弊社は、コンサルティングメニューの1つとして「Water Footprint 算定支援」に力を入れています。

Water Footprintとは、、水を利用(消費)したあらゆる製品の栽培や生産、製造や加工、輸送、流通、消費、廃棄そしてリサイクルまでの「製品のライフサイクル」を対象に、製品が及ぼす水環境の影響を定量的に算出することを指します。

弊社がWater Footprint算定支援を行った、「農業法人 有限会社 わくわく手づくりファーム川北」様にインタビューをさせていただきました。本稿では、その内容を紹介します。

【企業様のご紹介】

✅ 農業法人 有限会社 わくわく手づくりファーム川北

石川県能美郡川北町に本社を構える農業法人で、1998年に設立された。
主に、地元資源を活用した無農薬や低農薬の麦栽培から、クラフトビールの醸造、さらにはそのビールの直販までを手がける一貫したビジネスモデルを展開。
石川県最大の一級河川である手取川の伏流水を活用したビール造りが、同社のアイデンティティの一部を形成する。

【Water Footprint 算定支援の概要】

同社に対するWater Footprint算定支援においては、下記のようなプロセスを算定の対象とし、水の消費量を算定しました。

  1. 原材料調達: 六条大麦、二条大麦などの中味原料、およびアルミ缶、ガラス瓶などの容器包装の製造時および輸送時における水の消費。
  2. ビール製造: ビール製造工場内での、製造プロセス(醸造、洗浄、冷却、ラベル貼付、など)における水の消費。
  3. 流通・販売: ビールの配送および店舗での保管・販売におけるエネルギー消費など、間接的な水の消費。
  4. ビール缶・瓶の廃棄: アルミ缶、ガラス瓶の焼却処理、埋立処理の際の水の消費。

はじめに:豊かな水の地で育まれたビールづくり

石川県川北町―手取川の恵みを受けたこの地域は、古くから清廉な伏流水と広大な田園に支えられてきた。

「この辺りは水が豊かで、昔から水に困ったことがない地域でした。」と語るのは、クラフトビール製造を手掛ける (有) わくわく手づくりファーム川北の専務取締役を務める 入口峰人 氏だ。

地域の人々にとって水は「空気のように当たり前の存在」であり、長く節水や環境配慮の意識が強く根付いていたわけではなかったという。

気候変動と水資源の変化を実感

しかし、ここ数年でその「当たり前」は変わりつつある。

「数年前、初めて田んぼ全体が水で浸かるような大雨がありました。避難したのは初めてで、環境の変化を実感しました。」と入口氏は振り返る。

また、現在の立地に移転する前の旧ビール工場では、豪雨後にビールの仕込水として利用する地下水が濁る(砂が混じる)など、水質変化の経験もあった。気候の変化とともに、地域の水循環が確実に変化していることを肌で感じたという。

ウォーターフットプリント(Water Footprint:WF)との出会い

そんな中で同社が取り組んだのが、Water Footprintとその算定である。

「ヨーロッパのビール業界では、水使用量を明確にして発信していると聞いていましたが、正直 “向こうの話”だと思っていました。でも実際に算定してみると、“水が資源“であることを、身近な話として捉えられるようになりました。」

Water Footprint算定の取組を通じて、製造工程のどこでどれだけの水を使っているかを可視化。とりわけ洗浄工程での使用量に注目し、「今までは醸造用タンクの洗浄には無制限に水を使用していましたが、Water Footprintの算定を実施してからは洗浄時の放水時間を測定して無駄を減らすようになった。」と、具体的な行動変化が起きたそうだ。

外部からの評価と社内への波及

Water Footprintの取り組みは社外からも評価を受けた。

同社が取得している「ISO 22000(食品安全マネジメント)」の審査では、Water Footprint算定の取組が高く評価され、ポジティブな要素として加点された。」とのこと。良い取り組みであると伝えられたことが嬉しかったようだ。

また、営業時にも「当社ではWater Footprint算定に取り組んでいます。」と紹介する場面が増え、企業としての信頼向上にも繋がっているのではないかと期待していると、はにかみながらお話された。

“水の責任”を共有するという意識

Water Footprint算定を経験したことで、入口氏の中に「水を使う責任」が芽生えた。

「ビールはほとんどが水。だからこそ、無責任に使うのではなく、環境のことを考えて使っていく必要があると思うようになりました。」

石川県で初めての取り組みであり、手取川流域でも唯一Water Footprint算定に取り組んだ同社は、今後、他の酒造や飲料メーカーにも広がっていくことを期待している。

写真: 手取川の伏流水を活用したビールの冷却工程

出所: 農業法人 有限会社 わくわく手づくりファーム川北 から提供

地域へ広がる“流域の共感”

入口氏は、手取川流域全体での連携の必要性も感じている。

「弊社(わくわく手づくりファーム川北)だけが意識してもだめだと感じます。。やはり流域全体で取り組まないと、本当の意味での水資源の保全や水の適正利用の効果は出ないと思います。」

今後は、手取川流域全体(川北町や白山市、野々市市、能美市、小松市)などの自治体とも連携し、水資源を守るための観光・教育プログラムの展開が必要だ。手取川流域の豊かな自然を背景に、「水を通じた地域づくり」が次のステージとなるだろう。

まとめ:見える化がもたらす“気づき”

Water Footprint算定は、単なるデータ収集ではなく、「地域と水の関係性を再発見するプロセス」である。

豊かな水を当然と感じていた企業が、「自分たちの水をどう使い、どう守るか」を考え始めたこと自体が大きな一歩だ。

当社の展開が、手取川の流れのように、この取り組みが地域全体へと静かに広がっていくことを期待し、弊社としても当社の取り組みを今後も支援させていただきたいと感じている。