動を起こさなければ、この気候保護目標を達成する事は不可能だと考えている。従い、同プログラムにおいて、セクター別の施策を示している。
尚、政府は、これらの施策を実行する為に、2020年から2023年の間に少なくとも540億ユーロの拠出を表明している。

【気候保護プログラム2030が示す部門別における対策とGHG排出量の削減目標】

出典:“Key elements of the Climate Action Programme 2030”より、B.A.U.M. Consult Japanにて整理

【連邦気候保護法:Bundes-Klimaschutzgesetz:KSG】の概要と変遷

②:2019年12月:連邦気候保護法施行

 連邦気候保護法は、気候保護プログラム2030を確実に実施し、2030年の目標(GHG排出量:1990年対比55%削減)並びにパリ協定による国際公約である目標を達成する為の法律である。尚、本法は、気候保護目標を制定した世界初の法律であった。
 本法の目的は「地球規模の気候変動の影響から保護するために、各国の気候保護目標の達成と欧州の目標の遵守を確実なものにする」ことであり、「生態系、社会的、経済的な影響を考慮」されたものである。また「国連気候変動枠組条約に基づくパリ協定の公約」を遵守するために「地球規模の気候変動の影響を可能な限り抑えるために、世界の平均気温の上昇を産業革命以前の水準より2℃を大きく下回り、可能な限り1.5℃に抑える」ことである。

③:2021年4月:連邦憲法裁判所による違憲判断

 連邦憲法裁判所は、現行の連邦気候保護法の一部が、ドイツ基本法20条a項に違反しているとの判決を下した。
 判決要旨によると、同法において2030年までの目標(1990年対比55%削減)は示されているものの、2031年以降について明確に示されていない。即ちそれは、将来世代の自由の権利を侵害していることに他ならない。従い、立法府は、遅くとも2022年12月31日までに2031年からの期間の削減目標を更新する義務があるとした。尚、訴えを起こしたのは“Fridays for Future”の若者である。

※:「ドイツ基本法20条a項」において、国には将来世代の為に自然を保護する責任があることが示されている。
ドイツの環境保護政策の原則 - BAUM Consult Japan

④:2021年6月:改正連邦気候保護法可決

 憲法裁判所の判決を機に、連邦気候保護法は改正された。
 本改正により2030年までの削減目標が55%から65%に引き上げられたほか、2040年までの削減目標が88%と明示され、カーボンニュートラルの達成目標が2050年から2045年に繰り上げられた。
 同時に、セクター別のGHG排出量についても、2020年から2030年までの上限値が定められた。

【連邦気候保護法で定められた年間GHG排出量削減目標値の推移】

出典:“Bundes-Klimaschutzgesetz(連邦気候保護法)”より、B.A.U.M. Consult Japanにて作成

【法改正により定められた部門別2022年から2030年までの年間許容GHG排出量(100万t-CO2 )】

出典:“Bundes-Klimaschutzgesetz(連邦気候保護法)”より、B.A.U.M. Consult Japanにて作成

【気候保護緊急プログラム2022:Klimaschutz Sofortprogramm 2022】の概要

■2021年6月

 気候保護緊急プログラム2022は、連邦気候保護法の改正に伴い引き上げられた目標を達成するために追加の具体策を示したものである。また、このプログラムを実行するにあたり、2022年予算から約80億ユーロの追加資金を拠出する。

【部門別施策と政府による追加資金】

出典:“Klimaschutz Sofortprogramm 2022”より、B.A.U.M. Consult Japanにて作成